アニマルホーダーとは?
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「アニマルホーダー」(animal hoarder)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?アニマル(animal)は、動物という意味ですが、ホーダー(hoarder)とは、モノを捨てられず、溜め込む・片づけられないという意味があります。
そのため、「アニマルホーダー」とは、自分の飼育能力を超えて、たくさんのペットを飼育する方のことを言います。犬や猫などの動物を次々と家に連れてきてしまい、抱え込む方と言えるでしょう。
アニマルホーダーを別名では、「アニマルコレクター」とも呼ばれています。また、アニマルホーダーのことを「過剰多頭飼育者」とも言われています。アニマルホーダーは、管理が可能な状態を超えた動物を飼育することになるため、エサは最低限しか与えられません。そのため、ペットは栄養不良になってしまうでしょう。
また、アニマルホーダーのペットたちの居住スペースは、ほとんどありません。アニマルホーダーは、多くの動物を飼育するため、ペットの管理が行き届くことができませんから、医療ケアなどができません。
その結果、ペットたちの健康が損なわれてしまいます。そして、アニマルホーダーは、動物たちの衛生面の配慮が足らなくなってしまうため、動物の汚物が散乱してしまいます。
また、動物の汚物によって害虫の発生が起こってしまいます。それだけではありません。アニマルホーダーは多くのペットの管理ができていないため、悪臭・感染症の発生の元となり、周りの近所の人々に悪影響を与えてしまいます。
そして、多頭飼育の崩壊により、ペットたちの餓死や、共食いといった悲惨な状態に陥ってしまうのです。考えただけでも恐ろしい光景ではないでしょうか。
しかし、アニマルホーダーは、飼育能力がないのにも関わらず、ペットたちを手放すことができません。犬や猫などのペットは、自分のもとにいるのが一番の幸せであると考えてしまいます。
そして、自分がアニマルホーダーという自覚がありません。そのため、周囲の被害を認識することもできないでしょう。
以前、名古屋市の市営住宅において猫を多数飼育していたため、悪臭被害が起きたことがありました。また、神戸市の市営住宅では、猫の多頭飼育による悪臭を理由に強制退去処分されています。このような過剰多頭飼育の問題は、たくさんの犬や猫たちが苦しむ結果になっていると言えるでしょう。
アニマルホーダーの問題点とは?
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アニマルホーダーの問題点は、たくさんの犬な猫などのペットを飼育している、というのが問題ではありません。たくさんの犬や猫を飼育していたとしても、次のようなケースは「アニマルホーダー」とは言えないでしょう。
ペット数に見合う広さの敷地など適切な飼育スペースがあること、食事をきちんと与えてペットたちの世話が行き届くことが可能であること、健康状態をいつも把握し、必要な医療ケアができる経済力があること、いつも衛生的な環境を保つことができるなどです。
たくさんの犬や猫などを飼育していたとしても、飼い主に飼育する能力があれば、ペットたちにとっても、周囲にとっても、悪影響を与えることはないからと言えるでしょう。
では、アニマルホーダーになってしまう方は、性格的に問題があるということなのでしょうか?そうではありません。アニマルホーダーの一番の問題点は、心の病気が関係していると言えるでしょう。
近年、日本のニュースでは、ゴミ屋敷についてよく取り上げられています。ゴミ屋敷の住人の方々は、ゴミなどに執着心があり、手放したがりません。アニマルホーダーもゴミ屋敷の住人の方々と似たような心理があるのかもしれません。アニマルホーダーは、動物たちの収集に執着心があるからです。
アニマルホーダーになる傾向については、まだ研究段階のため、はっきりしたことは分かりませんが、過去のトラウマや、生育歴が関係しているのかもしれないと言われています。
アニマルホーダーについては、日本において近年になってから注目されるようになってきました。しかし、10年以上前からドイツや、アメリカでは、アニマルホーダーはすでに問題になっています。そして、すでに深刻な社会問題として取り上げられています。
それに比べ日本では、アニマルホーダーについて取り上げられることが少ないと言えます。アニマルホーダーは、収集癖や依存症、強迫性障害などに似た精神疾患とも言われています。そして、アニマルホーダーは、高齢者などの孤独を感じている方が多いと言われています。周りの人間や社会から自分が孤立しているように感じてしまい、動物たちに依存してしまうのです。
その結果、飼育する能力がないのにも関わらず、犬や猫などの動物を多頭飼育してしまうのです。そして、自分がアニマルホーダーという認識がないため、問題を解決するためには、周りの方の助けが必要になるでしょう。ボランティアの方や、臨床心理士、精神科医などの方と連携を取りつつ、病気と向き合うことが大切です。アニマルホーダーの詳しい事例を見てみましょう。
日本のアニマルホーダーの事例
神戸市東灘区の市営住宅において40代の女性が53匹の猫を放置していたため、神戸地裁により、2017年4月に強制退去処分を受けました。女性の部屋には、猫の糞尿が人の膝の高さまで堆積した状態にありました。また、家具や畳などに汚物が染み込んでいました。さらに、猫の死骸があり、死骸からハエやうじ虫が湧いていました。
また、深谷市の借家において約100匹の猫を飼育していた50代男性が市長を脅迫し、逮捕される事件がありました。そして、相模原市の女性が13匹の猫を飼育して11匹の死骸を埋めたことで逮捕される事件がありました。
海外のアニマルホーダーの事例
2002年1月に暖炉の修理工から室内の状況について連絡を受けてナンシー・クロスという方の家に入ったシェルタースタッフは、裏庭に埋められていた犬29匹の死骸を見つけました。そして猫3匹、犬63匹、亀1匹を救出しました。
複数の動物虐待法違反により、有罪宣告を受けました。また、8,327ドル(日本円に換算すると約10万円)の罰金が課されました。
アニマルホーダーにもタイプが幾つかある
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アニマルホーダーはみんな同じタイプの方々ではありません。アニマルホーダーの中でも、いくつかのタイプに分けられるでしょう。まず、たくさんの犬や猫などを飼育するのは、自分の使命であると信じており、多頭飼育は善意の行動であって自分は動物たちを救助し、保護していると思っているタイプです。
このタイプのアニマルホーダーは、自分の行動が正しいと思っているため、他の方の介入をかたくなに拒むことでしょう。また、アニマルホーダーの中でも、自分の話し相手が人間ではなく、動物だけだというタイプがいます。
このタイプは、犬や猫などの動物たちに過剰に愛情を注ぎ込み、次々と動物の数が増えてしまいます。しかし、周りに相談できる方がいないため、アドバイスをもらうことができず、どうしようもできない状況に陥ってしまいます。
その他にも、普通にペットとして犬や猫たちを飼い始めたものの、犬や猫たちが家庭内で繁殖してしまった、というタイプがいます。このタイプは、動物たちが家庭内で繁殖してしまい、このままではいけないと分かっていますから、他の方の介入を受け入れるケースがあります。
アニマルホーダーの中でも、ペットたちに対する愛情がないのにも関わらず、モノを衝動買いするかのように、自分のエゴによってたくさんの犬や猫などの動物を飼育してしまうタイプがいます。このタイプの場合、動物たちの世話や給仕、医療ケアなどをほったらかしにしてしまいます。結果的に、飼育放棄の状態になってしまいます。
しかし、このような飼育放棄状態に罪悪感を感じることはありません。このケースの場合、アニマルホーダーであることが発見しにくいと言えるでしょう。また、このタイプは他の方の介入を一切受け入れたがらないケースが多く、対応が難しいとされています。
しかし、アニマルホーダーの中には一般の飼い主だけ、というわけではありません。アニマルホーダーは、動物たちの繁殖業者の中にも存在します。売買目的などにより動物たちの繁殖を繰り返してしまったため、手に負えないほど動物たちが増えてしまったタイプです。
繁殖業者は通常、動物たちの健康管理や遺伝病などについての知識を持って、計画的に繁殖を行うものです。繁殖業者は、良い犬種保存を目的として通常、繁殖を行うことでしょう。しかし、アニマルホーダーとなった繁殖業者は、子犬を効率よく生産して販売することに一生懸命になってしまい、繁殖犬をモノのように扱った、悪徳繁殖業者がいます。
犬の健康や環境に余計なお金、労力をかけたくない繁殖業者については、最近ニュースで聞かれるようになりました。悪徳繁殖業者のことが「子犬工場」と呼ばれており、現在問題になっています。
これらのタイプのアニマルホーダーについて知ることは大切です。なぜ動物たちを収集してしまうのか、その理由を探ってアニマルホーダーを解決するのに役立つからです。アニマルホーダーの方たちは、基本的に心のケアが必要な病気です。アニマルホーダーであることが発見されるのは、一般的に近隣住民からの苦情によってと言えるでしょう。
ペットたちの悪臭や、鳴き声がするなどからアニマルホーダーであることが発覚するケースが多く見られるようです。しかし、日本の法律では、ペットはモノという扱いになっており、ペットは飼い主の所有物のため、行政がなかなか踏み込めないのが現状です。