10月23日は「化学の日」です。
日本化学会や化学工学会は2013年10月、化学の魅力や社会への貢献を広く知ってほしいとの想いで、10月23日を「化学の日」、その日を含む月曜〜日曜までの1週間を「化学週間」として制定しました。
この取り組みは元々、アメリカの「モルの日(Mole day)」を参考にしています。
モルの日は化学者や化学を勉強する学生、化学マニアによって10月23日の午前6:02から午後6:02の間に祝われる非公式の祝日です。
日付と時間は、1モル(物質量の単位)の物質中にある粒子の数を定義する「アボガドロ定数(約6.02 × 10の23乗)」に由来しています。
化学とは縁遠い生活をしているという人がほとんどかもしれませんが、せっかくの記念日ですから、少しばかり「化学」について想いを馳せてみませんか?
目次
- 化学ってどんな学問?
化学ってどんな学問?
化学(Chemistry)とは、ごく簡単に言うと、この世に存在するあらゆる物質の秘密を知ろうとする学問です。
具体的には、物質を分子や原子レベルで探究し、物が何から出来ているか、どんな性質を持っているか、物質同士でどんな反応をするかを研究します。
例えば「どうしてサビはできるのか」「なぜコップの水に塩を入れると消えるのか」などは化学が対象とする問いです。
人類は2000年以上も昔から、物質の変化の秘密を解き明かし、自由に操れるようになりたいと願ってきました。
化学の第一歩は、古代ギリシアの哲学者たちに始まります。
彼らは、あらゆる物質が「火・水・土・空気」の4つの元素からできていると考えました。
そして物が「硬い」とか「柔らかい」といった性質は、この4元素の比率で決まると考えたのです。
しかし、”近代化学の祖”とされるロバート・ボイル(1627〜1691)が「4つの元素から万物ができているというのは不正確であり、より科学的な手法で証明しなければならない」と宣言したことから、真の化学はスタートしました。
これを実践したのがフランスの化学者アントワーヌ・ラボアジェ(1743〜1794)です。
彼は元素を「それ以上、細かくできないもの」と定義し、1789年に33個の元素の一覧を発表します。
これ以降、さらに多くの元素が見つかり始め、「複数の元素を結合させることで化合物ができる」という考えも浸透しました。
そして1869年2月17日、ロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフ(1834〜1907)は化学史を大きく変える偉大な発明をします。
それが「元素周期表」です。
元素周期表は「化学者のバイブル」
元素(原子の種類)はあらゆる物質を形作るもとであり、元素を詳しく知ることは化学者にとって最も大切であるといっても過言ではありません。
メンデレーエフは、当時知られていた60種ほどの元素に周期的なパターンがあることを見出し、そのルールに従って元素を図にまとめました。
周期表の元素は、原子番号(陽子の数)の順に並んでおり、左から右にかけて1〜18の「族」があります。この縦列に並ぶ元素同士は、化学的な性質が似ており、特に一番右端の列にならぶ元素は安定性が非常に高く、他の元素とほとんど化学反応を起こすことがありません。
また表は上から下にかけて1〜7段の「周期」に分けられます。
同じ族や周期に位置する元素は互いに性質が似ていますが、一方で、同じ族にある元素でも、周期が違えば性質も微妙に変わってきます。
元素がこの周期表のように並ぶ理由については、後にボーアによって物理学的に説明されることになりますが、もともとは化学者たちの経験から発見されていきました。
こちらが現代の周期表であり、全部で118種類の元素が知られています。
皆さんも学生時代に「水兵リーベ ぼくの船 七曲がりシップス クラークか」と念仏のように唱えさせられた思い出があるでしょう。
メンデレーエフが発表した当初の周期表は見つかっていない元素が多く、空欄だらけでしたが、その後に化学者たちがリレー形式で新しい元素を見つけ、空欄を埋めていきます。
そして周期表のおかげで、化学実験における観測結果の説明ができるだけでなく、似た性質同士の比較から予測も立てられるため、化学研究において広く利用されるようになりました。
無数の知の集大成である周期表は、まさに化学者にとってのバイブルとなったのです。
現存する最も古い周期表
ちなみに現存する最も古い周期表は2014年に、英スコットランドにあるセント・アンドリューズ大学で発見されました。
化学薬品や実験器具などが保管されていた倉庫を掃除していたところ、赤茶けて古びた周期表が出てきたのです。
それは1871年にメンデレーエフが発表した2番目の周期表とよく似ていました。
研究者らが詳しい年代調査をした結果、この周期表は1879年から1886年の間にオーストリアの化学者によって作成されたものであることが特定されています。
これはメンデレーエフが最初の周期表を発表してからわずか10年ちょっとの時期です。
ここから多くの化学者によって、現代の周期表へと進歩していったことを考えると、何か感慨深いものがありますね。
経験的に発見された元素周期表ですが、現代ではその並び順は原子核に含まれる陽子数、元素の示す化学的性質は原子の持つ電子数に由来することがわかっています。
当然陽子数を変化させることができれば、元素は全く別の物質に変化してしまいます。しかし、ここまで行くと化学ではなく原子核物理学という物理学の分野になってしまいます。
物理学者のアーネスト・ラザフォードは、物理学の研究から原子核内の陽子数を変化させることで、元素が別の物質の変わる核変換を発見したノーベル賞受賞者ですが、物理学者の彼が受け取ったのはノーベル化学賞でした。
元素周期表の並び方の意味は、ラザフォードの弟子であり量子物理学者として知られるボーアが説明しています。
そのため元素周期表は、化学と同時に物理学においても重要な存在であり、科学の世界の重要な基礎となっているのです。
参考文献
化学の日の由来になったアボガドロ定数とは何でしょうか?(日本化学会) https://www.chemistry.or.jp/kagakunohi/2014/10/602-1023-mol1.html Periodic Table of Chemical Elements https://www.acs.org/education/whatischemistry/periodictable.html World’s oldest periodic table chart found in St Andrews https://news.st-andrews.ac.uk/archive/worlds-oldest-periodic-table-chart-found-in-st-andrews/