新型コロナウイルスのパンデミックを経て、多くの会社は、完全に、もしくは部分的にリモートワークへと移行しました。
こうした職場環境の変化は、就職や転職において「採用されやすい人」のタイプにも変化が起きている可能性があります。
最近、オランダ・フローニンゲン大学(University of Groningen)行動社会科学部に所属するキリアキ・フシアニ氏ら研究チームは、調査の結果、会社の採用担当者がリモートワークで人柄含めたコミュニケーション能力よりも仕事の実務能力を重視するようになったと報告しました。
この研究は、リモートワーカーが自分に求められる能力を自覚する助けになると同時に、採用担当者たちに対しては、人柄を含むコミュニケーション能力を軽視し過ぎないよう警告しています。
研究の詳細は、2022年12月21日付の学術誌『Elsevier Personality and Individual Differences』に掲載されました。
目次
- オフィスでは人柄やコミュニケーション能力が重視されてきた
- リモートワークで採用されやすいのは仕事に対して「高い能力を持つ人」
オフィスでは人柄やコミュニケーション能力が重視されてきた
新型コロナウイルスのパンデミック発生と共に、社会ではオフィスを離れ自宅で作業する仕事も増えてきました。
これによって同僚との交流が減ったと感じる人も多いでしょう。
確かにテレワークが一般化する前の職場環境では、人と直接会話し、協力・相談しながら仕事を進めるのが当たり前でした。
休憩時間でさえも、交流を深めたり情報交換したりする重要な機会となっていました。
しかし、自宅作業ではほとんどが孤立して行う状況となり、同僚との交流は限定的です。
このような社会変化は、コミュニケーション能力に対する採用担当者の評価にも影響している可能性があります。
例えばコロナ禍以前の採用担当者たちは、能力(知性、器用さ、向上心)よりも温かさや人柄(社交性、礼儀正しさ、親しみやすさ)を重視する傾向にありました。
仕事は早くて正確でも、社内で頻繁に人と衝突したり、取引先に不躾な態度を取ったりするような人は評価が低かったのです。
また面接でも、オドオドして目を見て挨拶できなかったりすると、採用される確率は大きく下がっていました。
対照的に、能力は中程度でも人柄が優れた人(コミュニケーション能力が高い人)は、職場全体の雰囲気を改善し、取引先とも良い関係を築けるため、重宝されてきました。
当然、就活している人たちも、これらのポイントをわきまえることで採用される確率を高めてきたでしょう。
では、パンデミック後はどうでしょうか?
多くの会社ではリモートワークを継続しており、自宅でひとり、1日中無言で働くリモートワーカーたちの採用が増えています。
では、こうした働き手の環境の変化は、採用の傾向にどのような影響を与えるのでしょうか?
フシアニ氏ら研究チームは、これらを明らかにするために2つの研究を行いました。
リモートワークで採用されやすいのは仕事に対して「高い能力を持つ人」
1つ目の研究には、304名の一般人(採用経験が無いか浅い)が参加。
彼らは、リモートもしくはオフィスの仕事に就く候補者2人の情報を読み、自分が人事担当者の立場なら、どちらの候補者を採用するか選択しました。
ちなみに候補者の1人は仕事に対して高い能力を持つ一方、社交性に関する情報は不足している人物で、もう1人の候補者はあまり仕事に対する能力は高くないが社交性などは非常に高いと見なせる人物でした。
例えば業務経験があるけれど学生時代に部活動はなにもしていなかったと人と、業務経験はまだないけれど学生時代は運動部で部長をしていた人、のように考えるわかりやすいかもしれません。
その結果、リモート条件では高い能力を持つ候補者が選ばれやすいと判明しました。
しかしオフィス条件では、候補者の選ばれやすさに違いはありませんでした。
ここからは採用経験がない人たちでも、リモートワークではコニュニケーション能力よりも実務能力を重視する傾向が見て取れます。
2つ目の研究には、一般人ではなく、採用担当者として働いてきた298人が参加しました。
彼らには研究チームが準備した求人の説明を読んでもらい、現在の会社や部署で誰かを採用するケースを想定してもらいました。
そして研究1と同じく特性の異なる2タイプの候補者のうち、どちらかを選択してもらいました。
その結果、採用担当者の職場がオフィスである場合、特に能力よりも人柄を重視する傾向があると分かりました。
しかし採用担当者の職場がリモート環境にある場合、彼らは実務能力の高い候補者の方が適切だと感じ、採用する傾向が高くなりました。
採用経験のある担当者たちは、過去の経験から礼儀正しさやコミュニケーション能力の価値を理解しているため、それを採用基準として持っています。
しかし、リモートワーク環境ではそうしたコミュニケーション能力の優先度を落とし、実務能力を重視する傾向が出たのです。
確かにチャットや一時的なビデオ会議だけで完結するリモートワークでは、良好な人間関係や円滑なコミュニケーションから得られるメリットが最小限になります。
評価の基準が、リモートでも明確に判断できる「仕事の質」や「早さ」、「正確性」だけに限定されるのも不思議ではありません。
そのためリモートワークを望んで就職したり転職したりする人は、面接を受ける際、人柄よりも能力に焦点を当ててアピールをすることで、採用される確率が高まることでしょう。
これはコミュニケーションが苦手な人にとって朗報だと言えるかもしれません。
一方、今回の結果は採用担当者である会社側に警告を与えるものとなりました。
「リモートワーク」というレンズを通して見てしまうと、高いコミュニケーション能力や人間関係を促進させるスキルを持っていない人材ばかりが集まる恐れがあるのです。
研究チームは、仮にリモートワークであっても、長期的に見ると組織を発展させてくれる「人柄の優れた人材」も意識的に採用することを勧めています。
参考文献
Remote work increases recruiters’ focus on competence over warmth when making hiring decisions https://www.psypost.org/2023/02/remote-work-increases-recruiters-focus-on-competence-over-warmth-when-making-hiring-decisions-68395元論文
Applying for remote jobs? You’d better be competent! Teleworking turns recruiters attention to candidate competence over warmth-related skills https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886922005682