私たちが暮らす地球には、まだ多くの謎に包まれている”もう一つの宇宙”が広がっています。
それが太平洋のど真ん中、4000メートルもの深さにおよぶ深海世界です。
スウェーデン・ヨーテボリ大学(University of Gothenburg)は最近、この深海世界で、“エイリアン”と呼びたくなるような新種生物を大量に発見しました。
いったい深海の底では、どんな生命が息づいているのでしょうか。
研究の詳細は2025年12月5日付で科学雑誌『Nature Ecology &Evolution』に掲載されています。
目次
- 水深4000メートルの未知なる世界と新種発見
- 深海採掘が生態系に与える影響、未解明の謎
水深4000メートルの未知なる世界と新種発見
今回、世界各国の海洋生物学者たちが共同で挑んだのは、メキシコとハワイの間に広がる「クラリオン・クリッパートン断裂帯(CCZ)」と呼ばれる深海平原です。
ここは大陸サイズの広大な海底で、地球上でもっとも未知な場所のひとつとされています。
調査隊は、国際海底機構(ISA)のガイドラインに沿い、5年もの歳月と160日間にわたる船上調査を行いました。
その目的は、CCZに眠るレアアース(金属資源)の採掘が、深海生態系にどのような影響を与えるのかを確かめることでした。
しかしその過程で、研究者たちは予想外の“宝物”を見つけることになります。
4000メートルの深さにある海底は、光が一切届かず、1年で堆積物が0.001ミリしか積もらないほどの超貧栄養環境です。
そんな過酷な世界から、研究チームは0.3ミリ以上の生物を4350体も採集し、そのうち種として同定されたものは788種でした。
さらに、その多くが未記載の新種と考えられています。

主な生物は、触手のような姿の多毛類(海毛虫)、不思議な甲殻類、貝類など。
まるで映画に出てくるエイリアンのような、見たこともない形や色を持った生き物ばかりです。
実は、こうした深海域では「新種ラッシュ」が続いており、過去の調査でも5000種を超える新たな生物が発見されています。
深海は“もうひとつの地球”と言っても過言ではありません。
深海採掘が生態系に与える影響、未解明の謎
一方で、研究の本来の目的であった「深海採掘の影響評価」では、無視できない結果も明らかになりました。
金属採掘用の巨大なマシンが海底を通過した跡では、動物の数が37%、種の多様性も32%減少していたのです。
とはいえ、当初予想されていたほど壊滅的なダメージではなかったとも報告されています。

しかし、地球最後のフロンティアとも呼ばれる深海で、まだ見ぬ生き物たちが採掘によって消えていく可能性があることに、専門家たちは強い危機感を抱いています。
なぜなら、今回発見された788種のうちの多くはこれまで全く記載されておらず、DNAレベルの分析によってようやくその存在が確認できたばかり。
さらに、太平洋のどれほど広い範囲に分布しているのかもわかっていません。
この“未知の命”が、わずか数回の採掘で消滅してしまうかもしれないのです。
また、深海の生態系は、表層から降ってくる微量の有機物(いわゆる「マリンスノー」)だけで生きており、環境変化に対して極めて脆弱です。
チームは、今後も保護区とされた区域での生態調査や、より厳密な環境影響評価を進める必要があると訴えています。
参考文献
Deep sea mining test uncovered multiple new species
https://www.popsci.com/environment/deep-sea-mining-new-species/
New deep-sea species discovered during mining test
https://www.gu.se/en/news/new-deep-sea-species-discovered-during-mining-test
元論文
Impacts of an industrial deep-sea mining trial on macrofaunal biodiversity
https://doi.org/10.1038/s41559-025-02911-4
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
