
急速に変化する市場環境の中で、オムニチャネルは単なる「リアルとネットの融合」を超え、企業や人材の在り方そのものを問うテーマへと進化しています。
その実践の最前線に立つのが、一般社団法人 日本オムニチャネル協会です。発足から6年、会員数は700名を超え、企業・業界の垣根を越えた“共創のコミュニティ”として存在感を高めています。
同協会を率いる鈴木会長は、「オムニチャネルの本質は、人と人がつながることにある」と語ります。縦割りが根強い日本社会において、なぜ“人づくり”が鍵になるのでしょうか。協会が生み出してきた共創の広がりと、1,000人規模を見据えた未来像に迫りました。
協会発足の原点:声をかけられたことから始まった「縦割り打破」への使命感
――本日はありがとうございます。まず、日本オムニチャネル協会を立ち上げられた経緯から伺えますでしょうか。
鈴木氏:実は、協会発足の4カ月前に、林さん(現専務理事)と逸見さん(現理事)から「鈴木さん、会長になってください!」と、お願いされたことが全ての始まりなんです。
最初は私自身も気軽に引き受けました。ところが、「具体的にどこまで決まっているんですか?」と尋ねてみたら、ほとんど何も決まっていない状態だった(笑)。まさにゼロからのスタートでしたね。
――そこから、会長としてどのようなビジョンを描かれたのでしょうか。
鈴木氏: 協会として「何をやるか」という具体的な活動が、最初から明確に決まっていたわけではありません。
ただ、私自身の中には、どうしても拭えない強い課題意識がありました。
戦後の日本は、驚異的なスピードで成長してきました。その一方で、企業や組織は細かく分業され、いつの間にか部門ごとのサイロ化、いわゆる「縦割り構造」が深く根付いてしまったのです。私は長年、この構造こそが、日本企業の成長を止めている最大の要因ではないかと感じ続けてきたのです。
だからこそ、その壁を取り払いたかった。
企業や業界の枠を越えて、本当に課題解決に向き合う人と人が出会い、つながり、動き出せる場をつくりたい——その思いが、何よりも強くありました。
オムニチャネルの本質は「人と人がつながること」
――“オムニチャネル”という言葉に対する、鈴木会長ならではの視点がありますね。一般的な捉え方とは少し違うように感じます。
鈴木氏: そうですね。従来の“オムニチャネル”は小売業で、リアルとネットをどう融合させるか、という技術的な文脈で語られがちでした。もちろんそれは大事な要素です。
ですが、私はこの言葉を、もっと深く、広く捉え直す必要があると考えています。私が思うオムニチャネルの本質は、“人と人がつながること”、そして最終的には「人づくり」にあると思っているんです。
アナログとデジタルが急速に融合していく中で、最終的に鍵を握るのは、この変化に対応できる次世代の人材だと確信していました。
だから、協会を立ち上げる時には、「人と人がつながる場づくりを通して、次の世代の人材を育てること」を協会の中心に据えました。縦割りを解消し共創の場をつくり、未来を担う人材を育成する――この2つを柱にして活動を進めてきたわけです。
異質なものがぶつかり合う!700名が動かす「共創のコミュニティ」
――実際の活動も非常に多岐にわたりますね。どのような場づくりをされているのでしょうか?
鈴木氏: おかげさまで、協会の活動の幅は年々広がっています。それは、会社や業界の垣根を越えて、さまざまな背景を持つ人たちが集い、対話し、共に考え、共に動き出せる「共創の場」をつくり続けています。立場や肩書きではなく、一人の人間として向き合える関係性の中からこそ、新しい発想や、本質的な変化は生まれると信じています。
たとえば、協会が主催する共創分科会では、マーケティング、物流、EC、データ活用など、さまざまなテーマを掲げて定期的に議論の場を設けています。そこには、課題意識を持った人たちが集まり、立場や業界の違いを越えて、本気の議論が交わされます。
そして協会の活動は、会員同士の議論だけにとどまりません。外に向けて開かれた取り組みとして、オープンセミナーや次世代育成アカデミーも継続的に開催しています。
さらに、協会では年に一度の海外視察をはじめ、月例交流会、忘年会、暑気払いといった、いわば“人と人が仲良くなる”ための交流イベントも、非常に大切にしています。
特に海外視察は、本当に面白い取り組みだと感じています。同じものを見て、同じ技術に触れていても、参加者それぞれの立場や経験が違うから、注目しているポイントがまったく違うんです。そのあと感想を言い合う時間になると、初めて気づかされるんです。
「そんな見方があったのか」「自分はそこにまったく目が向いていなかった」と、視点が大きく揺さぶられる。一人ひとりの気づきが重なり合い、意見が交差していくことで、議論は自然と深まり、思考はどんどん広がっていく。その場にいる全員の見ている世界が、少しずつ更新されていく感覚があるんです。
結局、イノベーションは、最初から会議室で生まれるものではありません。
信頼関係のある仲間同士が、それぞれの“異質な視点”を持ち寄り、ぶつけ合い、そして融合したときに初めて生まれる。その瞬間を、何度も見てきました。
――活動がスタートして6年、参加される方々に変化は感じますか?
鈴木氏: それはもう、大きく変わりましたね。
協会は今、会員数が700名を超え、もうすぐ1,000人が見えてきています。最初の頃は事務局が中心となって活動を牽引していましたが、今は理念に共感してくれる人々が本当に増えまして、自分たちで活動をつくるという、主体的な動きがコミュニティ全体に広がっているんです。これが一番大きな変化かもしれません。
参加者同士を見ていると、企業同士が組んで何か共創が起きることで、お互いの視野がどんどん広がっていくのがよく分かります。仲良くなって、そこから新しいビジネスが実際に生まれているケースも本当に多くなりました。私たちの理念である「異質なもの同士がぶつかったときにイノベーションが生まれる」ということが証明されているわけです。
最近では、会員が会員を呼ぶというケースも起きていて、大学や学生の参加も増えてきました。年齢の壁もどんどんなくなっていますし、九州支部が立ち上がるなど、地域的な広がりも出てきました。あと、他の協会と比べて女性の参加が多いのも、私たちの大きな特徴ですね。
もちろん、まだ協会の中で十分に活動に参加しきれていない方もいらっしゃいますので、そうした会員にも積極的に働きかけていく必要は感じています。

会員700名から1,000名へ。次のフェーズは「自走する次世代」
――今後の展望や挑戦していきたいことを教えてください。
鈴木氏: 今後の展望ですが、協会としてはここからさらに加速していきたいと考えています。1,000人という目標が目前に迫っている今、次のフェーズでは、より積極的に社会への貢献を広げたい。
特に大事にしたいのは、「次世代が自ら育っていく仕組みづくり」です。メンバーが主体的に動き、次の世代を育てていく。その循環を協会としてしっかりと確立したいです。
異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり、異質なものと異質なものがぶつかったときにイノベーションが生まれる場を、今後も提供し続けたい。
多様な参加者の皆様とともに、縦割りを壊し、社会全体へ良い影響を広げていくこと――それが、日本オムニチャネル協会が目指す未来です。

――協会の取り組みを社会へ発信する象徴的なイベントが「オムニチャネルDay」ですね。
鈴木氏: まさに。オムニチャネルDayは、協会が掲げる“共創”を社会に向けて発信する、象徴的なイベントです。
企業や業界の垣根を越えて多様な方々が一堂に会し、最新事例や知見を共有しながら、未来のオムニチャネルについて議論する場です。回を重ねるごとに参加者が増え、協会として社会における存在感が大きくなっていることを実感しています。
今やオムニチャネルDayは、私たちの取り組みを広く社会へ届けるためのハブとして機能していると感じています。
イノベーションを生み出す答えはここにある!未来のオムニチャネルを語り合う1Dayカンファレンスとは?
オムニチャネルDayの見どころは後編記事に続く…
