世界中で7人に1人が、ズキズキと脈打つような片頭痛に悩まされています。
吐き気や嘔吐が伴ったり、立っていられないほどの痛みが生じたりする場合も多く、仕事や日常生活に支障が出てしまいます。
だからこそ、片頭痛持ちの人は必死になって「痛みを抑えてくれる薬」を探し求めてきました。
では、最近創られた薬も含め、既存の片頭痛薬の中で、最も効果的なものは何でしょうか。
イギリスのオックスフォード大学(University of Oxford)に所属するアンドレア・チプリアーニ氏ら研究チームは、約9万人を対象にした大規模研究により、最も効果的な片頭痛薬を特定しました。
新しく創られた片頭痛薬に注目が集まる中、やはり信頼できるのは、「あの薬」だったようです。
研究の詳細は、2024年9月18日付の学術誌『The BMJ』に掲載されました。
目次
- 従来の片頭痛薬
- 新薬「ゲパント」の登場
- 最強の片頭痛薬は「新薬」ではなく「トリプタン」だった
従来の片頭痛薬
片頭痛は、頭部の血管が拡張し、炎症を起こすことで、ズキズキと脈打つような痛みが生じる病気です。
片頭痛が生じるメカニズムは完全には解明されていませんが、遺伝的な要因、ストレス、寝不足/寝すぎ、天候、光、音、月経周期など様々要素が引き金となります。
頻度は一般的に月に1~4回程度だとされていますが、1度痛みが始まると、その強い痛みゆえ、仕事を休んだり予定をキャンセルしたりしなければいけない場合も少なくありません。
こうした事情から、多くの片頭痛患者は、痛みを抑え、何とかその場を乗り切るための「片頭痛薬」を常備しておきたいと感じるものです。
そして、これら片頭痛薬の種類は様々です。
例えば、片頭痛患者にとって身近なのは、アスピリンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤です。
これらは安価であり、市販薬としてドラッグストアなどでいつでも簡単に入手できます。
アスピリンは熱を下げたり痛みを抑えたりする働きがあり、これが含まれる商品として代表的なのは、『バファリン』でしょう。
イブプロフェンも炎症や痛みの原因物質の産生を抑制する薬であり、商品名としては『イブ』が有名です。
ちなみに日本では、ロキソプロフェンもよく使用されており、一般的にはアスピリンやイブプロフェンよりも効果が強いと言われています。
こちらも『ロキソニンS』などの商品名で市販されており、比較的簡単に入手できます。
そして、これらの薬でも痛みが緩和されない場合、医者からトリプタンを処方されるかもしれません。
トリプタンはセロトニン受容体に作用して血管を収縮させたり、血管拡張に関わる物質の放出を抑制したりします。
ただし、その血管収縮作用ゆえ、脳や心臓などの血管障害がある人には使用できず、医師の処方がなければ入手できません。
これらの薬は何十年も前から存在しており、患者たちに長年使用されてきました。
一方で、最近になって新しい片頭痛薬も登場しています。
新薬「ゲパント」の登場
最近、ゲパント(CGRP受容体拮抗薬)と呼ばれる新しい片頭痛薬が登場し、話題を呼びました。
片頭痛の原因の1つであるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、血管の拡張と炎症反応を引き起こすことで知られており、新しいゲパント系の薬は、この受容体を阻害することで、片頭痛の発症や進行を抑えてくれます。
そしてこのゲパントは、これまで使用されてきた処方薬トリプタンに比べて、心血管系への影響が小さいと考えられています。
今のところ日本ではゲパント系の薬剤は承認されていませんが、既にアメリカや欧州ではいくつかのゲパント薬が承認・使用されています。
そのため、長年片頭痛に悩まされてきた患者たちは、この新しいゲパント(承認されている国では高価)に期待を寄せてきました。
日本でも、「昔から存在してきた古い薬」より、この新しい薬に期待している人がいるかもしれません。
では実際のところ、これら様々な片頭痛薬の中で、最も効果的な薬は何でしょうか。
最強の片頭痛薬は「新薬」ではなく「トリプタン」だった
今回、チプリアーニ氏ら研究チームは、片頭痛薬に関する過去の研究137件を対象にしたメタ分析を行いました。
この分析に参加したのは、片頭痛と診断された成人8万9445人であり、17種類の片頭痛薬が彼らにどのような影響を与えたのか比較調査しました。
その中には、最近登場したゲパント、眠気などの副作用がある比較的新しいラスミジタン、昔から存在するアスピリン、イブプロフェン、トリプタンなどが含まれていました。
そして薬の効果性に関しては、「2時間後の痛みの緩和」と、「24時間の持続的な痛みの緩和」についてそれぞれ評価されました。
その結果、2時間後に最も痛みを緩和するのは、以前から存在してきた処方薬トリプタンだと判明しました。
また、24時間優れた緩和効果を発揮するのは、トリプタンとイブプロフェンだと分かりました。
つまり、約9万人を対象にした大規模研究により、即効性と持続性の両方の観点でトリプタンが最強だと判明したのです。
では、最近登場したゲパントは、どのような評価だったのでしょうか。
研究結果によると、最新のゲパントや比較的新しいラスミジタンは、アスピリン・イブプロフェン・ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NASID)と同程度の効果があるようです。
注目を集めている新薬ゲパントは、確かに片頭痛に効果があるものの、実は日本で簡単に手に入る市販薬と同レベルだったのです。
研究チームは、今回の結果から、医師がまずトリプタンを処方することを推奨しており、心臓などに血管障害がある場合には、アスピリンやイブプロフェンなどの選択を勧めています。
そして新しいゲパントについては、「3番目の選択肢として検討されるべき」だと主張しています。
患者によっては、トリプタンやその他の薬に関して、効きが悪かったり、副作用が強く出たりするケースがあります。
そのような場合にこそ、新薬であるゲパントが役立つというのです。
また研究チームは、「最も高い効果を持つトリプタンが、世界的に見てそこまで広く使用されていない現状を残念に思っている」ようです。
今回の研究結果が広まるなら、片頭痛で苦しむ人をより効果的に助けてあげられるようになるかもしれません。
そしてもしあなたが片頭痛で悩んでいて、まだトリプタンを使用したことがないなら、医師に相談してみると良いかもしれません。
参考文献
Which drugs are the most effective for acute migraines?
https://www.oxfordhealth.nhs.uk/news/which-drugs-are-the-most-effective-for-acute-migraines/
Expensive Migraine Drugs No Better Than Cheap Painkillers, Study Finds
https://www.sciencealert.com/expensive-migraine-drugs-no-better-than-cheap-painkillers-study-finds
元論文
Comparative effects of drug interventions for the acute management of migraine episodes in adults: systematic review and network meta-analysis
https://doi.org/10.1136/bmj-2024-080107
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部