ウィルグループ:職種特化の人材派遣で安定的成長続く、今期業績予想は上方修正
同社の事業モデルは「カテゴリー特化」と「ハイブリッド派遣」によって差別化されている。特定職種に絞り込み深いノウハウを積み上げる戦略により、セールス、コールセンター、ファクトリー、介護、建設技術者など、後発ながら各カテゴリーでトップクラスのシェアを確立した。とりわけ強みとされるハイブリッド派遣は、派遣スタッフの現場に正社員であるフィールドサポーター(FS)が常駐し、定着支援と品質管理を担う仕組みである。派遣スタッフの早期戦力化と離職防止を両立するこのモデルは、他社が容易に模倣できない運営体制であり、業績成長の基盤となっている。FSは派遣スタッフと顧客の双方と直接向き合うため、非常にタフな職務であり、会社に対する社員の強いエンゲージメントが求められる。また、支店の社員も、現場の最前線で派遣スタッフや顧客対応を担うFSの職務がいかにタフであるかを理解し、全力でサポートしている。このように、高いエンゲージメントと成熟したオペレーションの両輪が確立されていることが、他社には真似できない強みとなっており、単なる派遣会社ではなく、成果を出すためのPDCAを回していくことで派遣スタッフとクライアントに貢献している。
2026年3月期第1四半期は、売上収益35,207百万円(前年同期比0.4%増)、営業利益394百万円(同2.2倍)と大幅増益を達成した。中期経営計画最終年度の1Qは、順調なスタートとなっている。国内Working事業では、建設技術者領域の拡大が寄与。積極採用とブランドプロモーションの実施により、コスト先行計画であったものの、建設技術者領域および正社員派遣、外国人雇用支援へ注力したことによる粗利の増加、販管効率の向上がポジティブに働いた。また、海外Working事業では、人材紹介はシンガポール、オーストラリアともに厳しい市況が続くものの、人材派遣においてはオーストラリアの州政府や金融系顧客において需要回復の兆しがあるという。ただ、前年同期と比較して為替が円高に推移したこと等がネガティブに働いたほか、前年同期に含まれる政府補助金収入の影響もあった。
9月22日には通期業績予想を上方修正し、売上収益140,400百万円(従来予想134,600百万円)、営業利益2,750百万円(同2,500百万円)へと引き上げた。修正の主因は建設技術者領域の好調に加え、セールスアウトソーシング領域をはじめとする既存領域における生産性向上である。営業現場の効率化や派遣単価の引き上げが進み、単価上昇はインフレ環境を背景としながらも営業努力による交渉力の強化が寄与したとみられる。また、海外 Working 事業において為替レートが計画対比で円安に推移していることも寄与するようだ。そのほか、第3四半期以降、海外 Working 事業の事業環境や国内Working 事業における採用費等のコストを保守的に見積もったもよう。
人材業界全体では、少子高齢化による人手不足が恒常化しており、特に建設・製造・介護といった技能職領域では需給ギャップが深刻化している。政府の特定技能制度拡充も追い風となり、同社の外国人雇用支援サービスが中期的な成長領域として注目される。また、AIやロボティクスの導入が進む一方で、現場での人的サポート需要は依然として根強く、ハイブリッド派遣が提供する人と仕組みの複合価値が評価されている。一方で、コールセンター領域は低迷している。コロナ禍で急増したワクチン受付等の政府行政案件の剥落が響いているほか、新規参入が増えたことがやや影響しているようで、今後はシェア1位の地位を活かしつつ、効率化と販管費最適化を優先する方針。海外Working事業も短期的には軟調であるが、人材派遣においてはシンガポールでは政府系案件が堅調に推移しており、オーストラリアも金融顧客案件の回復が見られる。全体として同社は「国内の粗利改善+海外の安定収益」により、利益体質の底上げを着実に進めている。
中期経営計画は最終年度を迎えており、基本方針として国内Working事業の再成長を掲げており、建設技術者領域の更なる成長・収益化を実現させつつ、建設技術者派遣以外の再成長を目指している。建設技術者領域の重点指標は定着率・採用数で、建設技術者以外の領域では正社員派遣稼働人数と外国人雇用人数となっているが、今1Q時点で建設事業者領域の定着率以外は順調に推移しているようだ。採用人数は、採用ノウハウの蓄積や外部エージェントとの提携による未経験採用の増加、外国人採用の増加により過去最高の814名を採用した。次期中計については建設・外国人・正社員派遣の重点領域を継続する方針であり、最高益の更新を目標として掲げる。
株主還元については累進配当を堅持しつつ、総還元性向30%以上を目安としている。減配を原則実施せず、増配または維持し、期中の業績進捗に応じ機動的な自己株式取得を都度検討している。2026年3月期の配当予想は、前期実績(1株当たり44円)を据え置き、総還元性向は65.2%の見通し。ただ、同社は流動性の低さを課題として認識しており、機関投資家の保有比率が高いなか、今後は個人向けIR活動の強化が重要となる。
総じて同社は、国内人材市場の構造的変化を背景に、カテゴリー特化戦略を深化させながら転換期を迎えている。特に建設技術者派遣を核に国内Working事業の再成長、海外事業は短期的な揺らぎを含むものの、政府契約型モデルによる安定収益を維持しており、事業ポートフォリオの分散効果が発揮されている。資本政策の柔軟化とIR強化を進める方針であるが、PBR1倍台に留まる現状は再評価余地が大きく、同社の今後の動向は注目しておきたい。
<FA>
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