「一世一代の大芝居」俳優渡辺隆二郎 30年端役の男が初主役「Good Dreams」

映画「Good Dreams」の場面写真。主演の渡辺隆二郎（右）とヒロインの松田有咲

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「売れない役者　一世一代の大芝居」。俳優渡辺隆二郎（56）が初主演を務める映画「Good Dreams」が18日に公開された。東京・亀戸を舞台に、50歳目前で鳴かず飛ばずの売れない中年役者が、「花火を見ること」を熱望する弱視のヒロインの願いをかなえるために奔走する物語。井上竜太監督が20年以上の付き合いという渡辺をモデルに製作した話題作だ。そんな“盟友”の渡辺と井上監督。2人の声から作品の魅力に迫る。【取材・構成＝松尾幸之介】

★「亀戸の映画を」

生まれも育ちも「亀戸」の渡辺演じる主人公の滝本隆二郎、通称りゅうちゃんは、売れない役者ではあるが、どんな役にも一生懸命。人情深い人柄は地元住民にも愛されている。物語はある日、りゅうちゃんが中華料理店「徐楽」の大将に、松田有咲演じる親戚の徐リン、通称リンちゃんの迎えを頼まれたところから始まる。彼女が光をわずかに感じられる程度の弱視と知り、手助けをしているうちに2人の距離は次第に縮まっていく。

主演に抜てきされた渡辺は「僕は約30年も端役できましたので、映画の主演というのは遠い星の話だと思っていました。いいのかな？　俺で。ずっとそんな感じで撮影に挑みました」と喜びを語り、「もちろん気を抜いて演じたことは1秒だってありません。アフレコの時も、『これだけ映っちゃって大丈夫？』と聞いたぐらいです」と振り返った。

同世代の井上監督とは若い頃から交流を深めてきた仲。20年以上前に2人で居酒屋で飲んだ帰り道に「いつか亀戸の映画を作ろう！」と井上監督が口にしたことを今でも覚えているといい、「それから約20年。歳月が流れ、この企画が立ち上がったときの感想は、うれしい半面ウソでしょ！？でした」。

★がん、脳梗塞患う

自身も東京・亀戸出身で、撮影ももちろんオール亀戸ロケ。これまで大腸がんなど大病を患いながらも続けてきた役者人生初の主演作だが、昨夏の撮影開始を控えた23年1月には脳梗塞を患うアクシデントにも見舞われていた。「いつ治るのか分からないこの病。ありとあらゆる治療を試した私は奇跡的に、8月の暑い早朝、主演映画を撮るためのカメラの前に立っていました」としつつ、「これまで数々の病気もしました。本当に何これと…なんというか、よく生きてこれたな…と思うこともありました」と語った。

物語は「花火を見てみたい」というリンちゃんの願いをかなえるため、りゅうちゃんが一世一代の“大芝居”を決意し、クライマックスへと向かう。渡辺は「ネバー・トゥー・レイト（人生に遅すぎるということはない）は、ずっと心にある言葉です」とし「たぶん、夢は持ち続けた方が人生は苦くても楽しいと思います」と結んだ。

◆渡辺隆二郎（わたなべ・りゅうじろう）　1968年（昭43）1月22日生まれ、東京・江東区亀戸出身。ドラマ出演は08年テレ朝系「交渉人」、テレ東系「三匹のおっさん」シリーズ、19年テレ東系「記憶捜査～新宿東署事件ファイル～」など。映画は17年「ろくでなし」、24年「日めくりの味」など。趣味は歌舞伎鑑賞、ギター。特技は殺陣、空手、整体術、歌まね。170センチ。

■井上竜太監督「人生、いつでも、これからだ」

井上監督は大手芸能事務所ホリプロの映像事業部プロデューサーとして数々の作品を手がけてきた。10年の映画「パレード」（行定勲監督）では第60回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。ほかにも11年「白夜行」（深川栄洋監督）、16年「植物図鑑　運命の恋、ひろいました」（三木康一郎監督）、今年も「夜明けのすべて」（三宅唱監督）が公開された。

監督作では20年の「リスタートはただいまのあとで」で長編作デビュー。2作目となる今作で主演を任せた渡辺について「リーゼントに夏はアロハ、冬はスカジャン、声が大きく、不器用で、人情に厚い男、隆ちゃん。大腸がんを患ったり、顔面まひになったりしたが、相変わらず元気に生きている。でも、その笑顔の奥にある悲哀を感じ、滋味のようなものが増してきているように思いました」と語り、「そして思いついた。『そうだ、隆ちゃんをモデルにした映画を作ろう。こんな面白い男いない』。そして彼をモデルにした主人公が人助けのために亀戸の町を奔走する脚本を書きました」と明かした。

企画に賛同した仲間らのサポートもあって映画は完成までたどりついたといい「いち早く完成した映画を見た中年の男性は涙を流し、言葉をかけてくれた。『この映画は、おじさんに夢と希望を与えてくれる。ほんと、最高だよ。元気出たよ』。この映画が、明日への活力になってくれたらうれしく思います。人生、いつでも、これからだ」。

■主題歌ザ・ルースターズ

映画「Good Dreams」には渡辺や松田のほか、寺坂頼我、坪内守、五明紀之、田村智浩、ブッチャーブラザーズのぶっちゃあ、大橋彰（アキラ100％）、諏訪太朗、藤田弓子らも出演。主題歌は、ザ・ルースターズの「Good Dreams」。現在、東京・ユナイテッド・シネマ豊洲やOSシネマズミント神戸などで上映中。