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キプロスでは現在、毒性の強い猫コロナウイルスが蔓延し、多くの猫が命を落としています。
このウイルスは通常、猫たちに軽度の腹痛のみを引き起こしますが、新たに蔓延している猫コロナウイルスは猫の白血球に感染して全身に広がるように進化しており、腹部・腎臓・脳などで致命的な炎症反応「猫伝染性腹膜炎(FIP)」を引き起こします。
これまでにも猫コロナウイルスが原因でFIPを起こすことは知られていましたが、症例数は非常に少なく、2021年には3件、2022年には4件だけが報告されました。
しかし2023年になると症例数が急増。
1月だけで98件となり、その後爆発的な増加が起こりました。
キプロス猫保護福祉協会(PAWS)は今年の初め以来、30万匹の猫がFIPにより死亡したと推計しています。
キプロスは野良猫が非常に多く生息する「猫の島」として知られており、島全体で100万匹もの猫が生活していると言われていますが、その3割ほどが死亡した計算になります。
一方、エディンバラ大学の研究者たちは全体の死亡数は不明なものの、前年比で40倍という猛烈な勢いで増加しており、少なくとも数千匹が死んでいると報告しています。
推計に数千から数十万と大きな幅があるのは、キプロスに住む猫たちの多くは野良猫として生活しているため、死亡したかどうかを正確に知るのが困難だからです。
しかしいずれにせよキプロスの猫たちの間で致死性のウイルスが蔓延していることは確かです。
研究者たちは、猫コロナウイルスの蔓延した背景には、人間の間でパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスが関連しているかもしれないと述べています。
新型コロナウイルスは猫にも感染することが知られており、従来の腹痛を起こすだけだった猫コロナウイルスの進化を促した可能性があるからです。
現在、レバノンやトルコ、イスラエルなど野良猫が多い国でも、猫コロナウイルスが増加しているとする獣医たちの意見がありますが、ヨーロッパでは同様の感染被害は確認されていません。
もしキプロスの猫コロナウイルスが人間の新型コロナウイルスのように世界中でパンデミックを起こせば、世界中の猫たちに異常な大量死が起こるかもしれません。
そのため英国獣医師協会(BVA)では、キプロスから連れてこられた猫に対して厳重な検査をするように勧告しています。
ですが問題が起きているのはキプロスだけではありませんでした。
世界保健機関(WHO)は7月16日に、ポーランドで数十匹の猫が高病原性の鳥インフルエンザによって死亡したと発表しました。
鳥インフルエンザは主に鳥類の間で感染するインフルエンザですが、変異すると種を超えて他の動物に感染が広がる場合があります。
しかし問題となっている鳥インフルエンザ「H5N1」はある意味で別格でした。
H5N1は1996年に発生し、まず鳥類の間で大流行を引き起こしました。
そして2020年になると「2.3.4.4.b」と呼ばれる変異種が誕生し、アフリカ・アジア・ヨーロッパ・南北アメリカと前例のない規模で感染を拡大させ、膨大な野鳥を死亡させました。
また野生の鳥からの感染はニワトリなどの家禽にも及び、5大陸80カ国以上の国で億単位の家禽が殺処分を受ける原因となりました。
このような広範囲の大流行は既存の鳥インフルエンザでは知られていません。
さらに被害は鳥類に留まらず種の壁を越えていきました。
近年になり、鳥インフルエンザが種を超えて哺乳類に感染しはじめていることが判明しました。
たとえばスペインの養殖ミンク、アメリカのアザラシ、ペルーのアシカなど少なくとも26種で致死的な大流行を起こしたとする報告が相次いでいます。
特にアシカへの影響は大きく、チリ当局は先週、鳥インフルエンザが原因のアシカの死亡数が1万3000頭に達したと発表しました。
そして今回、ポーランドでは猫の間で鳥インフルエンザ流行が起こったとWHOが発表しました。
WHOの報告書によると、ポーランドでは全国で猫の異常な死が発生していることを受けて、47匹の猫(うち1匹はカラカル)に対してウイルス検査を実行。
結果、29匹が最近ポーランドの家禽で大流行を引き起こした鳥インフルエンザ(H5N1)に感染していることが判明しました。
また鳥インフルエンザに感染した猫29匹のうち11匹が死亡し、14匹が助かる見込みがないとして安楽死させられました。
感染した29匹のうち25匹(86%)が結果的に死亡したことから、毒性は極めて高いと推測されます。
また症例も極めて深刻であり、一部の猫たちは呼吸困難、血性下痢、体の痙攣など神経症状、肺炎を発症、急速に悪化して死亡してしまいました。
これまでの研究により、種をまたいだ感染はしばしば毒性が強化されることが報告されています。
たとえば2012年に確認されたMERS(マーズ)は元々ヒトコブラクダが自然宿主でしたが、人間に感染するように変異したことで致死率は35%にも上昇しました。
一方MERSは元々の宿主であるラクダにはそれほどの毒性を示しません。
これはあまりにも高い致死率は自らの感染先をも失わせてしまうため、長年の共生関係を通じてウイルスが宿主にあまり高い毒性を与えないように進化したためです。
しかし変異によって人間に感染するようになったMERSは人間との関係が極めて希薄で、ある意味調節がされておらず、致死的な毒性を発揮してしまったと考えられます。
鳥インフルエンザが猫などの哺乳類に高い致死性を発揮している理由も、同様の種をまたいだ感染が「未調整」だからだと言えるでしょう。
実際、猫たちに感染した鳥インフルエンザを分析したところ、哺乳類に感染しやすくなるようにウイルス遺伝子が2カ所変異していることが明らかになりました。
しかし憂慮すべき問題は毒性の高さだけではありません。
29匹のうち25匹は身元が確認できており、5匹は完全に室内飼い、18匹はベランダや庭への限定的なアクセスができる準室内飼いであり、完全に野外で生活していたのは2匹だけでした。
そして野鳥と接触する機会があったのは25匹中7匹のみとなっていました。
この結果は、猫たちへの感染ルートが野鳥との直接的な接触以外にも存在することを示しています。
地元メディアの調査では感染した(29匹中の)24匹の食事が調べられており、そのうち13匹が鳥の生肉をエサとして与えられていたことが判明していますが、全てのケースに該当する原因は見当たりません。
幸いなことに現在のところ、猫から人間に鳥インフルエンザが感染した例は報告されておらず、一般的な猫の飼い主のリスクは高くないと考えられます。
また鳥インフルエンザの感染は人間でも観察されていますが、人間から人間への感染は起きていません。
ただこのまま鳥インフルエンザの流行や種を超えた拡散が続けば、いつか人間から人間に感染する毒性の強い変異株が出現する可能性もあります。
第一次大戦期に流行したスペイン風邪(H1N1)も鳥類が持つA型のインフルエンザウイルスであった可能性が指摘されており、5000万~1億人もの死者を出しました。当時の世界人口が20億人以下であることを考えると凄まじい数字です。
そのため現代でもし鳥インフルエンザが人間から人間への感染を起こすようになった場合、同様の大規模なパンデミックが起きる恐れもあります。
研究者たちは鳥インフルエンザの流行パターンが近年になって急速に変化していると述べており、変異の出現をいち早く察知できるよう監視システムの強化が重要であると結論しています。
参考文献
Influenza A(H5N1) in cats – Poland https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON476 CAT P.A.W.S Cyprus https://www.catpawscy.com/syndesmos