
エンターテインメント企業のDXが新たな段階に入っています。アマゾンジャパン合同会社は、ラスベガスで開催中のAWS re:Inventで、ソニーグループがAWSのAI基盤を全面活用し、グローバル全社でAIエージェント機能を展開すると発表しました。ソニーはAmazon Bedrock AgentCoreを採用し、エンタープライズグレードのセキュリティと可観測性を確保しながら、社員の生産性向上と事業横断のファンエンゲージメント創出を同時に推進します。社内エンタープライズAI基盤では、すでに1日あたり15万件の推論リクエストを処理しており、今後数年で300倍以上に増大する見込みです。エレクトロニクスからゲーム、音楽、映画、アニメまで、多様な事業を横断して「感動」をスケールする構えが示されました。
エンタープライズAI基盤の全社展開が示す実装力と拡張性
ソニーは、グループ全社員が生成AIとAIエージェントを安全に利用できる社内エンタープライズAI基盤を整備しています。Amazon Bedrock AgentCoreを活用することで、AIエージェントの構築、展開、管理がグローバル規模でシームレスになり、セキュリティ、可観測性、拡張性を備えた運用が可能になりました。すでに日次で15万件の推論リクエストが稼働しており、コンテンツ作成や問い合わせ対応、予測、不正検出、ブレインストーミング、新規アイデアの起案など業務の幅広いプロセスで活用が進んでいます。アマゾンジャパン合同会社の発表では、この規模が今後数年で300倍以上に拡大する見込みとされ、将来のトラフィック増を見据えたスケール設計が重要になります。企業の実務では、ユースケースごとのアクセス権限や監査証跡の整備、プロンプトやツール呼び出しの可観測性設計が、拡張期の品質維持につながります。導入効果を高めるには、まず高頻度かつ標準化しやすい業務に適用し、モデル選定やエージェントのタスク分割、評価指標の基準化を進めることが有効です。
ノヴァ・フォージ
ソニーは、最先端AIの構築に向けてAmazon Nova Forgeプログラムを活用しています。初期検証の結果、同プログラムを通じて開発されたAIモデルのうち、特にAIエージェントの性能強化が社内のドキュメント評価と審査プロセスを従来比で約100倍効率化する可能性が示されました。ここで重要なのは、性能の単純な向上だけでなく、業務プロセス設計の見直しが伴っている点です。実務では、審査基準の構造化、チェックリストの機械可読化、例外処理の再定義など、エージェントが働きやすい業務設計に移行することで、検証結果の再現性を高められます。併せて、ヒューマン・イン・ザ・ループを前提にした品質管理のステージングを用意し、モデル更新時の回帰テストとプロンプトのバージョニングを運用に組み込むことが、継続的な効率化に直結します。企業のDX推進担当者は、PoC段階から評価データセットとガードレールの基準を明確にし、導入後の監査容易性を担保する計画を持つべきです。
ソニー・データ・オーシャン
ソニーのエンゲージメントプラットフォームの要となるのが、Sony Data Oceanです。ソニーグループ各社が保有する500種類以上のデータセットを連携し、760テラバイト規模のデータ処理を実施する包括的なデータ利活用基盤で、Amazon SageMakerを含むAWSサービスで構築されています。この基盤により、同じ関心や嗜好を持つファン同士をつなぎ、トレンドに関するインサイトをクリエイターにフィードバックする循環が可能になります。データ統合とAI推論を一体で回すことで、個々の体験最適化と創作活動の意思決定精度を高められる点は、エンタメ産業の価値連鎖に大きな示唆を与えます。実務面では、データセットごとの品質スコアリングとデータガバナンスの明文化、モデル入力用の機密区分に応じたマスキング設計、そしてインサイト配信の同意管理が重要です。運用の成熟度を高めるには、データカタログの継続的更新と、利用部門横断のメタデータ標準化が効果を発揮します。
PlayStationの中核機能を活用したエンゲージメント拡張の戦略
ソニーのエンゲージメントプラットフォームは、世界中のゲームプレイヤーをつなぐ「PlayStation」のオンラインサービスのコア機能を活用し、アカウント、決済、データ基盤、セキュリティといった領域を拡張してビジネスオペレーションとファン体験の両面を最適化します。これにより、エレクトロニクス、ゲーム、音楽、映画、アニメといった多様なエンターテインメントジャンルを横断して、ファンとクリエイターの深いつながりを創出するプラットフォーム構築を目指す方針が明確になりました。大規模アカウント基盤と決済の信頼性は、グローバルな拡張の前提となるため、可用性の設計と不正検知の連携が鍵を握ります。具体的には、トランザクションのリスクスコアリングと本人確認の流度調整、行動分析と異常検知の連携強化が有効です。ユーザー体験の側面では、パーソナライズの透明性確保と選択権の明示により、信頼をベースにしたロイヤルティ向上を図れます。実装では、レイテンシ管理とグローバルデータレジデンシの要件整理も同時に検討すべきです。
経営メッセージに見るDXの方向性と実務への示唆
ソニーグループのCDOである小寺剛氏は、AWSとのパートナーシップを通じてデータとAIの力を最大化し、ファンとクリエイターの新たな絆を築くとコメントしました。Amazon Web ServicesのCEOであるMatt Garman氏は、ゲーム体験の基盤提供から始まった協業が、いまや5万7千人の社員がAIエージェントを活用する事業変革へと進化していると述べています。これらの発言から、基盤の共有化とエージェントの水平展開によって、業務効率だけでなく顧客価値の革新を同時に狙う方針が読み取れます。実務に落とす際は、エンタープライズAIのKPIを業務効率と体験価値の二軸で設計し、定量と定性を組み合わせて定期レビューすることが求められます。さらに、モデル運用の責任ある利用体制を整え、説明可能性、セキュリティ、プライバシーの基準を明文化することが、全社展開の信頼基盤となります。DX推進担当者は、段階的なロールアウト計画と、現場の成功事例の横展開を優先的に進めるとよいでしょう。
詳しくは「アマゾンジャパン合同会社」の公式ページまで。
