Jストリーム Research Memo(9):業績好調につき、2025年3月期は上振れて着地する見込み
Jストリームは2025年3月期の業績予想で、売上高11,720百万円、営業利益698百万円、経常利益709百万円、純利益365百万円を見込んでいます。特に動画配信技術を強化し、顧客ニーズに応えるための企業体制の強化やM&Aを活用した事業領域拡大を進めています。主要ターゲットはSaaS企業で、医薬、EVC、OTT領域でのデジタルマーケティングや動画ソリューションの提供が中心です。COVID-19後のオンラインとリアルのハイブリッドモデルのビジネス展開を進める中、第2四半期では単体業績が好調に推移し、年間の業績予想を超える進捗を見せています。特にイノコスの大型案件が一時的収益を生み出しており、期末には業績予想の上方修正が期待されています。
3. 2025年3月期の業績見通し
2025年3月期の業績についてJストリーム<4308>は、売上高11,720百万円(前期比4.0%増)、営業利益698百万円(同23.2%増)、経常利益709百万円(同21.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益365百万円(同22.5%増)を見込んでいる。より一層スピードを増して顧客ニーズに対応するとともに需要の拡大に応えるため、案件対応能力や開発能力など企業体制を充実させる方針である。一方で、動画を利用して業務DXを図るSaaS企業などをメインターゲットにM&Aを実行し、事業領域の拡大を追求する考えである。期初の前提では、引き続き好調なOTT領域と、アフターコロナの反動減から一巡が期待されるEVC領域で増収を予想している。営業利益は、増収効果に加え、ビッグエムズワイで本社移転や人員整理などコストダウンによる効果を想定しており、増益予想としている。
ところが第2四半期は、単体業績が前提を超える勢いで順調に推移したところに、ビッグエムズワイとイノコスの好調が加わり、通期業績予想に対する営業利益の進捗率は59.0%(前年同期比2.0ポイント向上)となった。同社は業績修正の公表タイミングを東証の30%ルール※に従っている。また、特にイノコスの大型案件を一時的収益とみなしているため、業績予想を上方修正しなかったが、大きなマイナス要因もないことから、少なくとも期末の着地段階で上方修正される可能性が高まったと言えよう。
※ 30%ルール:東京証券取引所のルールで、公表された業績予想から売上高で10%以上、営業利益、経常利益、当期純利益で30%以上の増減があった場合、企業は開示する必要があること。
コロナ禍以降、DXによる産業構造の変化は著しいものがある。新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴いリアル回帰が進行したが、企業はコロナ禍でのWeb関連施策によって得られた知見を活かし、リアルとオンラインのハイブリッドな事業展開が一般的になると考えられている。第2四半期は実際にそうした事業環境となったことから、同社は下期に向けても期初の戦略を継続する方針で、DXの目的達成に最適化されたソリューションや、リアルと合わせたユーザー体験の高レベル化、セキュリティの強化を推進し、業容を拡大する考えである。
市場別戦略としては、医薬領域でデジタルマーケティングを中心としたサービスの提供、EVC領域ではビジネス全般における動画ソリューションの開発・提供、OTT領域では拡大が見込まれるネットコンテンツ配信サービスへの関与を強める方針である。具体的には、医薬領域では、2024年4月に発足したDET(製薬企業向けデータ活用支援チーム)という専門組織によって、Web講演会の主要顧客の薬剤ごとの営業やデジタルマーケティングの提案を強化する方針である。薬剤ごとの営業では、未開拓の大手・中堅の製薬企業へのアプローチを継続し、ニーズのあるハイブリッド講演会やユーザー利便性の高いオンデマンドを訴求することで業績の底上げにつなげる。コミュニケーションに有効なメタバース、XR映像ソリューションなどを活用することで提供価値を高め、新規顧客開拓を推進する。デジタルマーケティングでは、「WebinarAnalytics」のデータ連携、AIを活用した講演内容の文字起こしや要約、講演会後のコミュニケーションツールなどによって医師のエンゲージメントを向上させる。特に子会社クロスコによる、動画内容の要点を抜き出し短い動画として生成する「AIダイジェスト動画作成サービス」やライブ配信において字幕を自動で挿入する「リアルタイムAI字幕機能」を個別メニューとして提供を開始しており、好評となっている。現状、コロナ期の需要急増の反動減による販促活動の抑制と抑制からの回復がせめぎ合っているところだ。また、2024年4月に医師の働き方改革の新制度が施行されたことから新制度をフックにオンデマンドへのニーズも強まっているが、医師のデジタルマーケティングへの関心は引き続き高い模様で、抑制から回復へとシフトする顧客の背中を押す考えである。同社は医薬領域の売上高を前期比微減で見ているが、下期に向けて製薬企業や医師のオンラインニーズは強まっており、医薬領域の回復に期待したい。
EVC領域では、教育・トレーニングや社内情報共有は引き続き堅調である。イベント・セミナーは企業活動のリアル回帰が進んだ一方でユーザーのオンラインニーズが引き続き強く、今後ハイブリッド化が進む可能性が高いと考えられる。また、コロナ禍を背景に動画などのリソースが蓄積されたが、それらを適切に管理・共有して活用ができる企業は少ないようで、セキュアな情報共有の場を手軽に構築できるEQポータルは有効だと考えられる。このため同社は、EQポータルを軸に、2024年4月に立ち上げたプロダクト専任チームと代理販売店チームを使い分けて販売促進活動を強化し、大口顧客の育成を進める方針である。このうちプロダクト専任チームは、EQポータルを使った動画の利用用途別の施策を実施、代理販売店チームは、パートナーの種別やレベルに応じた支援施策で活動を促進する一方、パッケージ化されたサービスを中心にパートナーを通じた販売ルートの拡大を図る。大口顧客については、動画利用拡大の見込みのある顧客をターゲットに、企業活動の年間スケジュールに合わせた動画活用を複数の部署をまたいで提案、動画作成の内製化を支援する際は常駐や業務受託を通じて継続的なサポートにつなげる考えである。また、サイバー攻撃にさらされるリスクが高まる昨今、平時の負荷(大量アクセス)対策であるCDNと、有事のサイバー攻撃対策であるWAFを一括して提供することで、選定から導入に係るコストと運用負荷を軽減する「J-Stream CDNext WAFオプション」の提供を開始した。「VideoStep」では「J-Stream Equipmedia」と連携するとともに、新たな市場であるデスクレスワーカー向けの教育・トレーニングの支援の拡大を進める。さらに、円安で価格競争力が弱まる外資に対して、EQキャンペーンを打ってシェア拡大を図る。
OTT領域では、DXの加速やネットコンテンツ視聴の活性化を受け、単に動画配信を支援するだけでなく、マネタイズニーズへの対応など、動画ビジネスにおけるトータルテックパートナーを目指す。大規模配信やサイト運用などを総合的に担当するキー局などに対しては、マルチCDNなどを利用した配信品質の向上や、安定したサイト運用体制の提供を行い、既存顧客の維持と新規顧客へのサービス導入を図る。大型イベントについては、信頼性や世界的な大型スポーツイベントでの実績をアピールして関連案件の獲得を進める。BS/CS局やスポーツ、各種公営競技などのコンテンツ事業者に対しては、マルチアングル配信などの映像機能に加え、コンテンツ配信用のCMSや課金機能、キャンペーン展開ツールなど、海外SaaSを利用した動画配信とも組み合わせて利用できる各種の機能・ソリューションを提供し、顧客獲得につなげる。商品に封入されたシリアルコードを使って動画の限定配信を行うマストバイソリューション、動画ファイルのアップロードとメタ情報の登録が一度にできるメタマスタ管理ソリューション、KDDIとの協業深化によるデータセンター接続容量拡大などサービス基盤の整備も図る。コンテンツ配信・OTTサービスの展開に必要とされる基本機能を持ち、顧客のニーズに合わせて機能を自由にカスタマイズして組み合わせることができる、コンテンツ事業者向けCMS「Stream BIZ」の提供を開始した。
なお、同社はM&Aや出資をほぼ毎年1件のペースで積極的に実施している。M&Aによる2024年3月期の増収効果としては、ビッグエムズワイ、イノコス、VideoStepの3社で2,213百万円、連結売上高の20%を占めている。2025年3月期は今のところ新たなM&Aがなく、前期にM&AしたVideoStepの半期分のみ増収に寄与する見込みだが、常にM&Aを狙っているため、新たなM&Aにより売上高がオンされる可能性も少なからずあると思われる。もちろんM&Aの目的は、医薬領域では製薬企業への提案力強化、EVC領域では既存事業の規模拡大や新規市場の獲得、OTT領域ではAWS・クラウド専門開発などとしている。動画SaaSもM&A対象だが、バリュエーションが高騰しているため検討対象が少なくなっているようだ。一方、AIなどの発達によりSaaSをベースとしたスタートアップが増加すると想定しており、M&Aのターゲットとして注視している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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