
百貨店大手、株式会社三越伊勢丹ホールディングスは、自社のメタバースプラットフォーム「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」内において、「仮想伊勢丹新宿店」を正式に展開し、時間・場所を問わないショッピング体験の提供を開始しています。スマートフォンを通じ、ユーザーはアバターとして「仮想新宿」の街を歩き、仮想店舗内で商品を閲覧・購入できるほか、アバター向けの着せ替えアイテムを利用することも可能です。
この取り組みは、リアル店舗を中心とした従来の百貨店ビジネスに対して、デジタルとリアルの融合による新たな顧客接点創出を図る“百貨店DX”の一環と位置づけられます。仮想空間「仮想新宿」では、伊勢丹新宿本店が持つ商業エリアを仮想再現しており、アバターを通じて「空間を移動する楽しさ」や「友人・家族とのショッピング体験共有」といった、ECサイトでは得にくい体験価値を提供しています。

■ ビジネスモデルの変化と新しい顧客層へのアプローチ
REV WORLDS内での仮想店舗では、実際に販売中の商品が並び、選択後はオンラインストアに遷移して購入可能というハイブリッドな仕組みも採用。例えば、アバター用の着せ替えアイテムには、伊勢丹の「マクミラン/イセタン」や「ブラックウォッチ/イセタンメンズ」などリアルブランドの柄が使われています。
このように仮想空間を通じて顧客と接点を持つことによって、これまで“来店が難しかった層”や“ECでは物足りなかった層”に対しても、ブランド体験を届けることが可能となります。さらに、仮想上の行動データ(どのエリアを訪れたか、どのアイテムを選んだか)を取得し、リアル店舗やECにおけるマーケティング施策に活用することで、データドリブンな改善も見込めます。
■ DX戦略としての意義と今後の展望
百貨店業界は、コロナ禍による来店機会の減少や購買チャネルの多様化に直面しており、デジタル転換(DX)の重要性が増しています。三越伊勢丹の仮想店舗展開は、顧客体験を拡張し、リアル×デジタルのハイブリッド戦略を通じて、生活者との接点を24時間・世界規模に拡大する動きとして注目されます。
今後、ブランドコラボイベント、限定アバターアイテム、メタバース内ライブやコミュニケーション機能の強化など、さらなる展開も見込まれます。仮想空間と実店舗の融合が進む中、「どのように顧客を“仮想”から“リアル”につなげるか」が、百貨店DXのカギとなるでしょう。
三越伊勢丹は、仮想店舗を“単なる仮想店”にとどめず、継続的なデータ収集・分析・リアル店舗改革へのフィードバックループとして位置づけることで、次世代の百貨店像を描いています。DXを通じて「百貨店」という業態自体の価値を再定義する挑戦が、ここから始まっています。
