イノベーション Research Memo(6):「ITトレンド」の来訪者数が過去最高を更新、CV率も上昇し収益は急回復
2. 事業セグメント別の動向
(1) オンラインメディア事業
オンラインメディア事業の売上高は前年同期比46.5%増の770百万円、セグメント利益は同94.4%増の254百万円となった。「ITトレンド」「BIZトレンド」の来訪者数(延べ人数)※1が前年同期比29.4%増の318万人と半期ベースで過去最高を大きく更新し、CV率も改善したこと、また、日経BP向けの広告販売代理事業が好調に推移したことも増収増益要因となった。「ITトレンド」では引き続き勤怠管理等のHRテック系製品・サービスの資料請求件数が多いようだ。
※1 同社が定める来訪者数(延べ人数)とは、アクセス解析ツール「Googleアナリティクス」※2における「セッション
数」※3を指している。
※2 「Googleアナリティクス」とは、Google Inc.(グーグル)が無料で提供するWebページのアクセス解析サービスを指す。
※3 「セッション数」とは、「Googleアナリティクス」における「セッション」を指している。セッションとは、特定の期間にWebサイトで発生した一連の操作のこと。
「ITトレンド」等の来訪者数は2018年3月期の後半以降、Googleの検索アルゴリズム変更等の影響により2019年3月期の第1四半期まで前年同期比で減少が続き、収益悪化要因となっていたが、前第3四半期以降、来訪者数も前年同期比2ケタ増と回復軌道に戻り、2020年3月期に入ってその勢いはさらに加速した格好となっている。来訪者数回復の要因として、同社は3つの取組みが奏効したと見ている。
第1に、「ITトレンド」の認知度向上施策として、ディスプレイ広告や動画広告、インフィード広告等を効果的に実施できたこと、第2に、Google等の検索アルゴリズムを分析し、サイト構造を最適化(コンテンツの内容や更新頻度の見直し等)することでキーワード検索による表示順位引き上げに成功したこと、第3に、日経BP等のパートナーが持つメディアの広告枠を活用した集客施策※に取り組んだこと、などが挙げられる。
※日経BP等が運営するメディアやメールマガジンの広告枠を無料で活用する代わりに、同流入経路で発生した資料成果報酬額をレベニューシェアするスキーム。
また、パートナー施策として試験的に1年前から取り組んできたリアルアフィリエイター経由での資料請求件数も2019年9月頃から効果が出始めている。具体的には、情報通信系商材を中小企業向けに販売する企業等と提携し、日々の訪問営業の中で「ITトレンド」を一緒に紹介し、訪問先担当者に関心のある製品・サービスの資料請求をしてもらい、成果報酬をレベニューシェアするというもの。商談活動の中で、「ITトレンド」にアクセスするためCV率も高くなる傾向にある。現在、提携先2社でこうした取り組みを推進している。
一方、2018年8月より開始したセミナー動画プラットフォーム「Seminar Shelf」は、まだ先行投資段階であるものの、会員数は日経ID会員からの集客を中心に毎月1千人ペースで増え続けており、2019年9月末時点で1.3万人を突破するなど想定通りのペースで拡大している。動画掲載企業数については、IT系企業を中心に約90社まで増加しているものの、売上高に関してはまだ小さく業績に与える影響は軽微となっている。
(2) セールスクラウド事業
セールスクラウド事業の売上高は前年同期比2.8%増の161百万円、セグメント利益は同73.9%減の9百万円となった。「List Finder」のアカウント数は前第4四半期に提携先企業との契約解消により前年同期比39.6%減の470件と大きく減少したが、1アカウント当たり平均売上高は同70.4%増の344千万円と大幅上昇したことが増収要因となっている。平均単価の低かった提携先企業経由のアカウントが無くなったことに加えて、既存顧客においてオプション機能の追加やPV数増加等による従量課金が増加したことも単価上昇につながった。
一方、利益面ではプラットフォーム移行に伴う一時的な費用増加(2019年9月で完了、エンジニア5人を半年間投下)が減益要因となっている。提携先との契約解消後のアカウント数についても伸び悩んでいるが、これは参入企業が多く顧客獲得競争が激化していることや、前述したように新規導入したとしても、機能を使いこなせるだけの顧客管理データ等の基盤整備ができていないため、結局解約に至るケースが一定数発生することが要因となっている。また、プラットフォーム移行に起因した解約も一部発生した。
自己資本比率は70%超と健全な水準を維持
3. 財務状況と経営指標
2020年3月期第2四半期末の財務状況を見ると、総資産は前期末比48百万円増加の1,164百万円となった。流動資産は現預金が41百万円減少したほか、売掛金が31百万円、前払費用が27百万円減少した。固定資産では繰延税金資産が16百万円増加したほか、コクリポの子会社化に伴うのれんを70百万円、投資有価証券50百万円をそれぞれ計上した。なお、コクリポの子会社化に際して同社はアーンアウト契約を締結している。具体的には、2027年3月期までの各事業年度においてコクリポの営業利益が黒字となった場合に、売上高に一定率を乗じた金額を追加対価として旧コクリポ株主に対して支払う契約となっている。このため、今後の収益動向次第ではのれん及びのれん償却額が増加する可能性がある(当第2四半期ののれん償却額は2百万円)。
負債合計は前期末比52百万円増加の299百万円となった。買掛金が31百万円、未払法人税等が15百万円それぞれ増加し、有利子負債が14百万円減少した。また、純資産は親会社株主に帰属する四半期純利益22百万円を計上した一方で、自己株式取得費用として39百万円を支出したこと等により、同3百万円減少の864百万円となった。
経営指標を見ると、負債の増加に伴い自己資本比率が前期末の77.8%から74.2%に低下したが、有利子負債が順調に減少しており、財務の健全性は維持していると判断される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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