「毎朝、アラームのスヌーズ機能と戦いながら、強引に身体を起こしている」
「通勤中や出社直後はいつも頭が冴えない」
「昼食後の猛烈な眠気で仕事どころではない」
こんな経験をしている人は少なくないでしょう。
日本の現在と将来を支えるビジネスマンたちは、絶えず睡眠不足に悩まされています。
最近、筑波大学体育系に所属する武田 文(たけだ ふみ)氏ら研究チームは、日本の企業従業員(1万2476人)の労働パフォーマンスと生活習慣の関係性を分析しました。
その結果、男女ともに睡眠不足が最も強く労働パフォーマンスの低下に関係していると判明しました。
研究の詳細は、2023年11月9日付の学術誌『Journal of Public Health』に掲載されています。
目次
- 日本の労働者は睡眠不足に悩まされている
- 日本の労働パフォーマンス低下の原因は睡眠不足だった
日本の労働者は睡眠不足に悩まされている
日本国内の生産活動を中心になって支えている15~64歳の人口「生産年齢人口」は、超少子高齢化に伴い減少しています。
そのため、いかに生産性を向上させていくかが、日本の大きな課題となっています。
そして労働パフォーマンスに関係すると考えられている分野の1つは、「生活習慣」です。
では、現在と将来の日本を支えている企業従業員たちは、どのような生活習慣のもと、日々働いているのでしょうか。
国際機関「経済協力開発機構(OECD)」による2021年の調査では、33カ国中、日本の平均睡眠時間は7時間22分と最短でした。
また厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の日本人(20歳以上)の割合は、男性37.5%、女性40.6%でした。
年齢階級別で見ると、働き盛りの30~50歳の男性、40~50歳の女性の4割以上が、1日6時間未満の睡眠です。
日本の労働者は明らかに睡眠不足なのです。
では、こうした睡眠不足や他の生活習慣は、実際に労働パフォーマンスに影響を与えているのでしょうか?
武田氏ら研究チームによると、これまでの研究ではその関係性は十分に明らかにされてきませんでした。
そこでチームは、2016年の日本の1企業の従業員(1万2476人、21~69歳)の健康検査、診療報酬明細書、労働パフォーマンスのデータを用いて、生活習慣(喫煙、運動、食事、飲酒、睡眠に関する 11 項目)と労働パフォーマンスの関係を分析することにしました。
労働パフォーマンスに関しては、「世界保健機関 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版」(WHO-HPQ)の調査データから、得点を算出しています。
日本の労働パフォーマンス低下の原因は睡眠不足だった
分析の結果、男女ともに、睡眠不足が最も強く労働パフォーマンスの低下に関係していることが分かりました。
次いで、運動習慣の欠如や、就寝前の夕食も悪影響を与えていました。
そして表からも分かる通り、男性は女性に比べて、より多くの生活習慣が労働パフォーマンスと関係することも分かりました。
これらの結果から、確かに生活習慣は労働パフォーマンスと関係があると分かります。
そして、日本人に顕著に見られる睡眠不足を改善していくなら、日本の生産性を向上させていくことができるはずです。
もちろん、日本の企業従業員の睡眠が不足している理由は様々です。
「仕事量が多すぎて、睡眠時間を削るしかない」という人もいれば、「ついついスマホや趣味に熱中して、夜更かししてしまう」という人もいるでしょう。
また「家事や育児」「通勤時間が長すぎること」などの問題や、睡眠時間自体はきちんと取れていても「仕事や人間関係のストレス」で睡眠の質が低下しているという原因もあるかもしれません。
睡眠不足に関しては、改善が難しい問題を抱える人も多いでしょう。
しかし、労働パフォーマンスを改善するには、「質の高い睡眠を十分に取ること」が必要です。
日本はよく労働パフォーマンスが他国に比べて悪いという話を聞きますが、今回の結果を見ると睡眠時間が調査された33カ国中最低の日本なら当然だと言えるでしょう。
日本の労働者人口が減少傾向に進んでいる現状を考えると、これからの国民の労働パフォーマンスの改善は重要な問題となっていきます。
企業が睡眠時間の重要性を甘く見た労働体制を作っているなら、認識を改め労働環境の改善に努める必要があるでしょう。
また単に自己管理が甘く夜更かししてしまうという人は、この機会に自身の生活の仕方を見直したほうが良いかもしれません。
参考文献
企業従業員の労働パフォーマンス低下には 睡眠による休息の不足が強く関係する
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20231115140000.html
元論文
Relationships between lifestyle habits and presenteeism among Japanese employees
https://link.springer.com/article/10.1007/s10389-023-02136-4
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。