
DXを成し遂げるためには何が必要か。もっとも重要な鍵を握るのが、システムのインフラとなる「クラウド」です。なぜクラウドがDXには不可欠なのか。クラウドという選択肢がDXにどう寄与するのか。日本オラクル 執行役員NetSuite事業統括 日本代表カントリーマネージャー 渋谷由貴氏とデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏が、DXについて議論する対談企画の第4弾は、クラウドがもたらす効果について議論。DXを推進するなら必ず考えなければならない「クラウド」の必要性を考察しました。
成長企業のDXはクラウドから
鈴木:DXを通じて業務や組織、企業全体を改革するなら、これまでの在り方を抜本的に見直さなければなりません。このとき重要な役割を果たすのがシステムです。企業や組織運営、さらに業務と密接に関係するようになったシステムをどう構築するか、どう運用するかを徹底的に考えない限り、改革を成し遂げることはできません。
渋谷:特に中小・中堅といった成長企業の中には、ITを十分に活用しきれていないケースがまだ多く見受けられます。とはいえ、人材不足や生産性向上が強く求められる現在の環境を考えると、ITを活かさずに競争の中で成長を続けるのは、ますます難しくなっているように思います。その意味でも、ITの活用を前提に業務を見つめ直し、少しずつでも改革に取り組んでいく姿勢が、これからの成長においてより大切になっていくのではないかと感じています。
鈴木:以前と比べ、成長企業でもITを導入しやすくなっていますよね。これまでは膨大な初期費用を投じたり、導入・運用にはITに精通する人材が必要だったりと、IT導入・運用のハードルは決して低くありませんでした。しかし、こうした問題はすでに解決済みです。その鍵を握るのが「クラウド」です。クラウドを用いたシステムを活用することで、成長企業でもITを軸にした改革を以前より容易に進められるようになっています。
成長企業は今こそクラウドを導入すべきだと思います。これまでのシステム導入の主流だったオンプレミス方式は、システムを運用するには高額な費用はもとより、高度なノウハウも必要でした。成長企業がこれらを自前ですべて賄うのは、大きな負担でした。
渋谷:その通りです。成長企業では、IT部門が数名しかいなかったり、そもそも専任のIT部門を持たずに他の業務と兼任しているケースも少なくありません。こうした企業がオンプレミスを導入すると、本来の業務に十分集中できなくなるなどの課題が生じることも考えられます。
鈴木:しかしクラウドの登場により、状況は劇的に変わりました。クラウドを導入する多くの企業が、「『既製品』のようなサービスを購入、利用する」という考え方に変わっているのです。つまり、システムを一から開発せずにクラウドを活用すればよい、という考え方が定着しつつあります。成長企業はこうした大きなトレンドに乗り遅れることなく、クラウドの活用を視野に入れてほしいですね。
渋谷:クラウドには、初期コストを抑えられることや運用負荷を軽減できることなど、さまざまなメリットがあります。その一方で、目に見えにくい部分にも恩恵がある点は見逃せません。それが非機能要件です。システムのインフラをクラウドベンダーに任せることで得られるメリットで、具体的にはセキュリティ対策や災害対策(ディザスタリカバリ)などが挙げられます。こうした要件は、クラウド導入時にあまり意識されないこともあるかもしれません。しかし、多くの顧客とのやり取りの中で、非機能要件を充実させられるクラウド環境こそ、本当に価値のある選択だという声をいただいています。
鈴木:確かにその通りですね。セキュリティ対策を検討したり、ディザスタリカバリ環境を構築したりしようとすれば、その負担は計り知れません。コストや負荷軽減といったメリット以外にも多くの恩恵をクラウドがもたらしてくれるというわけですね。
渋谷:あるお客様の例ですが、親会社が子会社を毎年監査しており、子会社では社員が総動員され、セキュリティやディザスタリカバリ環境の状況報告に追われているとのことでした。子会社自身にIT導入の権限があるにもかかわらず、大きな手間がかかっているそうです。しかし、こうした環境をクラウドベンダーに任せることで、これまでのような負担を軽減できるのもクラウドのメリットだと思います。
鈴木:オンプレミスであれば、導入コストを償却しようと、数年間は使い続けなければならないという制約が発生します。一度構築したシステムを簡単には破棄できないわけですから。しかしクラウドの場合、「使いにくいな」や「あまり使われていないな」などの課題を感じたらスパッと止められます。オンプレミスのような制約にとらわれず、不要なら翌月には止められるのもメリットであり、クラウドならではの運用方法だと思います。
渋谷:クラウドが備える柔軟性は、変化のスピードが速い現代においては不可欠な要素ですね。
鈴木:ここで注目すべきは、成長企業だからこそ得られる優位性です。大手企業には、これまで築き上げた膨大なシステムがあります。この資産をクラウドに移行したいと考えていますが、その切り替えは決して容易ではありません。仮に移行を決断しても、5年や10年といった長期の移行プロジェクトになりかねません。
一方、成長企業はどうでしょうか。膨大な過去資産を有さない成長企業は、大手企業より素早くクラウドを導入し、クラウドの恩恵をいち早く得られるようになるわけです。DXを迅速に進めなければならない状況下で、この差は大きいのではないでしょうか。
