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猫は高いところから飛び降りたとしてもうまく体を回転させ、何事もなかったかのように着地します。その平衡感覚を司っているのは猫の『三半規管』と関係しています。
三半規管内部のリンパ液に環流が生じると、猫の脳は頭がどの方向にねじれているのかを自動的に感知します。その情報は脳内の前庭神経などを経由し、最終的に重力に対して安定した体勢を計算して立て直すように体を動かします。
■視覚による立ち直り反射
猫が高いところから飛び降り体がねじれると、感知された体の傾きが前庭神経に伝わります。それと同時に、目に写る景色の情報を元に、不安定な視界を元に戻そうとする機能が働き、空中で体勢を立て直ししようと反射が起きます。その結果猫はバランスを整えて足から無事に着地することができます。
■頚部筋肉による反射
猫の首の中には筋紡錘(きんぼうすい)と呼ばれる伸張センサーが存在し、猫の首に不自然なねじれが生じるとそのセンサーが反応します。ですから筋肉の伸長を感知すると伸張反射が働き、筋肉の収縮がおきて不自然に伸ばされている筋肉をもとに戻そうとします、頭部は前方、眼球は水平を向くように自動調節される体になっているのです。
このように猫のバランス感覚の良さは三半規管反射、視覚による立ち直り反射、頚部筋肉による反射といった体の構造によって保たれています。
WilleeCole Photography/shutterstock.com
上述のように猫は様々な体の器官によって瞬時に動きの情報を察知します。では高い所から飛び降りたときに、これらの情報は具体的にどのような姿勢制御を行うのでしょうか。一連の動きを詳解しましょう。
1.「空中立位反射(くうちゅうりついはんしゃ)」
各器官から伝えられた情報によって、猫は落ちる時に頭や顔の重力に対する向きを自動的に計算して、うまく体を回転させながら体が倒れてしまわないように調整します。これを「空中立位反射(くうちゅうりついはんしゃ)」といいます。このおかげで安全着地できる体勢に体を整えられます。
2.体を拡げる
高い所から落ちた場合、体制が整い次第、猫は足が水平に伸びきるように筋肉の緊張を解きます。次に猫は『パラシュート』のように、もしくは『ムササビ』のように体を出来るだけ広げて落下します。このようにすることによって空気ブレーキが作用し衝撃を最小限に抑えることができるようです。猫の体には、いわばジャイロスコープのように物体の向きや速度を検出する計測器が備わっているかのようです。
猫の体には瞬間情報察知能力以外にも、スムーズな動きを可能にする要素があります。以下のような要素です。
■しなやかな体
猫の体はくねくねしていてとてもしなやかです。だからこそ空中立位反射ができるのです。しなやかな身のこなしは関節の柔らかさに由来します。また犬に比べて内臓が自由に移動できる体になっているので空中でも無理なく体をねじることができるのです。
■猫背
「猫背」という言葉がありますが、実は歩いている時は猫背ではありません。猫の背骨は、短い円柱状の骨(脊椎)が連なっています。空中ではムササビのごとく『ふろしき』のように広がっていますが、着地の時は猫背状態に丸くなり衝撃を吸収して着地しているのです。
■肉球
ねこちゃんの肉球も、高いところから着地するためにはなくてはならないものです。肉球のプニプニとした弾力が着地の際の衝撃を吸収する『クッション』の役割を果たしてくれるからです。肉球のおかげでそのため身体へのダメージが軽減されるのです。
猫が着地できる高さはそれぞれのねこちゃんの体重や運動神経の良し悪し、また体質などによっても変わってきます。高いビルや高い木から落ちても平気な猫ちゃんもいれば、小さな木から落ちてケガをしてしまうねこちゃんもいます。
空中立位反射が成立するのに必要な条件として、距離は約60センチメートル、必要な時間はわずか0.125~0.5秒程度といわれています。ですから高いところから落ちた時よりも、あまりにも中途半端に低いところから落ちた時の方が体勢を整える時間が少ないため、かえって重傷になりやすい傾向があるともいわれています。落下距離が短いために受け身の体勢をとる前に落っこちてしまうのでしょう。
また、想像を絶するような高いところから飛び降りたねこちゃんであっても本能的に『ムササビテクニック』を上手に用いることができたなら、比較的軽傷ですむかもしれません。