次世代クリーンエネルギーの実用化に向け、ヘリカル型核融合炉を開発する株式会社Helical Fusionと、愛知県で食品スーパーを展開する株式会社アオキスーパーが、フュージョンエネルギーによる電力売買契約を締結しました。国内で核融合由来の電力売買契約が発表されたのは初めてです。大量電力を日々消費する小売現場が需要家として名乗りを上げたことで、核融合を社会インフラとして「使う」側の意思表示が明確になりました。ヘリカル方式による実用発電を掲げる「ヘリックス計画」と、環境負荷低減を目指す小売の要請が合致し、素材から小売までを見据えたサプライチェーン構築が一歩前進した形です。両社は本契約をマイルストーンと位置付け、開発と調達の好循環を加速させる方針です。
需要家のコミットで「出口」を可視化 生活インフラとしての核融合に現実味
核融合は太陽のエネルギー生成原理を地上で再現し、高効率で持続可能な電力供給を目指す技術として期待されています。これまで研究開発に注目が偏りがちでしたが、社会実装にはユーザー側の需要確約が不可欠です。今回、アオキスーパーが需要家として契約に踏み切ったことで、開発側にとって投資回収の「出口」が具体化しました。アオキスーパーは冷暖房や照明に加え、冷蔵冷凍設備の運用に多くの電力を要する業態で、気候変動が食のサプライチェーンに与える影響を深刻に捉えています。2025年7月にはHelical Fusionへの出資も実施しており、需要と供給の双方から核融合の実装を後押ししてきました。日常の買い物体験を通して環境にやさしい電力を生活へ届けるという理念は、核融合エネルギーが社会基盤として根づく上での説得力を持ちます。需要側のコミットメントは、同分野への開発資金と人材流入を促す触媒となり得ます。
ヘリックス計画の全体像 ヘリカル方式で「商用核融合炉の三要件」達成を目指す
Helical Fusionは、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所の研究成果を活用し、ヘリカル型核融合炉の実用化に挑む企業です。ヘリカル方式は日本独自の炉形式で、長年の研究により商用発電所に適した特性が示されています。同社の「ヘリックス計画」は、ベースロード電源を担う発電プラントにこだわって設計され、商用核融合炉に求められる三要件である定常運転、正味発電、保守性の達成を掲げます。ロードマップでは、2020年代中に「高温超伝導マグネット」と「ブランケット兼ダイバータ」の個別実証を完了し、2030年代中に最終実証装置「Helix HARUKA」で統合実証、発電初号機「Helix KANATA」で世界初の実用発電の達成を計画しています。世界にはトカマクやレーザーなど多数のアプローチがある中で、現有技術で三要件達成を狙う具体的道筋を示している点が特徴です。
政策と市場環境の追い風 官民連携で2030年代の発電実証を後押し
背景には、世界的な電力需要の急増と脱炭素の要請があります。国際機関の見通しが示す需要増に加え、生成AIの普及による電力負荷の拡大が顕在化し、既存電源のみでは供給が厳しい局面が想定されています。核融合はCO2排出がなく、海水等から豊富に採取可能な燃料の利点から、根本的な解決策として期待を集めています。核融合のプラント建設と電力市場が2050年までに世界で年間5500億ドル規模に成長するとの試算も示され、国際競争は激しさを増しています。国内では、新政権のもとで次世代革新炉や核融合の早期社会実装が政策に明記され、内閣府の戦略改定で2030年代の発電実証を目指すロードマップが提示されました。重点投資分野への位置づけ、予算計上、経済産業省での組織設置など、支援が具体化している点も追い風です。産業協議会からの提言もあり、学術から産業化への転地が進みつつあります。
産業エコシステムを日本発で構築 パートナリングで裾野拡大へ
Helical Fusionは、エネルギーを「支え・つくり・使う」すべての営みを結ぶ産業連携を重視し、「Helix Programパートナリングプロジェクト」を展開しています。ものづくりから小売まで全国のパートナーと連携し、核融合産業の創出を目指す取り組みで、2025年7月から各地でパートナー募集イベントを開始しました。今回のアオキスーパーとの電力売買契約は、この連携の象徴的な成果といえます。今後、素材、部材、建設、電力取引、小売までのサプライチェーンで、需要サイドが関与する実証の土台づくりが鍵となります。事業者にとっては、長期の電力調達戦略に核融合由来電力の選択肢を加え、設備投資やRE施策と併せたポートフォリオでリスク分散を検討することが実務的です。自治体は、用地や許認可のワンストップ支援、電力系統の受け入れ計画、地域と共生するコミュニケーション設計を準備することで、実装の受け皿を整備できます。
実務への示唆 小売と製造が今から準備すべきこと
核融合由来電力の社会実装を見据え、需要家は長期PPAの評価軸に安定供給性と環境価値を組み込み、エネルギーマネジメントのKPIを整備することが重要です。冷凍冷蔵を多用する小売や食品製造は、負荷平準化策と併せて、電源多様化のシナリオを策定し、実証段階からの参画機会を検討すると良いでしょう。金融機関は、政策動向と技術ロードマップに沿ったデットとエクイティの組成枠を用意し、需給両面のコミットを可視化することで資金循環を後押しできます。情報開示では、実証の進捗や環境負荷低減効果の測定手法を明確化し、サプライヤーと顧客の双方にとって判断材料を揃えることが信頼形成につながります。今回の日本初の契約は、核融合を生活インフラへ接続する起点であり、産業横断の連携が成果を左右します。関係者が役割分担を明確にし、段階的な実証と需要連動の調達設計を進めることが、実用化への最短距離となるはずです。
詳しくは「株式会社Helical Fusion」の公式ページまで。
