旭化成:中計での株主還元は2400億円を計画、PBR1倍割れと配当利回り3%越えで再評価余地大
旭化成<3407>は1922年創業、1931年設立の日本を代表する総合化学メーカーである。現在は「ヘルスケア」「住宅」「マテリアル」の3事業領域を柱にグローバルに事業を展開している。ヘルスケア領域では、医薬事業、ライフサイエンス事業、クリティカルケア事業を展開し、医療・生命科学分野で世界的に事業を拡大している。住宅領域では、主力ブランド「へーベルハウス」に代表される住宅事業や不動産開発事業を展開するほか建材事業にも裾野を広げている。マテリアル領域では、電子材料や自動車内装材、リチウムイオン電池用セパレータなどの素材を幅広く手掛け、自動車、エレクトロニクス、建設といった基幹産業を支える存在である。同社は化学を基盤に住まいと医療の領域に事業を広げた独自の成長モデルを築き、産業全体の中でも素材からライフソリューションまでを包括的に提供する稀有な企業グループとして位置づけられている。
【2026年3月期1Qはヘルスケア領域と住宅領域が牽引】
同社の2026年3月期第1四半期の連結業績は、売上高738,321百万円(前期比0.3%増)、営業利益は53,653百万円(同7.6%増)と増益を確保した一方、経常利益は49,957百万円(同7.0%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益については、特別損失として事業構造改善費用29,880百万円を計上したことなどが影響し、19,716百万円(同42.2%減)の大幅減益となった。財政状態を見ると、自己資本比率は46.0%と前期末の46.3%からわずかに低下したものの、おおむね安定的に推移している。
セグメント別に見ると、ヘルスケア領域は売上高155,126百万円(前期比6.4%増)、営業利益22,654百万円(同45.6%増)と大幅に伸長した。主に医薬品分野においてEnvarsus XRを中心とした主力製剤の販売量が想定以上に増加したことや、昨年度買収したCalliditas社の新規連結寄与により、収益を押し上げている。住宅領域も売上高258,908百万円(同9.5%増)、営業利益22,353百万円(同31.5%増)と増収増益を達成した。国内建築請負事業の平均単価上昇や不動産開発事業の販売戸数が堅調に推移し、採算改善も果たしている。海外住宅事業では需要調整の影響を受けるものの、全体としては高水準を維持している。一方、マテリアル領域は売上高316,576百万円(同9.7%減)と減収、営業利益も14,905百万円(同39.8%減)と大幅に減益した。石油化学関連事業を中心に定期修理や在庫評価の影響、加えて円高進行も収益を圧迫しており、セグメント全体で厳しい結果となった。
【中間期の業績予想を上方修正】
また、同社は2026年3月期第2四半期(中間期)の連結業績予想を上方修正した。売上高は1,504,000百万円と前回予想を8,000百万円下回る見込みだが、営業利益は105,000百万円(前回予想比10.5%増)、経常利益は99,000百万円(同4.2%増)、親会社株主に帰属する中間純利益は61,000百万円(同45.2%増)と大幅な増益計画に修正した。修正の背景には、医薬・ライフサイエンス事業における主力製品の販売拡大や、マテリアル領域でもエレクトロニクス事業やカーインテリア事業関連の販売が堅調に推移し、固定費削減と円安進行の追い風が寄与する見込みとなった。一方で、海外住宅事業は需要回復が想定より遅れたため下方修正となった。引き続きヘルスケア領域が牽引しつつ、マテリアル領域の採算改善が収益上振れを牽引し、住宅領域の一部停滞を吸収する構図となった。
通期予想については、今回見直しを行っていない。2025年5月9日公表の通期業績予想では、売上高3,117,000百万円(前期比2.6%増)、営業利益215,000百万円(同1.5%増)、経常利益216,000百万円(同11.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益125,000百万円(同7.4%減)としており、第2四半期連結決算発表時に見直しを行う予定としている。
【中期経営計画では約2400億円の株主還元の方針】
同社は「中期経営計画2027(Trailblaze Together)」において、2025年度から2027年度の3年間を対象期間とし、2030年度を見据えた成長戦略を掲げている。2027年度の主要目標は、売上高31,800億円、営業利益2,700億円、営業利益率8.5%とし、EBITDA4,960億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,740億円、EPS127.4円の達成を目指す。また資本効率の向上を重視し、ROIC6.0%、ROE9.0%を計画値として示している。キャピタルアロケーションにおいては、2025~2027年度の3年間で総額12,000億円規模のキャッシュアウトを見込んでおり、そのうち約80%は投資を実行する方針であり、約20%を株主還元に充てる。具体的にはDOE3%を目安に累進配当を継続しつつ、自己株式取得についても資本構成や市場環境を踏まえて柔軟に対応する方針を打ち出している。これにより、成長投資と株主還元のバランスを確保しつつ、持続的な企業価値向上を目指す姿勢を鮮明にしている。
こうした現状と計画を踏まえ、フィスコでは同社の株価PBR1倍割れ、配当利回り3%超えは割安と捉えており、再評価余地は大と見ている。今後の展開に注目したい。
<HM>
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