三重交通グループホールディングス:地域密着型多角経営で描く持続成長戦略
運輸セグメントは三重交通グループの基幹事業の一つとして日本でも有数の規模を誇るバス事業を中心に展開している。
不動産セグメントは運輸と並ぶもう一つの基幹事業であり、分譲事業の他、ストック事業としてビル・商業施設等の賃貸や太陽光発電(メガソーラー)にも注力している。
また、流通セグメントは石油製品販売事業(サービスステーション)、生活用品販売事業(ハンズのフランチャイズ展開)、自動車販売事業を通じて地域の生活を支える役割を担っている。
そして、レジャー・サービスセグメントはホテルやロープウエイ等の運営を行い、観光や余暇のニーズに応える多様なサービスを提供している。
ビジネスモデルの特徴は、地域密着型の生活動線を支えるバス事業を基盤に、不動産賃貸事業等で安定収益を確保し、その収益を再投資する循環型の構造にある。
また、ビジネスホテル、流通店舗の相互補完によって、地域住民の生活ニーズからインバウンド需要まで幅広く取り込む仕組みを構築している。
競合他社との違いは、まずバス事業において三重県全域及び愛知県・岐阜県の一部エリアにおける公共交通の担い手として、地域住民からの高い信頼と知名度を獲得しており、これを背景に強固な顧客基盤を形成している点にある。
また不動産分譲事業では、ディベロッパーやパワービルダーとの競合はあるものの、マンション管理やLPガス供給、損害保険の代理店業務をグループ内で一貫して提供することにより、顧客と継続的な関係を構築する体制を整えている。
多様な情報が得やすい中部圏においては、地の利を活かした賃貸ビルの開発に加え、新たな資産回転型ビジネスとして売却型賃貸マンションの開発・売却を強化している。
加えて、ビジネスホテルやレジャー施設等の観光関連事業を複合的に展開することにより、観光・イベント・ビジネス関連の需要をワンストップで取り込めることが強みだ。
こうした事業展開は、単一事業の市況変動リスクを吸収しやすく、安定性と収益性の双方を高めている。
市場環境として、運輸分野ではコロナ禍後の観光需要の回復に加え、万博等の大規模イベントに関連した需要が追い風となっているが、燃油価格や人件費の高騰、人口減少によるバス利用者の減少が中長期的なリスクとして存在する。
不動産分野では名古屋駅周辺におけるリニア開業を見据えた再開発の進展に伴い、オフィスの供給、需要とも拡大傾向にある。
ビジネスホテルはインバウンド需要が継続し、都市圏における高単価維持が可能と見込まれるが、新規開業の増加による競争激化には、引き続き注意を要する状況にある。
流通分野では、物価上昇やトランプ関税による消費マインド鈍化が懸念材料となる。
2026年3月期第1四半期の連結業績は、営業収益23,657百万円(前年同期比6.4%減)、営業利益2,595百万円(同1.2%増)と減収増益での着地となった。
運輸セグメントでは、乗合バスの運賃改定に加え、大規模イベントや観光需要を取り込んだ貸切バスの稼働回復が収益拡大に寄与した。
不動産セグメントでは、前年6月に名古屋市で開業した賃貸ビルの収益寄与はあったものの、マンション販売の反動減により収益減少となった。
流通セグメントは、自動車販売の好調や生活用品販売における来店客数の増加が奏功し、業績を押し上げた。
レジャー・サービスセグメントでは、万博需要等を背景にビジネスホテルの宿泊需要が拡大し、客室単価と稼働率が上昇したことが収益増加に結び付いた。
全体としては、各事業で需要回復や単価上昇、新規開業物件の収益寄与といったプラス要因が優勢であったことに加えて、グループ全体で進めているコスト構造改革が利益押し上げに寄与した。
2026年3月期は、営業収益が107,000百万円(前期比3.0%増)、営業利益が8,700百万円(3.4%増)と増収増益を予想している。
運輸セグメントでは、乗合バスの運賃改定効果に加え、万博等の大型イベントに伴う貸切バスの輸送需要の増加が収益拡大に寄与する見通しである。
不動産セグメントでは、新規賃貸物件の開業、既存物件の稼働率及び賃料水準の向上が収益を押し上げる。
流通セグメントでは、自動車販売や生活用品販売が堅調に推移しているが、自動車販売においてモデルチェンジによる受注停止期間があるため収益減少を見込む。
レジャー・サービスセグメントでは、ビジネスホテルにおける稼働率及び客室単価の向上のほか、旅行需要の回復が収益の伸びを後押しする。
中期経営計画(2023-2026年)においては、不動産賃貸事業を成長ドライバーと位置づけ、名古屋駅周辺や三重県四日市においてビル開発を推進する。
乗合バス事業では環境負荷軽減を目的にEVバス等の導入を進めるほか、利便性向上を図るためキャッシュレス化を推進する。
また、万博等の大型イベント需要を貸切バス事業とグループ内の関連施設で取り込むことで、収益の最大化を狙う。
ビジネスホテル事業では新規開業を推進するとともに、旅館事業では商品の高付加価値化、生活用品販売事業においては高単価商品の販売拡大を図る。
ESGでは再生可能エネルギーの活用やEVを始めとする電動車の導入、人材の多様性確保を進めるほか、DXによる業務効率化も推進する。
株主還元については、2024年度の年間配当は14円(前期比2円増配)とし、2025年度は16円(中間8円、期末8円)を予定している。
2025年2月には、株主優待制度の拡充を発表し、500株・3,000株区分を新設するとともに、長期保有株主向けに5,000円相当の三重のグルメギフトを追加した。
これらの施策により、個人株主層の拡大と長期保有促進を図るとともに、持続的成長に資する内部留保と安定配当のバランスを保ちながら、連結配当性向30%を目指す方針である。
堅調な地域の基盤事業に加え、積極的な不動産投資による長期的な成長も期待されており、PBRが1倍を下回る水準にある同社に今後も注目したい。
<HM>
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