
『アクト・オブ・キリング』、『ルック・オブ・サイレンス』で世界的に注⽬を集めたジョシュア・オッペンハイマー監督が主演にティルダ・スウィントンを迎えた黙⽰録的ミュージカル『THE END(ジ・エンド)』(12.12公開)。この度、社会派で広く知られる監督がなぜ、終末世界を舞台にしたミュージカルをテーマに選んだのか︖本⾳を歌わないミュージカル、富豪の現実逃避、存在しない⾃然ー3つの<嘘>を通して紐解く、インタビューテキストを解禁致します。
舞台は、環境破壊によって居住不可能となってから25年後の地球。⺟、⽗、息⼦の3⼈は、⺟の親友と医者、執事とともに豪奢な地下シェルターで暮らしていた。ある⽇、⾒知らぬ少⼥がシェルターに現れ、彼らの⽇常は⼀変する。外の世界を知らない世間知らずの息⼦は、外の世界を知る来訪者に⼼を奪われる。そして、家族をつなぎとめていた繊細な絆が急激にほころび始め、⻑く抑え込んできた後悔や憤りが⼀家の均衡を乱しはじめる――。
監督は、1960 年代インドネシアで起きた⼤量虐殺を加害者の視点で描いた『アクト・オブ・キリング』(2014)で第86回アカデミー賞®⻑編ドキュメンタリー部⾨にノミネートされ、続く『ルック・オブ・サイレンス』(2015)では被害者の視点から同事件に迫り、世界的評価を獲得したジョシュア・オッペンハイマー。社会派で広く知られる彼がなぜ、終末世界を舞台にしたミュージカルをテーマに選んだのか︖3つの<嘘>を通して、監督のインタビューから紐解く。
(嘘1)本⾳を歌わないミュージカル
通常、ミュージカルの歌唱シーンは登場⼈物の⼼の声を浮き彫りにすることが多いが、本作ではその逆だ。少⼥の出現や息⼦の成⻑など現実によって「幻想の泡が破られた時、登場⼈物は必死に嘘を固め、さらに新たな嘘を継ぎ接ぎで作り上げるために歌う」という。監督は、歌には観客が⾳楽を通して登場⼈物と同じ錯覚に⼊り込む効果があると語る。「メロディが確⽴されると、観客は彼らと共に⼝ずさむことになる」「登場⼈物たちが⾃らに語る嘘を体感し、その嘘に⾝を委ねるのだ」――キャッチーなリプライズが繰り返されることで、観客⾃⾝も“⾃⼰欺瞞の⼼地よさ”に巻き込まれていく構造になっている。
(嘘2)富豪の現実逃避
「鉱⼭で3週間撮影したが、暗闇の中で夜を過ごし、⽇光を⾒なかった」と監督が語るように、撮影現場は完全に閉鎖された空間だった。映画『デューン』のサンドワームを思わせる巨⼤チューブ型の空気供給装置も、作品世界に独特の迫⼒を与えている。
当初は「虐殺を通じて権⼒と富を築いた寡頭⽀配者たち」を題材に、インドネシアで三作⽬を撮る構想を抱いていたが、『アクト・
オブ・キリング』公開後は安全上の理由から同国に戻れず、計画は断念せざるを得なかった。
その後、⽯油権益獲得のために暴⼒を⾏使しつつ、家族のために防空壕を購⼊した⼈物と中央アジアで出会い、再⾒した敬愛するミュージカル映画『シェルブールの⾬傘』が⼤きな転機となった。監督は、現実から逃避しつつ希望を夢⾒る彼らの⽭盾に着⽬。実際のモデルを撮影することは断念したが、地下シェルターで暮らす家族をミュージカルとして再構築することで、「絶望的な否認と希望というアメリカ的本質」を描くことができると考え、本作の⽅向性を形作った。
(嘘3)存在しない⾃然
「窓のない部屋に2時間半閉じ込められれば、誰でも閉所恐怖症になるでしょう︖」――監督の⾔葉を象徴するかのように、洞窟内部にかかるのは、ハドソン・バレー派に由来する「アメリカン・ルミニズム」と呼ばれるロマンチックなアメリカ⾵景画だ。「鉱⼭が外部を遮る中、部屋に飾られた絵画が窓として機能する」構造は、本作の世界観を⽀える重要な仕掛けとなっている。これらの絵画は、洞窟内部にありながら「実際には存在しない美しい⾃然を垣間⾒せる窓」として作⽤する。それは「失われた世界への⼀瞥」であり、「絵画を通して記憶され、理想化され、嘘として称えられる」⾵景である。まるで「両親が息⼦に語る過去の物語」のように、理想化された物語として部屋に飾られているのだ。さらに天井には天窓が設けられ、「ホワイトハウスに着想を得たこの採光窓からは⾃然光や⼈⼯光が差し込み、各部屋に拡散していく」と監督は語っている。
初めての⻑編フィクション作品を、終末後の世界をミュージカルという奇想天外な舞台に設定、黙⽰録的なテーマを<衝撃的なミュージカル>として作り上げたオッペンハイマー監督。主演はプロデューサーも務める⺟親役のティルダ・スウィントン、息⼦役にジョージ・マッケイ、そして⽗親役をマイケル・シャノンが演じるなど、実⼒派キャストが集結、それぞれが劇中で美しい歌声も披露しています。
監督︓ジョシュア・オッペンハイマー 脚本︓ジョシュア・オッペンハイマー ラスムス・ハイスタ―バーグ
出演︓ティルダ・スウィントン ジョージ・マッケイ モーゼス・イングラム ブロナー・ギャラガー ティム・マッキナリー レニー・ジェームズ / マイケル・シャノン
原題︓The End/2024年/デンマーク・ドイツ・アイルランド・イタリア・イギリス・スウェーデン・アメリカ合作/148分/シネマスコープ/カラー/デジタル/字
幕翻訳︓松浦美奈 配給︓スターキャットアルバトロス・フィルム 宣伝︓東映ビデオ
©Felix Dickinson courtesy NEON ©courtesy NEON
公式HP︓https://cinema.starcat.co.jp/theend/
公式X @THE_END_movieJP
