先日、悲しいニュースが飛び込んできた。2021年12月をもって、ミニバンの名門であるホンダ・オデッセイの生産が終了されるのだ。そこで1994年の誕生以来、たくさんの家族のもとへ思い出を届けてきたオデッセイの27年間の歴史に迫る。
ホンダ・オデッセイが、2021年12月に27年の歴史に幕を閉じることとなる。初代から5代目となる現行型まで多くの方の思い出に残るクルマなのではないだろうか。初代登場当時小学生で、オデッセイとともに成長した子どもが、大人になりまた自分の家族のためにオデッセイを選ぶという方もいるようだ。また、ミニバンブームの礎にもなったホンダの名門車でもある。
モーターファンはこれまで、初代から現行型までニューモデル速報「ホンダ・オデッセイのすべて」などでその進化を追ってきた。今回はそんなモーターファンに残る懐かしい画像とともにオデッセイの歴史を振り返る。
初代(1994-1999) ミニバンブームの火付け役! 低床設計による走りの良さが魅力だ
3列シートまであり、多人数乗車を可能としたミニバンは、現在は日本では大人気カテゴリーだが、1990年台前半は、そこまで「ミニバン」が広まっていなかった。そんな日本市場に1994年、登場したのが初代オデッセイ。初代オデッセイは瞬く間に大ヒットし、ミニバンブームの火付け役となった。なんと登場の次の年、1995年には、12万5590台を売り上げ、1万台/月を達成した。
当時のホンダは、オデッセイについてこう発表している。
「オデッセイは、多人数で快適に移動できるための新しい空間づくりに、ホンダが培ってきた高性能セダンづくりの技術を活かし、ワンボックス・カーのスペース・ユーティリティとセダンの 爽快な走りや快適な乗り心地、安全性能を高次元で両立。 個々のライフスタイルを大切にしたクルマ選びを志向する方たちの幅広いニーズに応える商品とした。」
それまでのミニバンは日産プレーリーや初代マツダMPVなど、バンをベースにしたキャブオーバー型ワンボックスカーが主流の時代。オデッセイはアコードのプラットフォームをベースとし、ボンネット内にエンジンを搭戟するFFで、ほかのモデルとは一線を画した、全高の低い多人数乗用車というコンセプトで開発したのである。
ボンネット内にエンジンを収めることができたため、低床が実現し、車高が低くとも広々とした室内空間を得られた。また、2列目にキャプテンシートを備えた6人乗り仕様も設定され、ただの背の高い乗用車ではなく、しっかりミニバンとして受け入れられたのである。
乗用車ベースにした利点は、走りにも効いている。前面投影面積が小さく空気抵抗を低減させたうえで、ボディ全体を気流がスムーズに流れるフォルムにし、細部にわたって空力を考慮した形状にするなど、トータルで高い空力特性を獲得している。そのため走りの安定感につながっているのだ。
エンジンは、発売当初2.2ℓ直4エンジンに4ATを組み合わせたもの。1997年8月のマイナーチェンジで2.3ℓに変更した上で、同年10月には3ℓ V6エンジンを搭載した「プレステージ」も追加するなど多様なニーズに対応した。
このようにオデッセイは乗用車ベースという新しい発想で、ミニバンブームの巻き起こした大人気モデルとなった。多くの方の思い出に残っている一台なのではないだろうか。
【発表】1994年10月20日
【価格】245.5万円(当時)
【寸法・重量・性能】
全長×全幅×全高:4750×1770×1675mm
ホイールベース:2830mm
トレッドF/R:1525/1540mm
車両重量:1510kg
10モード燃費:10.2km/ℓ
【エンジン】
型式:F22B
種類:直列4気筒SOHC
総排気量:2156cc
圧縮比:8.8
最高出力:145ps/5600rpm
最大トルク:20.0kgm/ 4600rpm
燃料噴射装置:PGM-FI
燃料タンク容量:65ℓ
【走行伝達装置】
サスペンション前:ダブルウイッシュボーン式
サスペンション後:ダブルウイッシュボーン式
ブレーキ前:ディスク
ブレーキ後:ディスク
タイヤ・サイズ:205/65R15
2代目(1999-2003) 初代のキープコンセプト 後期型から「アブソルート」が登場!
2代目は初代登場から5年後の1999年12月に発表。初代からの上級セダンに匹敵する走りの良さを継承しつつ、さらなる快適性と使い勝手の向上を目標に開発された。特にインテリアではスペアタイヤの床下収納への変更や、3列目シートもシートピローを取り外すことなく一体での床下収納を可能にするなど、使い勝手と快適性の向上を図った。
デザインやコンセプトは初代からのキャリーオーバーだ。サイズは初代と比較して全長が20mm、全幅が25mm、若干大きくなっている。サイズが大きくなった分、インテリアは、1列目シートから3列目シートへの居住スペースを25mm拡大させ、2列目シートに6:4分割スライドも可能な座面跳ね上げ機構を採用し使い勝手を向上させた。また初代では、3列目の隣に配置されていたスペアタイヤも床下収納することにより、さらに3列目シートの快適性が増した。スペアタイヤと3列目シートの床下収納の両立は、当時大変だったという。
2代目の一番の進化は走りだ。初代もほかのミニバンと比べてアコードベースのため低重心で非常に安定した走行性能が魅力だった。2代目ではそれをさらに特化するため、車高が45mm低くなり、低速域から高速域に至るまで、「安心」をキーワードに高性能セダンと同等の滑らかな走りと快適な乗り心地を実現させた。
パワートレーンは、直列4気筒2.3ℓ VTECエンジン、V型6気筒3.0ℓ VTECエンジンの2種類。前者は出足の力強さが魅力で、街乗りに関しては俊敏に大きな車体を動かすことができる。ただ、本命はV6 3.0ℓモデル。運動性能は抜群で高速域でも全く力不足を感じさせない、非常によくできたエンジンだった。
というのも、ホンダはこの2代目オデッセイの開発を鷹栖ブルービング・グラウンドで鍛え上げたのだ。鷹栖ブルービング・グラウンドは、ホンダの総合テストコースで、あのニュルブルクリンクをモデルとしたワインディングコースを備えており、NSXなどのスポーツカーの開発に使用されるコースでもある。「しょせんミニバンだから…」ではなく、ミニバンだからこそ、安全で走りに手を抜かないホンダらしい考えで開発されたのだ。
また2001年11月のマイナーチェンジでは、その「走り」を特化させたスポーツグレード「アブソルート」をラインアップに追加。専用のエクステリアデザインが採用され、ロールを抑え車体の動きを最適化するために車高を15mm下げて専用チューンを施した低重心ローダウンサスペンションや、17インチアルミホイールなどで走行性能を大幅に向上させ、スポーティでありながらしなやかな乗り味を実現させた。
【発表】1999年12月3日
【価格】259.5万円(当時)
【寸法・重量・性能】
全長×全幅×全高:4770×1795×1630mm
ホイールベース:2830mm
トレッドF/R:1560/1555mm
車両重量:1610kg
10モード燃費:11.0km/ℓ
【エンジン】
型式:F23A
種類:直列4気筒SOHC
総排気量:2253cc
圧縮比:9.5
最高出力:150ps/5800rpm
最大トルク:21.0kgm/ 4800rpm
燃料噴射装置:PGM-FI
燃料タンク容量:65ℓ
【走行伝達装置】
サスペンション前:ダブルウイッシュボーン式
サスペンション後:ダブルウイッシュボーン式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
ブレーキ後:ディスク
タイヤ・サイズ:215/60R16
3代目(2003-2008)車高が一気に1550mmに! 走り屋のお父さんも納得したスポーツミニバンへ進化
3代目は、2003年10月に発表。「ミニバン・イノベーション」をコンセプトに「速い(低重心化による乗り心地とハンドリング)」、「美しい(低全高ならではの流麗なフォルム)」、「広い(低床化によるゆとりのある室内高)」を高次元で融合するミニバンの新たなベンチマークを目指して開発された。
やはり3代目の特徴は、低床設計によってさらに低くなった車高だろう。初代から2代目も35mm低くなったが、その2代目から約80mmも下げ、立体駐車場にも入庫可能な1550mmという低全高スタイルに生まれ変わった。ミニバンというより、ステーションワゴンにちかいプロポーションとなった。
驚くべきことはただ車高を80mm落としただけでなく、低床設計を徹底したことで室内高は前モデルより5mm上回る、外見からの想像を超えるゆとりの室内空間を確保したことだ。実際に乗車してみるとびっくりするほど室内空間が広大で、3列シートに大人が座っても苦ではない。
搭載されるエンジンは、2.4ℓのDOHC i-VTECエンジン。標準モデルが最高出力160ps、最大トルク218Nm。スポーツグレードのアブソルートは、200ps、232Nm。まず標準グレードに乗って感じられるのは、加速のスムーズさだ。標準モデルはCVTとの組み合わせとなるが、非常に加速が滑らかで、足もしなやかに動くため乗り心地も優秀だ。またミニバンとは思えないほどの重心が低いため安定感も抜群だ。標準グレードでもしっかりスポーティな走りを楽しめる。
一方でアブソルートは、さらにスポーティ。エンジンは、より高回転に回りハイパワーで気持ちいい加速を感じられる。また組み合わされるトルコンATは、加速もスムーズで3列シートに座っても乗り心地はさほど悪くない。足は標準モデルと比べやや引き締まっている印象だった。しかし乗り心地が悪いというレベルではない。ただし、前期型は17インチタイヤが標準装備だが、後期型は18インチとなり、乗り心地が少々硬くなる。
このように3代目オデッセイは、スポーツミニバンという性格をより強固にし、さらに走行性能を高めたモデルとなった。
【発表】2003年10月17日
【価格】230万円(当時)
【寸法・重量・性能】
全長×全幅×全高:4765×1800×1550mm
ホイールベース:2830mm
トレッドF/R:1560/1560mm
車両重量:1620kg
10モード燃費:12.2km/ℓ
【エンジン】
型式:K24A
種類:直列4気筒DOHC
総排気量:2354cc
圧縮比:9.7
最高出力:160ps/5500rpm
最大トルク:22.2kgm/ 4500rpm
燃料噴射装置:PGM-FI
燃料タンク容量:65ℓ
【走行伝達装置】
サスペンション前:ダブルウイッシュボーン式
サスペンション後:ダブルウイッシュボーン式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
ブレーキ後:ディスク
タイヤ・サイズ:215/60R16
4代目(2008-2013)正常進化でさらにスポーティなモデルへ 販売面では苦戦
4代目は、2008年10月に発表され、乗る人のこころをときめかせる「感性クオリティ」をコンセプトに「人とクルマの一体感」「全席の爽快感」「独自の存在感」を高次元で融合。見て、乗って、走って、あらゆるシーンで、人のこころに響く気持ちよさを目指して開発された。
全高は3代目よりさらに10mm低くなり1540mm(標準モデル)となった。エクステリア、インテリアデザインは、ともに基本的にキープコンセプトで3代目の進化版だ。フロントビューは、メッキを施したバンパー中央部からヘッドライトへ連続するシャープなグラフィックと、フロントグリルからボンネットへと広がる立体的なV字状のラインが特徴的で、スピード感と力強さを表現。薄型のヘッドライトと合わせ、精悍な表情が演出されている。
パッケージングで進化したのは、3列目の快適性。車高は1540mmに抑えつつも、2列目シート下の構造を工夫し、3列目乗員の足入れスペースを約40mm拡大。さらに、2列目シートバック形状を見直すことで、ひざまわりのスペースも約20mm拡大し、3列目乗員の快適性を向上させた。
パワートレーンは3代目に引き続き、2.4ℓ DOHC i-VTECエンジン(K24A)を搭載。スペックは、標準モデルとアブソルートで異なり、アブソルートの方が最高出力が33ps大きい。乗り味で先代から大きく進化したのは、油圧式から電動パワステに変わったことだ。3代目までは、スポーツミニバンというオデッセイの性格を考慮し、ステアフィールにこだわって油圧式にしていたそうだが、電動式になったことでより滑らかで気持ちいいステアフィールに生まれ変わった。
運転はやはり、アブソルートが楽しい。VTECに切り替わる滑らかさや高回転まで気持ちよく回るエンジン、地を這うような安定した走りはスポーツセダンのような感覚だ。サスペンションも先代同様で、フロントには、直進安定性や乗り心地に優れた、ダブルウイッシュボーンサスペンション、リヤには、低床プラットフォームの実現に大きく貢献するコンパクト設計のリアクティブリンク・ダブルウイッシュボーンサスペンションを採用。軽快なハンドリングと快適な3列目まで快適な乗り心地を実現している。
このようにスポーツミニバンとしての地位を確実にした4代目だが、時代は変わりハイルーフミニバンの人気が高まるとともに、4代目の販売台数は3代目の3分の1以下に落ち込んだ。そこで登場したのが劇的進化した5代目である。
【発表】2008年10月16日
【価格】259万円(当時)
【寸法・重量・性能】
全長×全幅×全高:4800×1800×1540mm
ホイールベース:2830mm
トレッドF/R:1560/1560mm
車両重量:1600kg
10モード燃費:13.2km/ℓ
【エンジン】
型式:K24A
種類:直列4気筒DOHC
総排気量:2354cc
圧縮比:10.0
最高出力:173ps/6000rpm
最大トルク:22.6kgm/ 4300rpm
燃料噴射装置:PGM-FI
燃料タンク容量:60ℓ
【走行伝達装置】
サスペンション前:ダブルウイッシュボーン式
サスペンション後:ダブルウイッシュボーン式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
ブレーキ後:ディスク
タイヤ・サイズ:215/60R16
5代目(2013-2021)スライドドア初採用! ハイブリッドモデルも登場した現行モデル
2013年10月に発表された5代目(現行)は、3列すべてが広く快適で、上質な室内空間と走行性能を今までにない高い次元で両立した上級ミニバンを目指し開発された。時代に先駆けて多人数乗用車の新しい価値を創造してきた歴代オデッセイの設計思想を継承しながらも、プラットフォームとパワートレインを刷新し、居住性、走り、燃費性能、デザイン、使い勝手、安全性能の多方面で進化を遂げている。
また車高は、1685mmと4代目と比較して約150mmもアップした。初代と比べても10mm高い。また4代目まではリヤドアをヒンジ式だったが、初めてスライドドアとなった。ただスライドドアを採用しているミニバンとしては全高はまだまだ低い(ライバルエスティマは1730mm)。
室内高は1325mm(FF)(エスティマはもちろんエルグランドより高い)を確保し、2列目・3列目のヘッドクリアランスはラージクラスと同等のゆとりを実現した。また、タンデムディスタンスや室内幅も拡大し、多人数での乗車がより快適な室内空間が作られている。
また2列目にはロングスライドロングスライド機構やオットマン、シートバック中折れ機構を備えた豪華なキャプテンシートも採用。エリシオンが販売終了になりスポーツミニバンだけでなく、プレミアムミニバンとしての役割も担うこととなった。
2013年登場当時のグレード構成は、大きく分けて標準モデルとアブソルートの2種類が用意された。現在はアブソルートのみになっている。
パワートレーンは、新世代の2.4ℓ DOHC i-VTECエンジンを採用。2016年2月の改良では2.0ℓエンジンとモーターとを組み合わせたハイブリッドモデルも登場した。
スポーティな走りを楽しむなら、ガソリンモデルのアブソルートもいいが、プレミアムミニバンとしてはハイブリッドの出来が非常に良い。また、ハイブリッドシステム、「i-MMD」(現在の名称は「e:HEV」)はモーターでの走行がメインで、モーター特有のスムーズな加速と力強さを感じるオデッセイの新しい可能性を秘めたシステムだ。またガソリンモデルの登場当初は足まわりが硬く、乗り心地が良くなかったが、ハイブリッドモデルが登場した2016年ごろには全体的にマイルドな乗り味に変更された。
2020年11月のビックマイナーチェンジでは、エクステリアデザインを刷新するとともに、インテリアの質感向上や、コンビメーターパネル内の高精細フルカラー液晶パネルを大型化するなどの改良が加えられた。
また、ジェスチャーコントロール・パワースライドドアや、予約ロック搭載による使い勝手の向上、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」に後方誤発進抑制機能を追加するなど、乗る人すべてにより安心、より快適にドライブを楽しめるよう商品の魅力を高めている。
マイナーチェンジされたモデルの評価も高く、販売台数も伸ばしていただけに販売終了は誠に残念である。
【発表】2013年10月31日
【価格】315万4000円(当時)
【寸法・重量・性能】
全長×全幅×全高:4830×1820×1685mm
ホイールベース:2900mm
トレッドF/R:1560/1560mm
車両重量:1810kg
JC08モード燃費:13.6km/ℓ
【エンジン】
型式:K24W
種類:直列4気筒DOHC
総排気量:2356cc
圧縮比:11.1
最高出力:190ps/6400rpm
最大トルク:24.2kgm/ 4000rpm
燃料噴射装置:PGM-FI
燃料タンク容量:55ℓ
【走行伝達装置】
サスペンション前:マクファーソン式
サスペンション後:車軸式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
ブレーキ後:ディスク
タイヤ・サイズ:215/55R17
このようにオデッセイは、ミニバンブームの火付け役となった功労車というだけでなく、低床設計や走りの良さなど、5世代を通して伝統を大切にするユニークなミニバンだ。販売が終了してしまうのは寂しい。今年いっぱいで5代目オデッセイを購入できるのは最後のチャンスとなる。ぜひ走りの良いミニバンを探している方はオデッセイを検討してみるのはいかがだろうか。