フェラーリは6月24日、まったく新しいミッドエンジンのスポーツカーをオンラインで発表した。296 GTBだ。三桁の数字は「512」や「348」がそうだったようにエンジンの排気量とシリンダー数に由来しており、296 GTBは2992ccの排気量とV型6気筒エンジンに由来する。跳ね馬のバッジを付けたロードカーに6気筒エンジンが搭載されるのは初めて、とフェラーリは説明している(ディーノは除いて、ということだ)。どんなエンジンか、解説する。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO◎Ferrari
新開発したV6エンジンはバンク角が120度で、そのバンク角の内側に排気をレイアウトした、いわゆる「ホットV」だ。ロードカーでホットVを採用するのも、フェラーリ初である。F1では例があり、1981年にジル・ビルヌーブとディディエ・ピローニがドライブした126CKが、ホットVの1.5ℓ・V6(タイプ021)を搭載していた。広いVバンク間に2基のターボチャージャーを搭載していたところまで、296 GTBと同じだ。
エンジン形式:120度V型6気筒DOHCターボ+モーター
エンジン型式:
排気量:2992cc
ボア×ストローク:88.0mm×82.0mm
圧縮比:9.4
最高出力:663ps/8000rpm
最大トルク:740Nm/6250rpm
過給機:ツインターボ
燃料供給:DI
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:65ℓ
296 GTBのV6ツインターボは、最高出力663ps/8000rpm、最大トルク740Nm/6250rpmを発生する。最高許容回転数は8500rpmだ。排気量の影響を取り除いて純粋にエンジンの力を示すBMEP(正味平均有効圧)を弾き出してみると31.0barになり、ガソリンエンジンでは世界トップクラスだ。
ホットVの120度・V6ツインターボといえば、4月に国内で発表されたマクラーレン・アルトゥーラ(McLaren Artura)が思い浮かぶ。こちらのミッドシップスポーツは2993ccの排気量から585ps(430kW)/7500rpmの最高出力と、585Nm/2250-7000rpmの最大トルクを発生する。BMEPは24.6barだ。296 GTB、アルトゥーラとも、モーターとバッテリーを搭載したプラグインハイブリッド車であることも共通している。296 GTBのモーター(F1と同様、MGU-Kと呼んでいる)は最高出力122kW、最大トルク315Nmを発生。アルトゥーラは70kW/225Nmだ。
どちらも、ローターとステーターが同心円状に配置されたラジアル型ではなく、ローターとステーターが向かい合わせになったアキシャル型のモーターを搭載している点で共通している。ローターとステーターの配置から全長を短くできるのがアキシャル型の特徴。両者ともにモーターはエンジンの後方に配置され、クラッチによって切り離すことができる。これにより、モーターのみの動力で走るEV走行が可能だ。搭載するバッテリーの容量は296 GTBが7.45kWhなのに対し、アルトゥーラが7.4kWhと非常に近い。モーターの後方に配置するトランスミッションが8速DCTな点でも共通している。
こうして見ると296 GTBとアルトゥーラのパワートレーンは共通点が多い。エンジンの排気量も296 GTBの2992ccに対してアルトゥーラは2993ccで1ccしか違わない。ただしボア×ストロークは大きく異なっており、296 GTBが88×82mmのショートストロークなのに対し、アルトゥーラは84×90mmのロングストロークだ。
V型6気筒のシリンダー配列を採用した場合、バンク角を120度にすると、向かい合うシリンダーのクランクピンを共有した状態で等間隔爆発を実現できる。V8なら90度、V10なら72度、V12なら60度になる。ただ、V6で120度となるとスペース的な制約から難しく、エンジンをフロントに搭載する場合は60度か90度にするのが一般的だ。横置き搭載なら90度は厳しく60度にしたい。縦置きでV8と基本設計を共有する場合は、90度が考えられる。ただし、60度の場合も90度の場合も、等間隔爆発を実現するにはクランクピンにオフセットを設ける必要があり(60度の場合は60度、90度の場合は30度)、エンジン全体が長く、重くなってしまう。V6を選択するならバンク角120度が最も合理的だ。
エンジンを車両ミッドに縦置き搭載することで、幅の問題は解決できる。高温の排気が左右に分かれず、エンジンコンパートメントの上部にまとまるので熱のマネジメントがしやすい。排気系がフロアと干渉しないので床下を空力に最適な形状に設計しやすいのもメリットだ。スーパースポーツカーのV6がバンク角120度のホットVを採用するのは、そこに理由がある。
広いVバンク間に設置されるターボチャージャーはモノスクロールタイプで、IHI製だ。左右で逆回転するターボの最高回転数は180,000rpm。コンプレッサーホイールの直径は3.9ℓ・V8ターボ比で5%、タービンホイールは11%低減したという。その効果で回転要素のイナーシャは11%低減しており、回転上昇に要する時間は短縮されているとフェラーリは説明している。エキゾーストマニフォールドの材料はF1のエキマニでもおなじみのインコネル製で、耐熱性の高さと軽さからの採用だ。
直噴インジェクターはセンター配置とした。最大燃料噴射圧は350barでアルトゥーラの3.0ℓ・V6と同じ。採用していたら大々的にアピールしているはずなので、F1エンジンで適用しているプレチャンバー・イグニッション(PCI)は採用していないとみて間違いない。PCIで思い出したが、マセラティMC20が搭載するPCIを適用したバンク角90度のV6ツインターボ(オーソドックスな外側排気)、ネットゥーノ(Nettuno)のボア×ストロークは88×82mmで、フェラーリ296 GTBのV6と同一である。
最高出力630ps/7500rpm、最大トルク730Nm/3000-5000rpmを発生するネットゥーノのBMEPは30.6barだ。容積比(圧縮比)は296 GTBの9.4に対してネットゥーノが11なのは、PCIの効果だろうか。直噴インジェクターの最大噴射圧はネットゥーノも350barである。