高田工業所:今期は化学プラント定修の閑散期を織り込んだ計画、PBR0.5倍台かつ配当利回り4%超え
2025年3月期の受注高では、製鉄プラント35.2%、化学プラント46.3%、石油・天然ガスプラント2.0%、電力設備2.7%、エレクトロニクス関連設備・装置7.8%、社会インフラ設備0.7%、その他5.3%となっている。
同社の強みは、第一に技能社員を自社で多数抱え、他社が協力会社に依存する部分を内製化することで、安全性や品質の高さを実現し、顧客からの信頼を獲得している。全国各地に広がった拠点から迅速かつ効率的なサポート体制を提供し、厳しい法規制や様々な材質が存在するプラントにおいて、数多くの溶接有資格者が在籍する同社の溶接技術は全国トップレベルを誇る。第二に、建設と保全の両輪を備えた収益モデルを確立している点が挙げられる。定期修理や日常的な保全業務を通じたストック型収益は、景気変動に対する安定性を高めており、顧客にとっても安心感のある体制となっている。第三に、日揮株式会社との資本業務提携によりEPCキャパシティーの向上、共通DXの利用等を通じた業務効率化を進めている点である。
2025年3月期第1四半期業績は、売上高11,886百万円(前年同期比14.1%減)、営業利益400万円(同99.2%減)と減収減益となった。背景には化学・石油・天然ガスプラントの定期修理工事が閑散期にあたり、売上が減少したこと、さらに電力設備事業の不振が重なった点がある。また、連結子会社の収益性悪化も利益圧迫要因となった。ただ、製鉄プラント分野やエレクトロニクス分野は好調に推移しており、期後半以降の回復を見込んでいる。通期計画では売上高56,400百万円(前期比2.9%減)、営業利益2,240百万円(同23.6%減)を見込むが、これは化学プラント定修のマイナー年を織り込んでの計画である。受注残高は前年同期を上回る水準で推移しており、下期以降に案件が収益計上されることで進捗改善が期待される。外部環境の不透明感を踏まえつつも堅調な受注環境に支えられている。
市場環境については、プラント業界全体で原材料価格や人件費の上昇、米国関税措置といった不確定要素がある一方、脱炭素投資や半導体関連設備の増設といった需要は底堅い。特にカーボンニュートラルに向けた製鉄所の設備転換や、インフラ老朽化対応需要は長期的に追い風となっている。一方、化学・石油プラント分野は定修の周期性から年度ごとの振れが大きく、短期的な業績変動要因となる。ただ、これらは2年周期での繰り返しであり、来期以降の定修案件増加が再び売上押し上げに寄与する見込みである。
同社は本業の採算悪化や不動産事業の不振で2003年3月期まで2期連続で最終赤字となり、債務超過に陥っていた。これに対して福岡銀行が50億円の債権を優先株に転換する金融支援を実行していたが、昨年2月に優先株式の処理が全て完了、再建が完了したことで新たな成長フェーズへと移行している。
現状、2040年の創業100周年に向けて第5次中期経営計画(2022年度-2026年度)を遂行しているが、このような中、次期中期経営計画を見据えて2030年頃をマイルストーンとした「中長期の展望」を策定している。数値目標では、売上高700億円・営業利益35億円・ROE10%水準を掲げた。重点施策として、(1)SDGsへの取り組み、(2)挑戦をリスペクトする組織への変革、(3)設備技術産業の雄への挑戦、(4)新規事業領域への挑戦が挙げられている。具体的には、DX推進部を新設しICT投資を加速、生産性向上や競争力強化を進めるほか、外部企業とのアライアンスやM&Aによる新規事業開発も視野に入れている。装置事業では超音波を活用したSiCウエハ加工装置や、設備診断分野においては電流診断技術を活用してアクセス困難な設備への保全を可能とする「電流情報量診断システム」の普及を目指す。さらに、日揮との連携を深めることでEPC事業拡大に取り組み、既存の建設・保全収益モデルと組み合わせた持続的成長を志向している。
株主還元では、安定配当を基本としつつ成長投資とのバランスを重視しており、前期は年間配当70円を実施予定。中長期的には配当性向30%の確保を狙う。直近の株価水準では配当利回り4%を超え、PBRも0.5倍台に留まっていることから、バリュエーション面での割安感が残っている。IR活動の強化も課題に挙げているなか、個人投資家比率が高いことを踏まえた積極的な情報発信により企業価値の再評価を促す施策の検討も進めており、まずはPBR1倍割れ改善に向けての株価動向に注目が集まりそうだ。
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