ダイナパック Research Memo(8):「既存事業の強化」と「成長分野の取り込みと創出」を成長戦略に掲げる
2. 成長戦略
成長戦略として、「現在の深化と未来の創造」を命題とし、「既存事業の強化」と「成長分野の取り込みと創出」の2つの成長戦略に取り組んでいる。
(1) 既存事業の強化
主力事業である段ボール事業の収益力強化を図るべく、以下の4点を重点施策として各拠点で四半期ごとに改善提案も行いながら実行している。
a) 適正生産量で利益最大化を実現する商品・顧客ポートフォリオへの組み替え
人手不足や残業時間が制限されるなかで、生産性をいかに向上し、時間当たり利益を最大化できるかを、各事業所にて議論を進めている。同社グループの事業所では、段ボールシートと段ボールケースの2つの製品形態で状況に応じて出荷している。粗利率は段ボールケースよりも段ボールシートが低くなるため、段ボールケースの構成比を高めていくことが最善ではあるが、貼合工程の稼動率維持を考えると一定割合は段ボールシートも出荷する必要がある。このため、まずはこの比率を最適化していくことで粗利率の改善を図る。
次のステップとして顧客ポートフォリオの見直しを計画している。高価格で購入する顧客ばかりであれば問題ないが、大量ロットを発注するユーザーに対しては1ケースあたりの粗利額が低くても、数量増効果により生産性が向上し、利益額としては大きくなる。一方で、小ロットのユーザーについては1ケース当たり高い粗利額が取れるものの、生産性という面では低くなるため、これらのバランスの最適化や適正価格での販売に取り組み、利益の最大化を目指す。
b) 原価分析から弱点を明確にし、原価率低減に直結する改善活動
売上原価に占める費用としては材料費が最も高いが、量産時に製造ラインが止まることでロスが発生するケースがあり、これを改善していくことで材料費率の低減を図る。設備機械の老朽化や電気系統のトラブルのほか、段ボール原紙の質の変化によってもラインが停止してしまうことがあり、ラインが停止すれば投入していた原材料が廃棄されることになる。このため、トラブル発生等による一時停止の発生頻度を少なくすることが材料費率の低減につながる。また、注文ロット数が少ないと、印刷工程などで機械設備を止める回数も多くなり生産性が低下する要因となるため、これらの改善を進めていく。こうした取り組みにより製造ライン当たりの人員数も最適化することが可能となり、自然減による人員補充も不要となる。
c) 物流クライシス2024への対応
物流の2024年問題によって物流コストが上昇しており、同社においても顧客に対して値上げ交渉を進めている。物流費の売上比率は6%程度だが、物流効率の向上に取り組むことでコストアップを吸収していく。
具体的には、トラックの積載効率を高めるため、配送頻度を毎日から2日に1回への変更、納品時間も朝一番とする顧客が多いが、待ち時間短縮のため昼間の時間などに分散してもらうよう交渉している。そのほか、危険作業(リフトで2階まで運搬する作業)の排除や、原材料の配送に帰り便のトラックを活用するなど配送ルートを工夫することでコスト低減に取り組んでいる。
現在、こうした取り組みは各事業拠点で担当者を配置し管理してきたが、属人的になりがちで拠点間で取り組み状況にバラつきが生じていた。こうした課題を解消すべく2025年4月に物流部を新設し、グループ全体の物流効率向上を進めていくことにした。同年秋には新物流システムを導入し、本格運用がスタートする。同システムの稼動によって各事業拠点の物流状況の一元管理が可能となり、トラックの積載効率や待ち時間、回転率など各種指標を可視化し、改善することでグループ全体の物流効率向上に取り組んでいく。
d) サステナビリティ経営の推進
温室効果ガスの削減など環境に配慮した事業運営を行うとともに、働きやすい職場環境づくりに取り組むことで社員のエンゲージメントを高め、生産性向上につなげていく。
(2) 成長分野の取り込みと創出
自社が保有しない経営資源をM&Aなどで取り込むことで成長を加速していく。M&Aの対象は国内外を問わないものとしている。国内では段ボール業界における中小企業の淘汰が続くことから、シナジーが期待できる案件を中心に精査して前向きに検討している。
一方、海外では経済成長率の高い東南アジアで拠点を拡大すべく、ローカル企業も含めてM&Aを引き続き検討していく。特にベトナムに関しては積極的に市場シェアを拡大していく方針で、今後の成長エンジンとして期待される。
新規事業としては、デジタル印刷による段ボールを使ったSP事業を育成するほか、既存事業を補完する新規事業の検討も同時に進めていく。
(3) その他の施策
2つの成長戦略を支える項目として、開発設計力の強化、人的資本の充実、業務革新&生産革新にも取り組んでいる。
a) 開発設計力の強化
環境対策として3R(リデュース・リユース・リサイクル)+C(コンポスト※)や、脱プラスチックを促進するサステナブル包装の開発を強化する。また、社会構造の変化(高齢化、労働人口減少等)に対応して、高齢者にも使いやすいような包装設計や、包装工数の減少によって包装作業の人員削減に資する包装設計に取り組む。
※ 有機物を分解して肥料にするためのプロセス。
そのほか、顧客の商品価値を高める包装・デザインによる顧客価値の創造にも取り組む。中小企業の顧客では社内にデザイン部を持たないところも多く、こうした顧客に対し訴求していくことで、デジタル印刷による顧客価値の拡大や新規需要の創造を図る。
b) 人的資本の充実
社員のやる気と成長が会社発展の礎になるとの考えのもと、働き方改革やエンゲージメントの向上、安全で快適な職場環境の整備、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する。
c) 業務革新&生産革新
「設備効率化活動」「2SX活動」「標準化」の3本柱で業務革新と生産革新の基盤を構築していくほか、基幹システムの刷新や生産のDX推進、並びにデジタル印刷機を活用した生産革新により、「見える・繋がる・止まらない」「省人化・無人化」に取り組む。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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