クオルテック Research Memo(8):専門性・技術力・TQS、それぞれの継続進化により高い成長を目指す(3)
クオルテックは、次世代半導体向けに新たな事業戦略を強化し、自動車の電動化に伴うEV/HEV市場の成長に応じた信頼性評価試験のサービスを拡充します。特に、GeO2を活用した低コスト・高出力の新素材に注目し、Patentixとの提携による技術開発を進めます。また、琵琶湖地域を中心とした「びわこ半導体構想」にも参画し、地域の産業拠点化を目指します。さらに、バイオセンサ市場やバイオ医薬品製造部品評価への参入を通じて、医療分野での影響力を拡大することを計画しています。これらの取り組みにより、長期的な成長を実現し、競合他社との差別化を図ります。
(2) 事業別戦略
信頼性評価事業においては次世代半導体への対応を強化する。自動車の電動化によってパワー半導体の採用も進むことが見込まれ、同社としては2019年から2025年にかけてのEV/HEV向けパワー半導体の年平均成長率を23.9%と予測している。前述のように同社は自動車の電動タイプにかかわらず、信頼性評価試験への対応が可能であり、今後もこの需要拡大を取り逃さないために4つのサービス戦略を進める。1点目は「環境試験のサービス」である。電動車特有の部品に対する環境試験への対応を強化する。同社では既に環境試験において電動車向け部品への試験には対応しているが、高度化する部品群に対応すべく、防塵防水試験、耐候性試験、耐薬品・耐ガス試験、難燃性評価といった対応に向けて技術レベルを上げる。2点目は「分析のサービス」である。必要な分析機器などを増強して高機能樹脂評価に対応する。3点目は「故障解析のサービス」である。故障解析技術を追求すべく、非破壊観察が可能な超音波顕微鏡を増設するほか、国内唯一の反り測定装置を設置する。4点目は「パワーサイクル試験のサービス」である。次世代半導体に対応した新規試験を拡大する。
次世代パワー半導体についてはさらに、新たな半導体材料を使用するものについても取り組みを進める。現在パワー半導体向けの素材としては、Si(シリコン)及びSiC(シリコンカーバイト)が主流で、Siは量産段階、SiCは実用化段階にある。現在研究中で今後に期待がかかる素材には、GaN(窒化ガリウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)、ダイヤモンド、GeO2(二酸化ゲルマニウム)といったものがあるが、同社は特に低コストで高出力なGeO2に着目している。GeO2はSiCに比較してワイドバンドギャップが大きい(高耐圧・高電圧・高温動作が可能で小型軽量化も可能)とされており、次世代パワー半導体としてのシェア拡大が見込まれると考えている。そのため同社は2023年12月、Patentix(株)と資本業務提携を行った。Patentixは立命館大学発のベンチャー企業で、世界で初めてSiC上のルチル構造二酸化ゲルマニウム(r-GeO2)製膜に成功した。同社とPatentixは「びわこ半導体構想」という官民の連携プロジェクトに参画している。このプロジェクトは最先端半導体材料の研究開発から知財・経営戦略に立った社会実装までを網羅する、国際的な半導体産業拠点を琵琶湖地域に作る構想で、琵琶湖の水資源や広域交通基盤という半導体産業向きの地理的状況を利用した一大拠点化の構想である。地元の半導体関連企業のほか、滋賀県、京都府、草津市といった公的機関や金融機関が参画する。今後同社とPatentixとの資本業務提携に基づく新プロジェクトが稼働するものと思われるが、それらは本構想の一環として行われるものと予想する。国内の半導体関連企業やメーカー各社もこの構想に注目しているようであり、プロジェクトの具体化が進めば、参画を申し入れる企業も増加するものと見込まれる。
Patentixは今後GeO2を用いた半導体基板やパワーデバイスの研究開発を進めていくが、同社としてはPatentixとの協業によってこの半導体に関する知見を深め、エピウェハの製膜や分析・評価を経ることで分析評価領域(TQS領域)を拡大していく。なお今後のロードマップとしては、2027年6月期にGeO2の製膜事業参入を目指している。
微細加工事業の成長戦略としては、「ヘルスケア」を今後の注力市場として攻略を進める。特に成長市場であり、微細な加工が必要となるバイオセンサ市場に参入する。同分野は開発サイクルが5年から10年と長く、安定した受注が見込まれる。また一度受注すると継続した受注の可能性が高くなるため、競合他社にとっての参入障壁が高くなる傾向がある。2022年6月期の市場規模は3兆2,718億円であるが、2030年には5兆5,175億円(年平均成長率8.3%)が見込める有力市場である。その他事業の成長戦略は、医薬品製造部品評価への新規参入である。世界のバイオ医薬品の市場規模は2030年には2020年比約2.5倍の7,680億米ドルに成長する見込みであり、有望な市場だ。同社は日本国内でも厚生労働省によるバイオ医薬品製造拠点の整備事業が始まったことや、国家戦略として国産ワクチンの開発生産体制強化施策が打ち出されていること、バイオ医薬品製造部材の需要増加(使い捨て部材の需要増加)といったことを背景に、バイオ医薬品製造部材の安全性や安定性試験の需要が増加することを見込み、厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業(第3次公募)」に応募した。その結果、「シングルユースバッグ」と「アッセンブリー用部素材」の品質等評価を受託した。今後の同事業の業績動向に注目しておきたい。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
<KM>
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