12歳までにスマホを持つと「3つの健康リスク」が高まる
小学生のうちからスマートフォンを持つことが当たり前になった現代。
しかし、その“早すぎるスマホデビュー”が、子どもたちの未来にどんな影響を及ぼすのか、私たちはまだ十分に理解できていません。
そんな中、米フィラデルフィア小児病院(CHOP)を中心とした研究チームが、1万人以上の青少年を対象に「スマホ所有と健康リスク」の関係を調査。
結果、12歳までにスマホを持つことは、うつ病・肥満・睡眠不足という3つの健康リスクの上昇と有意に関連していたのです。
研究の詳細は2025年12月1日付で医学雑誌『Pediatrics』に掲載されています。
目次
- スマホ所有で高まる「うつ・肥満・睡眠不足」のリスク
- 「便利」と「リスク」のはざまで。スマホ所有をどう考えるか
スマホ所有で高まる「うつ・肥満・睡眠不足」のリスク
今回の研究は、アメリカ全土の青少年約10,600人を対象とした「青年期脳認知発達研究(ABCD)」のデータを分析したものです。
対象者の平均年齢は12歳。
スマートフォンを12歳までに所有しているグループと、持っていないグループを比較した結果、3つの健康リスクに明確な差が表れました。
まず注目すべきは「うつ病」です。
12歳時点でスマホを所有していた子どものうち、うつ病と診断された割合は約6.5%。
一方、スマホを持っていなかった子どもは約4.5%でした。
わずかな違いに思えるかもしれませんが、大規模データではこれは統計的に有意な差であり、スマホ所有がメンタルヘルスに与える影響の可能性を示唆しています。
次に「肥満」です。
スマホを持っている12歳児の約18%が肥満に該当し、持っていない場合は約12%にとどまりました。
運動量の減少や、夜遅くまでのスマホ利用による生活リズムの乱れが背景にある可能性が考えられています。
最後は「睡眠不足」です。
スマートフォン所有者の47%が、1日あたり9時間未満しか睡眠を取れていないと回答しました。
これに対し、スマホ非所有の子どもでは31%。ベッドの中でつい画面を見てしまう“寝る前スマホ”が、子どもたちの眠りを奪っている現状が浮かび上がります。
これらのリスクは「より早くスマホを持った子ども」ほど高くなる傾向も示されており、小学生でスマホデビューの影響は決して小さくありません。
「便利」と「リスク」のはざまで。スマホ所有をどう考えるか
では、なぜスマートフォンがこうしたリスクと結びつくのでしょうか?
本研究では「どのような使い方」が問題なのかまでは特定していませんが、他の先行研究からは、SNS利用による人間関係のストレスや、長時間の画面視聴、就寝前の利用による睡眠障害など、複数の要因が絡み合っている可能性が指摘されています。
また、「早くからスマホを持つ」ことで、大人と同じネット環境にさらされる時間が長くなることも、心身のリスクを高めているかもしれません。
一方で、スマートフォンは現代社会において“なくてはならないツール”となっています。
保護者と子どもの連絡手段や、安全確保のために早めにスマホを持たせたい家庭も少なくありません。
研究を主導したラン・バルジライ医師も「スマートフォンが常に有害だと言いたいわけではなく、健康への影響を十分に考慮したうえで慎重に与えるべき」とコメントしています。
現状では「スマホ所有そのもの」がリスクなのか、「利用の仕方」が問題なのか、科学的にははっきりしていません。
研究チームも今後は、アプリの種類や利用パターン、どんな子どもがリスクを受けやすいのかなど、さらに詳しい検証を進める予定です。
家庭でできる対策としては、「利用ルールを家族で決める」「寝室や食卓での利用を制限する」「プライバシー設定やコンテンツ制限を活用する」などが推奨されています。
スマートフォンを完全に遠ざけるのではなく、正しい知識と習慣を身につける“デジタルリテラシー教育”も今後ますます重要になるでしょう。
参考文献
Owning a Smartphone at Age 12 Is Linked to These Health Issues in Kids
https://www.sciencealert.com/owning-a-smartphone-at-age-12-is-linked-to-these-health-issues-in-kids
Children’s Hospital of Philadelphia Study Links Smartphone Ownership in Childhood to Increased Risk of Depression and Obesity in Youth
https://www.chop.edu/news/childrens-hospital-philadelphia-study-links-smartphone-ownership-childhood-increased-risk
元論文
Smartphone Ownership, Age of Smartphone Acquisition, and Health Outcomes in Early Adolescence
https://doi.org/10.1542/peds.2025-072941
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部