アメリカ国立電波天文台(NRAO)はこのほど、天の川銀河の中心付近に、これまで知られていなかった「巨大分子雲(GMC:giant molecular cloud)」が見つかったと発表しました。
この巨大分子雲は太陽の実に16万倍もの質量を持ち、星の材料がぎっしりと詰まった”星のゆりかご”ともいえる存在だといいます。
研究の詳細は詳細は2025年3月18日付でプレプリントサーバー『arXiv』に公開されました。
目次
- 分子雲は「星のゆりかご」?
- 太陽質量の16万倍もの巨大分子雲を発見!
分子雲は「星のゆりかご」?
夜空に輝く星々は、宇宙のどこでどのようにして生まれるのでしょうか?
その答えのカギを握るのが「分子雲」と呼ばれる天体です。
分子雲とは、水素や一酸化炭素を中心としたガスや塵が大量に集まった領域で、宇宙で星が誕生する場でもあります。
その中でも、全体の質量が太陽の10万倍以上に達するものが「巨大分子雲(GMC)」です。
巨大分子雲は直径が15〜600光年にも及び、星間空間の中でも最も冷たく、最も密度が高い領域として知られ、一度に数多くの星を一度に生み出すことができます。

しかし、分子雲は星が生まれる場所として重要視される一方、その形成過程や性質にはまだ多くの謎が残されています。
特に、天の川銀河の中心部に向かって物質が流れ込む通路となっている「塵の帯(Dust Lanes)」における星形成の実態は、議論の的となってきました。
一部の研究では、これら塵の帯の内部では星形成が抑制されるとも言われていましたが、最近の観測では、塵の帯に沿って若い星団が形成されていることも確認されており、その役割を再評価する動きが進んでいます。
このような背景の中で、研究チームは新たに天の川銀河中心にある巨大分子雲を発見したのです。
太陽質量の16万倍もの巨大分子雲を発見!
研究チームは今回、米ウェストバージニア州にあるグリーンバンク望遠鏡を用い、分子ガスのスペクトル観測を行いました。
その結果、地球から約2万3000光年の彼方、天の川銀河の中心付近にある「塵の帯」の中で、新たな巨大分子雲の存在が確認されたのです。
この巨大分子雲は「M4.7–0.8」と命名され、全長約195光年、幅65光年にもおよぶ構造を持ち、質量はなんと太陽の16万倍に達することが明らかになりました。

また、M4.7–0.8内には「ノットB(Knot B)」と「ノットE(Knot E)」という2カ所の星形成の候補となる領域も発見されています。
特にノットEは高密度で彗星のような構造を示しており、「自由浮遊蒸発ガスグロブール(自由に漂う蒸発性のガスのかたまり)」である可能性があるとされていますが、さらなる調査が必要です。
さらに巨大分子雲の内部では、ガスが秒速10キロ以上の速度で乱流しており、これは天の川銀河の中心分子雲帯(CMZ)に見られるような極端な環境に似ています。
つまり、今回の分子雲は単なるガスの塊ではなく、銀河の「星づくり工場」に物質を供給する“活火山”のようなダイナミックな構造を持っているのです。
星は夜空にただ瞬いているだけでなく、そこには銀河の奥深くで繰り広げられるダイナミックな誕生のドラマがあります。
今回発見された巨大分子雲「M4.7–0.8」は、私たちの銀河の構造や星の誕生の秘密を紐解くための新たなピースとなるかもしれません。
参考文献
Astronomers discover new giant molecular cloud in the Milky Way
https://phys.org/news/2025-03-astronomers-giant-molecular-cloud-milky.html
Unseen giant molecular cloud detected 23,000 light-years away in the Milky Way
https://interestingengineering.com/space/giant-molecular-discovered-in-milky-way?group=test_a
元論文
Discovery of a Giant Molecular Cloud at the Midpoint of the Galactic Bar Dust Lanes: M4.7-0.8
https://doi.org/10.48550/arXiv.2503.14174
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部