アルファシンドロームとは何?
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みなさんは「アルファシンドローム(権勢症候群)」という言葉を見聞きしたことがありますか?アルファシンドロームのアルファには、順位が頂点の犬という意味があるようです。
アルファシンドロームとは、犬が家族の中で自分が一番偉く、他の家族は自分よりも下だと勘違いしている状態のことで”権勢症候群”とも呼ばれています。簡単に言うと、犬が飼い主よりも自分の方が上だと思っていて、自分の方が権力を持って優位に立とうとしている状態のことです。
アルファシンドロームと聞くとその名前のイメージから医学的なことなのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、日本警察犬協会のホームページには、”1歳前後から始まる犬の問題行動のひとつであり、病気の名前ではなく、犬の症状をあらわす言葉である”と説明されています。
そもそも犬はグループで行動をする動物なので、順位を決めたがる傾向があります。しかし飼い主は犬よりも上の地位に立たなければいけません。もし飼い主が犬よりも下の行動をとるのであれば、犬は自分が飼い主よりも上だと勘違いしてしまうことでしょう。
犬は自分の方が優位だと思っている場合、歯をむき出して唸り声をあげたり、威嚇をしたりするなどの行動をとることがあります。また飼い主さんが犬からモノを取り上げたり、体を触ったり、目線を合わせたりなど、犬よりも人間の方が優位である行動を見せると威嚇して、自分の方が優位であると主張します。
アルファシンドローム肯定説と否定説
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オオカミなどのイヌ科の動物は社会性をもって、リーダーを頂点とした集団生活をしています。
犬のしつけの専門家の中には、オオカミを祖先とする犬の習性や行動パターンが狼とよく似ているため、アルファシンドローム説を支持する人たちと、それを否定する真逆の立場をとる人たちの2つに意見に大きく分かれています。では、それぞれの意見をみてみましょう。
アルファシンドローム肯定説
犬のルーツと言われているオオカミ同様、犬には群れのリーダーを中心とする権勢本能があります。その権勢本能が発達してしまうことで、自分がリーダーだと思い、飼い主を見下してしまう問題行動がアルファシンドロームと呼ばれています。
アルファシンドロームを主張する人たちは、オオカミの群れには厳しい上下関係が存在しており、食事は上位のオオカミからとることがルールだったので、それと同様に、人間の食事の前に犬に食事を与えてはいけないというしつけを推奨しています。
また、飼い主さんと同じ場所や同じ高さの位置にベッドやソファーなど犬の寝床を用意すると、犬が自分が上位であると勘違いをしてしまう可能性があると主張しています。
犬は人間社会の中で飼育されている家族はもちろん、すべての人に順位を付ける習性があるため、日々の生活の中で人間が上位であることを教え込むことはとても大切であることを強調しています。
アルファシンドローム否定説
アルファシンドロームを肯定する人がいる一方、否定する人も存在しています。
アルファシンドロームの存在が論拠となっているSchenkel氏の1947年の論文は、野生のオオカミではなく飼育されていたオオカミでした。その論文をMech氏は1999年に反証しています。
Mech氏がアメリカ合衆国・イエローストーン公園に生息している野生のオオカミの群れを観察したところ、野生のオオカミの群れは父母と子どもたちの家族単位で生活していることが分かりました。
そしてリーダーの役割は父親が果たし、父親は獲物をまず子どもに与えます。つまり家族という集団生活なので、厳格な上下関係は存在していないと主張しているのです。
このMech氏の論文から、オオカミの権勢本能は飼育下のみでの研究結果から出された結論なので、アルファシンドロームの存在には根拠がないと否定する人たちがいます。つまり、人間をリーダーとして認識させる犬のしつけ方法には信ぴょう性がないと結論づけているのです。
アルファシンドロームのような行動の原因とは?
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アルファシンドロームのような行動の原因には、犬の要求に対する飼い主さんの反応が影響していると言われています。
たとえば犬が唸ったらモノを譲る、鳴いたらごはんやおやつをあげる、自分の肩よりも高い位置で抱っこする、いつも一緒に寝る、散歩はいつも犬がリードを引っ張っているなどの行動が挙げられます。
これらの行動を毎日積み重ねることで、犬は自分がリーダーだと勘違いしてしまい、問題行動を招く原因となります。
また別の理由として、人間の行動や対応によって心が傷つき、反抗的な行動をとっていることも考えられます。たとえば手術や怪我など過去に痛みを経験したことで、人間が近づくことにトラウマを感じている可能性があります。
さらに飼い主さんの気分によって毎日散歩に連れていってもらえなかったり、満足なごはんをもらえなかったりすることが要因となっているかもしれません。
飼い主さんが甘やかしすぎて接するならワガママな犬になってしまうかもしれませんが、体罰を与えるようなしつけはアルファシンドロームのような症状を引き起こす原因につながります。
ですから犬と一緒に生活していくためには、優しく愛情をもって接しながらも、ダメなものはダメという毅然とした態度でのしつけも欠かせません。
人間がリーダーになるためのしつけ方法とは?
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飼い主さんが犬のリーダーになるためには、犬が主導権を握ることを認めず、犬の要求に従わないことの2つが必要条件となっています。
では飼い主さんはどのように、犬のリーダーになるためのトレーニングを行えるでしょうか?
飼い主さんがまず先に食事を食べる
犬と飼い主さんの食事の時間帯が重なる場合は、まず飼い主さんから食事を始めることが大切です。そして犬の食器は、飼い主さんやその家族の食事が終わるまで犬の口の届く範囲に置かないようにしましょう。
遊びの主導権は飼い主が持つ
犬と遊ぶ際、必ず飼い主さんが主導権を握ることでリーダーであることを認識させることができます。たとえばボールで遊ぶ場合、飼い主さんがボールを持ち出して遊びをスタートし、飼い主さんの意思でボールを取り上げて遊びを終了させましょう。
また犬と引っ張りっこ遊びをする場合は必ず勝つことが必要です。もし勝つ自信がないのであれば、引っ張りっこ遊びは控えるようにしましょう。
マズルをコントロールする
犬のマズルをコントロールすることは、飼い主さんが犬よりも上位であることを認識させるのに役立ちます。なぜなら犬の社会では、順位が上の者が下の者のマズルを軽く噛み、お互いの信頼関係や上下関係を確認していると言われているからです。
では、どのように犬のマズルをコントロールすればよいのでしょうか?それは飼い主さんが犬のマズルの上に手を置き、そのまま数秒間軽く押さえるだけです。犬がマズルを押さえられても嫌がらなければ、飼い主さんをリーダーと認めている証拠です。
一方、マズルを押さえられることに抵抗したり、噛んだり唸り声を出したりする場合は注意が必要です。マズルコントロール以外の方法で、まず犬と上下関係をしっかり築くようにしましょう。
グルーミングに慣れさせる
犬の体を定期的にグルーミングすることで犬はどの部位を触っても嫌がらなくなり、飼い主さんをリーダーと認めることにつながります。グルーミングに慣れるまでは大変かもしれませんが、大人しく言うことを聞くようになったら、ご褒美におやつなどをあげて少しずつ慣らしていくようにしましょう。
そして犬が床の上でのグルーミングに慣れたら次のステップとして、テーブルやベンチの上に乗せてグルーミングをしてみましょう。高い位置でのグルーミングに慣れれば、動物病院の診察台やドッグサロンでのトリミングなどもスムーズに行えるでしょう。
伏せや仰向けにさせる
伏せや仰向けのトレーニングは上下関係を築くのに役立ちます。犬が伏せの命令を1回で聞くことができるようになったら、その状態で数分維持できるトレーニングをしましょう。支配的で攻撃性のある犬の場合、伏せの命令を聞かずに怒ることがあるので、習得するまでには時間を必要とすることもあります。
伏せをマスターできたら、次のステップとして仰向けのトレーニングを始めましょう。まずは太ももの内側を触ることから始め、最終的にはお腹を見せて仰向けになることを目指してトレーニングしていきます。犬にとってお腹を見せるという行動は、自分の弱点を見せる服従のサインです。つまり飼い主さんをリーダーとして認めていることになります。
毅然とした態度でトレーニングをする
トレーニングをする際、常に飼い主さんがリーダーであるという一貫性を維持することはとても重要です。すぐに怒ったり、極端に甘やかしたりするなど、犬の態度に合わせて自分の態度を変えてはいけません。