子どもの将来の体型と母親の健康状態との間にある意外な関係が、英エディンバラ大学(University of Edinburgh)の最新研究で明らかになりました。
調査対象は、1958年に英国で生まれた1万7000人以上の人々。
彼らの成長を60年以上にわたって追跡する大規模研究から、母親が肥満であった場合、子どもが成人後に肥満になる確率が非常に高いことがわかったのです。
さらに母親が1日10本以上もタバコを吸う喫煙者だと、子供が将来的に肥満になるリスクも大きく増加していました。
研究の詳細は2025年3月26日付で学術誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- 子供が太りやすくなる母親の特徴とは?
- 母親の影響を緩和するには?
子供が太りやすくなる母親の特徴とは?
「親が太っていたから自分も太りやすい」
そんな話を聞いたことがある人は多いかもしれません。
食生活が似ているから?
それとも体質が遺伝するから?
確かに親子で似た体型になるのは、遺伝的な影響もありますし、同じ家庭環境の中で同じような食生活を送っていることも一因です。
過去の研究でも、妊娠中の母親の栄養状態や、赤ちゃんの出生体重、授乳の有無、育児中の食習慣などが、子どもの肥満リスクに関係することが報告されています。
特に注目されてきたのが、母親の妊娠中や産後の体重、および生活習慣です。
例えば、ある研究では、母親の喫煙習慣やBMI(体格指数)が子どもの成長に大きく影響することが示されています。
しかしこれまでの研究の多くは、子どもの初期段階、せいぜい10代前半までのデータをもとにしており、大人になるまでの長期的な影響を追跡したものは限られていました。
では、子どもが成長してからも、その影響は本当に続いているのでしょうか?

今回の研究では、1958年に英国で生まれた1万7000人以上の人々のデータを使用しました。
この調査は、対象者たちが生まれたときから、16歳・33歳・42歳と、複数の時点で追跡されており、母親の体型や喫煙習慣、父親の職業階級、子どもの出生順位、性別など、多数の要因が詳細に記録されています。
研究チームは、以下の3つの時点での肥満状況を調べました。
1:16歳時点での肥満・過体重
2:16歳時点では健康体型だった人が、42歳までに肥満・過体重になったケース
3:42歳時点での肥満・過体重
その結果、母親が肥満であった場合、子どもが42歳時点で肥満になる確率は、母親が肥満でない場合に比べて、約3倍にもなることがわかりました。
また、母親が1日10本以上のタバコを吸っていた場合にも、子どもが肥満になるリスクが有意に高まるという結果が得られています。
これらの傾向は、イギリスで肥満率が大きく上昇する前後の年代を通じて、一貫して観察されたという点も重要です。
つまり、母親の体型や生活習慣が子どもの将来の体型に影響を与える力は、時代を超えて長期的に持続することが示されたのです。
母親の影響を緩和するには?
母親の体型が、子どもの未来の体型に影響する。
この事実は少しショッキングかもしれませんが、同時に、早い段階での予防や介入が効果的であることを意味しています。
妊娠前からの健康管理、妊娠中の栄養と禁煙、産後の育児支援、そして運動習慣の促進など、多くの施策が子供の将来の肥満リスクを下げる鍵になります。
この研究は、親世代の責任を問うものではありません。
むしろ、個人に過剰な負担をかけず、社会全体で「健康な未来」を築くための知見として、重要な一歩になるはずです。

加えて、今回の研究では、個々人の努力次第で肥満は防げることも示されています。
具体的には、33歳時点での運動習慣が、42歳時点での肥満リスクに大きく左右していたことでした。
33歳時点で週4〜5回の運動習慣があった人は、まったく運動しない人に比べて、42歳時点での肥満になるリスクが約45%も低くなっていたのです。
母親が肥満体型で、かつ昔からヘビースモーカーだったという方は、無理のない範囲で運動習慣を身につけるといいかもしれません。
参考文献
Children of moms who smoked or were obese are more likely to become obese adults, study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-03-children-moms-obese-adults.html
元論文
Sociodemographic and early-life predictors of being overweight or obese in a middle-aged UK population– A retrospective cohort study of the 1958 National Child Development Survey participants
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0320450
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部