椿本興業:株主還元を積極化、省人・自動化ニーズ旺盛、新中計で株価は6割高も
同社は1916年に大阪市西区で創業、100年以上続く老舗の機械商社であり、動力伝達部品、設備装置、産業資材の3事業を中核に据えている。2025年3月期の事業別売上構成比は、動力伝達部品46%、設備装置46%、産業資材8%。セグメント別では、東日本本部が36%、西日本本部36%、中日本本部14%、開発戦略本部14%となる。動伝事業では、椿本チエイン<6371>との関係性が最も深い事業で、商品開発から納入まで強い協力関係を有する。変減速機、コンベヤチェーン、制御機器、センサーなど多岐にわたる部品を取り扱い、自動車や機械メーカーを中心とした製造業向けに展開している。設備装置事業では、FA(ファクトリー・オートメーション)システムや医薬・食品機械、ロボットSI(システムインテグレーション)を手掛け、省人化・自動化といった社会課題に応える製品群を揃える。産業資材事業は、医療・自動車向けを中心に、不織布や樹脂成形品等の高付加価値素材を提供している。
類似企業・競合には、ユアサ商事<8074>、山善<8051>、東京産業<8070>、西華産業<8061>などが挙げられる。中でもユアサ商事と山善は規模において先行するものの、同社は他社と異なる強みを有する。第一に、技術部門を社内に擁し、機械・電気・建築に精通した技術者による高度な技術提案が可能である点が挙げられる。第二に、施工管理部門を備え、製品の納入にとどまらず、据付工事・メンテナンスまで一貫対応できる体制を有している。第三に、全国40拠点超の販売網と12の販売会社を通じ、地域密着型で顧客のニーズに応える営業体制を整備している。さらに、長年に及ぶ多様なメーカーとの取引により、顧客に最適な製品を選定・提案できる技術力・柔軟性も大きな競争優位性となっている。
2026年3月期第2四半期の売上高は64,826万円(前年同期比14.5%増)、営業利益は3,175百万円(同23.7%増)と大幅な増益にて着地した。受注高については、過去最高を記録した前年同期よりわずかに減額したものの、省力化設備等の設備装置関連を中心に需要が高く、好調さを維持している。売上高については豊富な受注残高を概ね納期通りに売上計上した結果、前年同期を大きく上回った。通期では、売上高は125,000百万円(前年同期比0.5%増)、営業利益は6,350百万円(同5.5%増)を見込んでいる。
市場環境としては、自動車、物流、食品といった分野において、人手不足を背景とした省人化・自動化ニーズが高まっている。一方、半導体分野では一時的な需要調整が見られ、売上比率が従来の10%から7%程度に低下しているが、業界全体としては回復に向けた動きが見られつつある。中国市場の先行きには不透明感があるものの、米国を含む輸出市場では一定の成長余地が存在する。設備更新や脱炭素対応、DX投資といった構造的な変化も進んでいる。
同社は現在、中期経営計画「ATOM2025」の最終年度を迎えているが、中期経営計画の最終年度における財務目標の経常利益5,300百万円およびROE10%は、既に超過達成している。次期中計への移行に向けた戦略が注目されるなか、今年度は、成長分野(物流・ヘルスケア・環境・食品・交通インフラ・EV)に向けた新商品開発や国内販売拠点の要望に応じた特色ある輸入商品を発掘、商品数の増加を目指すなど重点業界の深耕を進める。また、人的資本への投資とサステナビリティ経営の推進も怠らず、次期中期経営計画につなげる1年とするようだ。創業110周年の2026年が初年度となる次期中期経営計画では、売上高1,500億円を目指す。
今後の成長ドライバーとしては、センシング事業や海外展開などが挙げられる。特にセンシング分野は現時点では売上構成比1%未満にとどまるが、深堀りによる拡大余地が大きいとされる。計測・検査装置、AI・IoTビジネスを拡大し、人手不足対応のための自動化、ロボット化、稼動監視等の需要環境の変化に合わせた次世代テクノロジーを導入することによって、更なる成長を目指すようだ。海外事業については売上比率20%への引き上げを目標としており、既存顧客の海外拠点向けを中心に販路拡大を進める方針である。M&Aについても、今後の技術領域・海外展開における選択肢の1つとして示されている。
株主還元方針としては、配当性向30%を目安に安定配当を継続する方針である。資金需要を踏まえつつ機動的な自己株取得の実施等、さらなる株主還元の充実を目指すようだ。2026年3月期も年間80円(中間20円、期末60円)を計画しており、安定性を維持しながら利益成長に応じた柔軟な還元を志向している。
また、株主優待制度も、株式分割による優待実質拡充に加えて優待内容を拡充し、増額や長期保有特典を追加した。QUOカード(100-300株で2000円-5000円)または公益信託への寄付(最大5,000円)を年2回提供しており、継続保有者向けの優遇措置も設けられている。時価総額510億円程度となる中、前期末時点でネットキャッシュ289億円程度有しており、財務体質は極めて健全。今後はM&Aを含む戦略的投資とのバランスを取りながら、さらなる株主還元の可能性も模索していく構えである。株価は上場来高値を超えて右肩上がりの上昇が続く中ではあるが、好調な業績と健全な財務体質を横目に、時代の要請に応えて挑戦と変革を続けている同社は持続的な成長が続きそうだ。
<HM>
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