はじめに
ホテルや旅館とは、ひと味違う旅の魅力を味わえる「ゲストハウス」。外国人旅行者の増加や旅行スタイルの多様化などを背景に、ここ数年で質の高い体験を提供するゲストハウスが続々とオープン、注目を集めるようになりました。おしゃれな見た目に充実した設備、ローカルを感じられるもてなしなど、その特徴はさまざま。今回はそんな中でも、特にユニークな体験ができるゲストハウスをご紹介します。かつての“安宿”のイメージをガラリと変えるこれらのゲストハウスは、初めて利用する方にもおすすめです。
Text&Photo: Jin(ゲストハウスマニア / ホテルマーケター)
ゲストハウスは「出会い、交流、新たな発見が生まれる場所」
「そもそもゲストハウスって何?」「ホテルや旅館とはどう違うの?」そう思っている方も、まだまだ多いと思います。「ゲストハウス」についての厳密な定義はありませんが、一般的には以下のような特徴を持つ宿泊施設を指すことが多いです。
・素泊まり(食事の提供がない)
・客室のメインはドミトリー(相部屋)
・トイレやシャワーは共用
・共用のキッチンやリビング、ラウンジなどのスペースがある
・価格は一般的なホテルの1/2 ~1/3程度
同様の施設を指す言葉として「ホステル」がありますが、こちらはビルを改装しカフェバーなどを併設した中規模の宿のことを、「ゲストハウス」は民家などを改装した個人経営の小規模の宿のことをイメージする方が多い印象があります。ただ、両者を区別する明確な定義はないようです。
ゲストハウスの魅力は、何といっても、そこに訪れる様々な人との交流やつながりが生まれやすいこと。リビングやラウンジなどで、自然とゲスト同士やスタッフとの会話が生まれ、旅の情報交換をしたり、飲みながら語り合ったり、気があった人同士で翌日から行動を共にしたり……。ホテルなどと比べて地域に密着している宿が多いので、地元の人しか知らないディープなお店やスポットを紹介してくれたり、ローカルのコミュニティに家族のように迎え入れてくれたり、なんてことも珍しくありません。
このように、予期しなかった出会い、発見が生まれやすいのがゲストハウスの大きな魅力です。僕自身、ゲストハウスで知り合って、その後も長く付き合っている友人が日本人に限らずたくさんいます。(中にはゲストハウスで知り合い、結婚した友人カップルまで!)今や宿泊施設の選択肢として定着しつつあるゲストハウス。そのなかでも、ここでしかできない特別な体験を提供してくれる施設をご紹介します!
①文化財に泊まる! 源泉掛け流しの純和風ゲストハウス「ケイズハウス伊東温泉」(静岡県伊東市)
これが、ゲストハウスなのか……!?
これまで数多くのゲストハウスやホステルを訪れてきましたが、その中でもっとも衝撃を受けた宿の一つです。目の前に現れたのは、純和風の日本建築に洋風の望楼(展望ドーム)を併せ持った、特徴的な外観の建物。風格あふれるその佇まいは、これまでに泊まってきたゲストハウスやホステルとは、ひと味もふた味も違うものでした。
それもそのはず、この宿は築約100年、国の有形文化財の元老舗旅館を、そのままゲストハウスにした贅沢な施設なんです。いたるところに当時の職人の技が施されており、大正時代の趣を感じさせるデザインやしつらえ、小物使いは、風情があってとっても素敵です。床板や柱にも厳選された材木や銘木が使用されていて、リッチな気分にさせてくれます。
この宿のもう一つの大きな魅力は、ゲストハウスでは珍しい、源泉かけ流しの天然温泉が付いていること。大抵のゲストハウスやホステルにはホテルのような浴場はなく、シャワーブースやユニットバスしかないことがほとんど。でも元々温泉旅館だったこの宿には、100%源泉かけ流しの大浴場が付いているんです。広々とした浴槽で味わう温泉の心地よさは、まさに極上。わざわざ日帰り温泉に足を運ばなくても、良質な天然温泉を思う存分堪能することができます! それとは別に貸切風呂も用意されているので、大浴場は苦手という人も安心です。
目の前に伊東大川を望むロケーションも抜群で、客室の広縁や望楼からの景色は、いつまでも眺めていられます。日が暮れてライトアップされた建物はさらに情緒が増すので、その姿を見ながら周辺をゆったり散歩するのもいいですよ!
◆ケイズハウス伊東温泉
住所:静岡県伊東市東松原町12-13
電話:0557-35-9444
②野尻湖の自然に包まれて、アウトドアを満喫「ゲストハウスLAMP(ランプ)野尻湖」(長野県信濃町)
長野県の北部、野尻湖の湖畔にあるゲストハウス「LAMP(ランプ)」は、アウトドアスクールから生まれ変わったゲストハウスです。この地で45年続いていたアウトドアスクールを改装し、2014年にオープンしました。
こちらの魅力は、なんといっても思う存分自然を“体験”できること。春は山菜採りツアー、夏はカヤックやカヌーにラフティング、秋はきのこ狩りツアー、冬はクロスカントリーなど、四季それぞれのレジャーを満喫することができます。
生まれて初めてカヤックを体験したのですが、未経験のうえに泳げないので(笑)最初はドキドキでした。でもインストラクターがしっかりサポートしてくれるので、どんな人でも安心して楽しむことができます。自分でパドルを漕いでたどり着く水上からの景色は格別で、湖面をかく音、鳥の声、ときおり顔にかかる水の冷たさなど、五感で自然を感じられる心地よさは、忘れられません。
そしてLAMPを語るうえで外すわけにはいかないのが、併設されたレストランのレベルの高さです。レストランやカフェバーがあるゲストハウスやホステルは多くありますが、LAMPの料理はその中でもトップクラスのおいしさ! 地元の食材をふんだんに使った料理はハズレがなく、一押しのハンバーガーはもちろん、焼き野菜、チキンレッグ、ラムチョップ、ミートボール……と、どれも絶品。僕は2日間でディナーメニューのメインディッシュを、ほぼ全て制覇してしまいました(笑)。スタッフも皆、明るく人懐っこいので、カウンターを利用すれば、楽しい時間を過ごせること請け合いです。
◆ゲストハウスLAMP野尻湖
住所:長野県上水内郡信濃町野尻379-2
電話:026-258-2978
③日本一のパワースポット・富士山を間近に感じられる宿「ゲストハウスときわ」(静岡県富士宮市)
富士山から拝むご来光も、もちろん素晴らしい光景ですが、「間近に見る富士山から昇る朝日」もまた、それに劣らぬ美しさがあります。
JR富士宮駅から歩いてすぐ、富士山の麓にある「ゲストハウスときわ」。この宿でできる特別な体験が「早朝富士山絶景ガイドツアー」です。日の出と富士山の絶景を見に、「逆さ富士」でも有名な田貫湖へ、オーナーの運転で連れて行ってもらえます。
訪れたのは1月だったので早朝はとても冷えたのですが、待っていたのは、それすら忘れるほどの美しい光景でした。それまで富士山を覆っていた厚い雲が、日の出とともにすうっと姿を消したかと思うと、顕になった富士山を照らしながら、ゆっくりと朝日が昇ってきたのです。例えようがないほどに神秘的なその光景を前に、ただただ心を奪われ立ち尽くすことしかできませんでした。
ツアーの行き先は季節によって変わり、11〜4月は田貫湖、5〜11月は富士山5合目となります。田貫湖の帰りには白糸の滝に寄ってもらえるのですが、こちらも圧巻の光景が広がるパワースポットです。ちなみに田貫湖では、4月には富士山の山頂から朝日が昇る「ダイヤモンド富士」が見られるので、その時期を狙ってみるのもいいかもしれません。
(画像右)写真提供:ゲストハウスときわ
「ゲストハウスときわ」は、実家に帰ってきたような、田舎の親戚の家に遊びに来たような、どこかほっとできる雰囲気が落ち着く、小さな宿です。建物は本館と別館に分かれており、本館は女性専用となっているので、ドミトリーに不安がある方でも安心です。看板犬のだるまくんが迎えてくれるのも嬉しいところ。
ゲストハウスから徒歩圏内には、富士宮グルメが楽しめる「お宮横丁」や、富士信仰の総本山である「浅間大社(富士山本宮浅間大社)」があります。浅間大社は富士山の「気」が溜まる龍穴(大地の気がみなぎる場所)とされるパワースポットで、特に早朝に訪れると神聖な気持ちになれるのでおすすめです。
◆ゲストハウスときわ
住所:静岡県富士宮市中央町14-15
電話: 0544-55-1199
④北海道の大自然と牛の魅力を存分に味わえる宿「ushiyado」(北海道中標津町)
最近はゲストハウスも多様化して、様々なテーマの宿が登場していますが、「牛」がテーマになっているのは恐らくここだけでしょう。
道東の中標津町(なかしべつちょう)にある「ushiyado(うしやど)」。その名の通り、そこかしこに牛をモチーフにしたデザインがあったり、牛のフィギュアやぬいぐるみがいたり、まさに“牛づくし”のとってもかわいらしい宿です(ルンバや、駐車場にあるカラーコーンまでもが牛柄!)。2018年6月にオープンした比較的新しい施設で、建物はキレイで清潔、客室もとても広々としています。アメニティも充実しているので、女性にもおすすめです。
実は、ushiyadoのオーナーは牧場経営者。この宿ならではのアクティビティとして、早朝の牧場散策ツアーやバター作り体験などができちゃいます。酪農家さんの日常をのぞいてみたり、かわいい子牛と戯れてみたり……まるでドラマ『なつぞら』のよう。北海道のゲストハウスならではですね。朝6時集合なので、ちょっと早起きが大変かもしれませんが、なかなかできない体験なので、がんばって参加しましょう!
嬉しいことに、朝食時にはトーストと一緒に、地元で採れた牛乳を無料でいただくことができるんです。さらには、その日牧場で採れた牛乳で作った、出来たてのモッツァレラチーズまで振る舞っていただきました。今まで味わったことのない、柔らかな食感に驚き! 近所のレストランでは、期間限定でこのモッツァレラチーズを使ったピザなどが楽しめるそう。数に限りがあり、出合えたらラッキー! とのことなので、要チェックです。
あまり知られていませんが、中標津空港へは羽田空港からも直行便が出ていて、道東の観光スポットである知床や摩周湖、阿寒湖、釧路湿原へも日帰りで行けるんです。北海道旅行の拠点として、今後ますます面白くなる場所かもしれません。
◆ushiyado
住所:北海道標津郡中標津町東3条北1丁目4-2
電話:0153-77-9305
おわりに
いかがでしたか? ゲストハウスのイメージが変わった、こんなに面白い体験ができるなんて知らなかった、という方も多いのではないでしょうか。最近は、本当にたくさんの魅力的なゲストハウス、ユニークな特徴を持ったゲストハウスが増えています。今回紹介したのは、その中のほんの一部。女性にこそ行ってもらいたい施設も、まだまだたくさんあります。繰り返しになりますが、ゲストハウスは、予期せぬ出会いや新しい発見の宝庫です。未体験の方も、ぜひ一度利用してみてください!
◆Jin
国内外の宿を渡り歩くゲストハウスマニア。好きが高じて、個人でゲストハウスを開業するために勤めていた会社を退職、東京都心でオープン準備を進める。諸事情で開業を断念した後、インバウンド向けホテルの企画・運営会社にジョイン。マーケティング/プロモーション/企画運営マネジャーとして、現在は新規ホステルの開業事業に奔走中。元ウェブディレクター/デザイナー、カメラマン。