シンカ Research Memo(5):2024年12月期は増収・減益。拠点数は拡大するも一過性費用などが利益を圧迫
シンカの2024年12月期決算では、売上高は前期比18.5%増の1232百万円と増収でしたが、営業利益は23.0%減の78百万円と減益となりました。主に新規販売パートナーやOEM供給の遅れ、ボリュームディスカウントの影響がARPAや従量課金売上に響きました。一方、拠点数は5648と増加し、MRRも順調に推移しました。人的リソースの制約がある中で、今後は販売チャネル強化が不可欠と考えられ、大塚商会やSB C&Sとの提携が重要と評価されています。トピックスとしては、生成AIを活用した「AIタスク抽出機能」やカイクラフォンのリリース、また2025年1月からの料金改定が挙げられます。
1. 2024年12月期の業績
シンカ<149a>の上場後初めての決算となる2024年12月期の業績は、売上高が前期比18.5%増の1,232百万円、営業利益が同23.0%減の78百万円、経常利益が同50.3%減の48百万円、当期純利益が同85.2%減の16百万円と増収ながら減益となった。また、期初予想(2024年3月27日公表)に対しては売上高、利益ともに下回る着地となった。
売上高は、導入企業数(拠点数)の拡大がストック収益の積み上げに寄与した。特に大型拠点の獲得が拠点数の拡大につながった。一方、ARPAは大型拠点獲得によるボリュームディスカウント※によりわずかな増加にとどまった。もっとも、拠点数の拡大を優先する判断に基づくものであり、その影響を除けば、追加オプションなど従量課金売上の増加に伴うARPAの実質的な伸びは前期を上回っている。また、足元のMRRも順調に積み上げることができた。
※ 特定業界のグループ再編に伴うもの。カイクラ導入拠点と未導入拠点の統合に際して、未導入拠点の取り込みを最優先とし、その後ARPAを向上させる戦略である。
2024年12月期末のKPIについては、拠点数が5,648拠点(前期末比1,140拠点増)、ARPAが17,503円(同179円増)※、解約率は0.33%(前期と同水準)、MRRは1,036百万円(前期比150百万円増)とそれぞれ好調に推移している。
※ ボリュームディスカウントの影響を除くと、19,001円(前期比1,677円増)となり、前期の増加幅(1,057円)を上回る。なお、2025年1月より値上げ(新規、既存の両方)を実施しており、ARPAへのプラス効果が期待される。
一方、損益面では、増収が収益を押し上げる要因となったものの、人件費の増加や事務所移転費用(一過性要因)などに伴う販管費の拡大により営業減益となった。
なお、売上高、利益ともに期初計画を下回ったのは、新規販売パートナーやOEM供給の立ち上がりの遅れにより拠点数が目標に届かなかったことや、従量課金売上の下振れ(SMS関連の利用開始遅延)及びボリュームディスカウントのARPAへの影響が主因である。
財務面では、株式上場に伴う新株発行(約9.4億円の資金調達)により現金及び預金が増加し、総資産は前期末比129.0%増の1,228百万円に拡大した。また、同じく自己資本も同149.5%増の978百万円となり、自己資本比率は79.6%(前期末は73.0%)に上昇した。なお、手元現金及び預金として972百万円が滞留しており、今後の活用が注目される。
2. 2024年12月期の総括
2024年12月期を総括すると、新規販売パートナーとの協業やOEM供給の遅れなどにより期初計画(2024年3月27日公表)には届かなかったものの、売上高の伸びのほか、各KPIも好調に推移しており、同社サービスの優位性や競争力の高さを改めて確認することができた。また、計画未達の要因は特定できており、今後の成長加速に向けて課題が明確になったところも大きな収穫と言える。特に人的リソースに制約があるなかで、潜在需要の掘り起こしに向けた販売チャネル強化は重要な戦略テーマであり、その点では、強固な顧客基盤やネットワークを有する大塚商会<4768>やSB C&S(株)とのパートナー契約の締結に至ったことは今後に向けて注目すべき成果と評価できる。
■トピックス
販売パートナーとの契約締結やカイクラフォンのリリースなどに取り組む
1. 生成AIを活用した新機能「AIタスク抽出」をリリース
2024年9月に通話中に発生するタスクやフォローアップ事項を自動で整理する機能「AIタスク抽出」をリリースした。生成AIを用いて通話内容を分析することで、通話後に対応が必要となるタスクを話者ごとに自動で抽出・表示することができる。
2. 有力な販売パートナーとの協業開始
2024年7月に大塚商会、2024年8月にはソフトバンクグループ<9984>の100%子会社であるSB C&Sと販売代理店契約を締結した。大塚商会は130万社以上の取引実績を誇っており、中小企業を中心とする大塚商会独自の顧客基盤に「カイクラ」の販売網を拡大するところに狙いがある。一方、SB C&Sは法人向けにクラウドやAIを含む先進のテクノロジーソリューションを提供している。SB C&Sの提供するポータルサイト「IT‐ExChange」や販売ネットワークを生かし、「カイクラ」の認知を拡大することで、販売機会の増加につなげていく。
3. カイクラフォンの提供開始
2025年1月にクラウド電話「カイクラフォン」をリリースした。PCやスマートフォンアプリを用いて、「カイクラ」から固定電話の発着信ができる。オフィス以外でも固定電話の発着信が可能なため、テレワークや外出先での効率的な電話対応が実現できる。
4. 料金改定(値上げ)の実施
2025年1月から新規ユーザーを対象として「カイクラ」の価格改定(値上げ)を実施した。また、既存ユーザーの値上げ(18%~20%)についても2025年2月より実施している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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