アーバネット Research Memo(6):2025年6月期は増収増益。過去最高業績を更新
2. 2025年6月期の業績概要
アーバネットコーポレーション<3242>の2025年6月期の連結業績は、売上高は前期比21.3%増の33,933百万円、営業利益は同27.7%増の3,481百万円、経常利益は同14.9%増の2,787百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同8.8%増の1,850百万円と、計画を上回る増収増益となり、2期連続で過去最高業績を更新した。
「不動産事業」については、主力の都市型賃貸マンションが販売戸数減により減収となったが、その点は想定内である。テラスハウス分譲が好調であったケーナインの通年寄与(8ヶ月分の上乗せ)や用地売却※などが、業績の底上げに大きく貢献した。「ホテル事業」も、好調なインバウンド需要などに支えられ、稼働率・客室単価がともに上昇した。なお、計画を上回ったのは、計画になかった都市型賃貸マンションのプロジェクト1件の販売が第4四半期に実現したことに加え、ケーナインの業績が想定よりも好調に推移し、ホテル事業が堅調であったためだ。
※ 開発用地に対して好条件でのオファー(買取意向)があった場合、プロジェクト継続による採算性と、売却による利益や早期資金回収のメリット等を比較検討のうえ、用地売却も選択肢の1としている。
利益面では、用地価格や建設資材価格の高止まり、工事関連人件費の増加といった厳しい収益環境が続くなかで、採算性を重視したプロジェクト推進により高い粗利益率水準を確保した。販管費は、ケーナイン連結化に伴う費用増に加え、人的資本強化を目的とした採用増や給与引き上げ、本社オフィスの移転※費用などにより大きく増加した。さらに、有利子負債残高の拡大や緩やかな金利上昇に伴って支払金利も増加傾向にある。しかし、増収による収益の押し上げや粗利益率の改善によりカバーし、大幅な営業及び経常増益が実現した。
※ 2024年7月8日付で本社オフィスを霞が関ビルディング(35階)に移転した。M&Aを含む、さらなる人員拡充を見据えたオフィス面積の増床(約2倍)、優秀な人財の確保、より働きやすい環境の構築などが目的である。
財政状態については、順調な用地取得やプロジェクトの進行により棚卸資産が大きく増加し、総資産は前期末比32.7%増の62,322百万円に拡大した。自己資本は内部留保の積み増しや新株予約権の行使※に伴う新株発行により前期末比15.2%増の17,347百万円に増えたが、自己資本比率は27.8%(前期は32.1%)とわずかに低下した。有利子負債残高(リース債務を除く)は長短合わせて前期末比42.6%増の41,582百万円に拡大したものの、短期の支払い能力を示す流動比率は366.4%、有利子負債全体に占める長期有利子負債の比率は71.6%と高い水準にあり、財務の安全性に懸念はない。
※ 2023年9月11日付で発行した新株予約権(合計62,000個)のうち、2025年6月末までに42,000個(合計約16.5億円の資金調達)が行使された。なお、そのうち2025年6月期における行使分は28,000個(約11億円の資金調達)となった。
キャッシュ・フローの状況についても、営業キャッシュ・フローが順調な棚卸資産の積み上げに伴い大幅なマイナスとなったほか、投資キャッシュ・フローも本社移転に伴う有形固定資産の取得等によりマイナスとなった。一方、財務キャッシュ・フローはプロジェクト資金の調達及びシンジケーション契約締結に基づく長期借入金、新株予約権の行使に伴う新株発行等により大幅なプラスを確保し、それらの結果、期末の現金及び現金同等物残高は前期末比34.0%増の11,398百万円に増加した。
3. パイプラインの状況
2025年6月期末時点のパイプライン(都市型賃貸マンション)の状況は、順調な用地取得に伴い、2026年6月期の販売予定分(12棟552戸)を含めて約1,747戸を確保した。これにより、少なくても2028年6月期までは高い業績水準を維持できる見通しである。厳しい仕入環境が続くなか、ここ数年取り組んできた人財育成が軌道に乗り、キャリア採用との相互作用が機能していることが、この成果につながっている。仕入物件の中には、同社にとって2件目となる千葉エリアにおける大型プロジェクト「船橋プロジェクト」も含まれている。また、都市型賃貸マンション以外でも、「千歳烏山IIプロジェクト」(介護付き老人ホームの開発)や「ニセコひらふプロジェクト」(リゾート地での複合的な空間開発)、「八丁堀IIプロジェクト」(アパートメントホテル開発)といったプロジェクトも進行中である。さらに、ケーナインが展開するテラスハウスや戸建、アパートの開発用地も順調に取得している。
4. 2025年6月期の総括
2025年6月期を総括すると、計画を上回る大幅な増収増益となった業績面や順調なパイプラインの積み上げに加え、今後に向けた活動でも大きな成果上げた。特に、今後の持続可能な成長に向けた新たな軸や方向性が示されたところは注目される。具体的には、同社の信用力を後ろ盾とするケーナインの順調な事業の拡大、開発エリアの拡大(千葉エリア)、開発アセットの多様化(介護付き老人ホームやアパートメントホテルの開発、人気リゾート地での複合的な空間開発等)が挙げられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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