
「総理、写真撮りませんか」。12月11日の衆院本会議で2025年度補正予算案が与党などの賛成多数で衆院を通過した後、高市早苗首相は恒例の与野党各会派を回り、補正予算案衆院通過へのあいさつを行った。冒頭の言葉は、野党ながら補正予算案に賛成した国民民主党の控室を高市早苗首相が訪れた際、玉木雄一郎代表が高市首相にかけた言葉。各会派へのあいさつはどこもほんのわずかな時間だが、高市首相は玉木氏の呼びかけに応じ、笑顔で握手をして報道陣の写真撮影に応じた。
国民民主党にとっては、ちょうど1年前の昨年12月11日、当時の自公政権時代に自公両党との間で、ガソリンの暫定税率の廃止と、所得税がかからない「年収の壁」103万円の178万円への引き上げを「目指して、来年から引き上げる」ことで合意書をかわした。ガソリン暫定税率は、野党の求めに応じて年内廃止が決まり、103万円から現在160万円まで引き上げられた「年収の壁」は、国民民主の要望に応じ、さらに引き上げられる可能性が浮上。1年の時をへて「満額」により近づきつつある状況が、高市首相を出迎えた際の空気感にも漂っていたように感じた。
高市首相はその後、連立を組む日本維新会の控室にも足を運んだ。吉村洋文代表以外の国会議員団の幹部がそろい踏みで、高市首相を迎えた。1人1人と握手をした高市首相は、藤田文武共同代表のもとに戻り、玉木氏の時と同じようにカメラに向かって握手をかわした。高市首相はにっこり笑顔だったが、藤田氏はそこまでではなく、ひととおり撮影に応じた後、高市首相は部屋を出て行った。
少数与党だった自民党のラブコールに応じてこの臨時国会から連立に踏み切り、与党の立場となった維新。ただ、「センターピン」と吉村代表が呼び、連立合意書にも記されている議員定数削減に関する法案が特別委員会での審議入りすら応じてもらえず、維新内では不満が渦巻いている。
藤田氏は、その後の取材に、合意書に「成立を目指す」とある中で、成立に至らなくても法案提出で目的は履行されたと考えるか、と問われ「総合判断」とした上で、「目指すと言っているのは形式上のことではない。関係者全員が全力で取り組んでくださいというのが、当然の信頼関係」「せっかく出した法案については、最終最後まで成立を目指すのが当たり前の筋」と筋論を口にし、「嫌な議論を先送りする国会は、私は、終わっていると思う」と強い口調で述べた。
それでも、国会会期末のの17日まであと数日。与党内では、会期延長を求める声もあるというが、自民党関係者に話を聴くと「年末には26年度の予算案編成もある。国会延長など、だれも考えていないだろう」。
永田町ではよく「永田町文学」という言葉が使われる。「前向きに検討」は、事実上「やる気がない」とみなされ、「近いうちに」も事実上「先延ばし」と訳されるが、「目指す」は文字通りの「目指す」。実際の実現まで考えられているものではない、とみられている。国民民主が昨年結んだ幹事長合意でも「いわゆる『103万円の壁』は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる」と「目指す」の文言があり、「目指す」とされた今年からの178万円への引き上げは、まだ実現していない。
高市首相のあいさつ回りを受けた藤田氏の表情と対照的に、満面の笑みだった玉木氏の国民民主党には、維新が万が一、連立を離脱したケースになった場合、新たに連立入りするのでは、との臆測もにわかに浮上しているという。国民民主は補正予算案に賛成し、肝いりの年収103万円の壁の178万円への引き上げも、自民党との間で協議の過程にある。
高市首相のあいさつ回り後の取材時、国民民主の連立政権入りの可能性について質問が出たが、玉木氏は記者に「率直な質問をされますね」と述べ、ひと呼吸を置いた。
そこからどう答えるか見守ったが、「その以前に、今、国会が動いていて、すでに法律が提出されて審議が行われている企業・団体献金規制の合意形成を急ぐべき」と、直接の言及はしなかった。「この問題の解決がないと連立は考えられない?」との更問いにも連立の是非には触れず、否定も肯定もしなかった
国民民主は自公政権時代、連立入りの臆測もあったが実現しなかった。高市政権では維新が新たな連立パートナーとなり、先を越された形となった。ただ、「ベースは少数与党で、基本的には綱渡り」(自民党関係者)の高市政権では、協力相手のパートナー選びも同様。今の維新との関係が、26年間連立を組んだ公明党とのような強固さと見る向きは少ない。
今回、維新が求める議員定数削減法案については、与党内でも「こんなものが通ってしまって、誰が得をするのか」(関係者)の指摘がある。「国会は、維新の『点数稼ぎ』の場ではない」(野党議員)との苦言も聴いた。17日の会期末へ、臨時国会はどんな結末を迎えるのだろうか。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)
