恋人との関係は、十分なコミュニケーションによって上手くいきます。
しかし、「自分が感じたことをそのまますべて伝えればよい」わけではありません。
むしろそのことが相手に余計な傷を与えることもあります。
こうした問題について、アメリカの心理学者であるマーク・トラヴァース博士は、恋人に“あえて言わなくてもいい”2つのことを教えています。
目次
- 恋人に言うべきでないこと①:身体の変化
- 恋人に言うべきでないこと②:非建設的な批判
恋人に言うべきでないこと①:身体の変化
多くの人は「恋人に誠実でいたい」と考えますが、心理学は、「誠実さ=思ったことをすべて口にする」ではないことを教えています。
その1つが、パートナーの身体の変化に関するコメントです。
これは、たとえ善意であっても相手の自己肯定感を下げやすいことが研究によって明らかになっています。
たとえば、少し体型が変わったと感じたときに「最近太った?」と軽く尋ねたり、肌荒れに気づいたときに「疲れてるの?」と声をかけたりするかもしれません。
自分としては「気遣い」や「ちょっとした会話」のつもりだったかもしれませんが、相手には高い確率で「自分の欠点を指摘された」と受け取られてしまいます。
実際に、2016年の研究は、恋人と体重について話したあと、約55%の人が気分が悪くなったと報告しています。
そしてこの効果は、コメントの言い方が優しいか厳しいかにほとんど関係していませんでした。
どんなにやわらかく伝えても、相手の心には「自分は前より悪く見えているのかもしれない」という不安が生まれやすくなります。
さらに、多くの場合、相手は自分の身体の変化にすでに気づいているため、あらためて指摘されると「他人に気づかれるほど変わってしまったのか」とショックを受けることさえあります。
恋人同士の間であっても、身体の変化は人生の自然な流れであり、そこには喜びや苦楽の積み重ねが刻まれています。
そのためトラヴァース博士は、身体の変化に関するコメントは、本当に必要な場合を除き、恋人同士であえて口にしなくてもよいと述べています。
誠実でありたいという気持ちは大切ですが、相手の心を守るという観点からは、沈黙のほうが関係を豊かにする場面も確かに存在しているのです。
次に、恋人にいわなくてもいいもう1つの言葉を見てみましょう。
恋人に言うべきでないこと②:非建設的な批判
2つ目に言わなくてもよいとされるのは、非建設的な批判です。
恋人とは正直であるべきだと考える人は多いですが、心理学の研究は、批判が相手にどう届くかは正論かどうかではなく、言葉に含まれる感情の質によって大きく左右されることを示しています。
たとえば、相手の習慣に不満があるときに「あなたはいつも無駄遣いばかりだね」とか、「そんなもの食べていたら身体に悪いよ」と伝えると、本人は助言のつもりでも、相手はその言葉をほとんどの場合で“攻撃”として受け取ります。
2016年の研究では、パートナーの発言を”敵意”として受け取ると、関係への満足度が低く、心理的な健康も損なわれやすいことが示されています。
また、この研究は、言葉がどう受け止められるかは、発言する側と受け取る側の双方がどれだけ感情をうまく調整できているかに強く左右されると指摘しています。
感情を抑え込む傾向がある人は、内側の苛立ちが言葉の端々ににじみやすく、意図せず冷たく刺すような表現になってしまうことがあります。
一方で、発言前に気持ちを整理するのが得意な人は、同じ内容であっても相手を思いやる形で伝えられるため、批判が比較的“支援”として受け取られやすくなります。
つまり、あなたが怒りや苛立ちに駆られて発言した時、相手はほぼ確実にそのことに気づき、関係に悪影響を及ぼします。
だからこそ、恋人に対して頼まれてもいないアドバイスを与える前に、「これは相手を助けたいから言うのか、それとも、ただ自分が正しいと思っているからそのことを口に出すのか」と自分自身に問いかける必要があります。
もし、自分の動機が後者に傾いているなら、それは「建設的ではない批判」になってしまうことでしょう。黙っておくのが最善です。
考慮してきた2つの点から分かる通り、恋人との関係ではすべてを正直に言うことよりも、言葉を選ぶ判断力こそが関係を深める力になります。
身体の変化をむやみに指摘せず、非建設的な批判を控えることは、相手に安心感を与えることに繋がります。
時に沈黙は、「逃げ」ではなく「深い思いやり」なのです。
参考文献
2 Things You Don’t Need to Tell Your Partner
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202511/2-things-you-dont-need-to-tell-your-partner
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
