1972年の初代登場以来、ホンダの主力車種として世界中のファンから愛されてきたシビック。このたび、2021年秋にフルモデルチェンジし、11代目が登場することが発表された。発売までまだ時間があるため、現時点ではすべてが明らかになったわけではないが、公表された情報を基に、進化のポイントを先代と比較しながら探ってみたい。
新型シビックのボディはハッチバックのみ。ハイブリッドとタイプRは2022年登場
11代目となる新型シビックのグランドコンセプトは、「爽快シビック」だ。親しみやすさと特別な存在感の両方を併せ持ち、”人中心”ですべての要素を磨き上げ、ユーザーを爽快にさせたい、という思いが込められている。
新型のボディは、ハッチバックのみとなった(北米ではセダンもラインナップされている)。先代(10代目)は当初、ハッチバックとセダンの両方が選べたのだが、しばらくしてセダンが廃止された。販売台数は圧倒的にハッチバックが多かったそうだから、致し方ないところか。
なお新型ではLXとEX、二つのグレードが用意される。EXのほうが装備が充実しており、上級グレードの位置づけだ。ボディカラーは共通の5色から選ぶことができる。
新型の発売は2021年秋を予定。また、2022年にはハイブリッド(e:HEV)とタイプRの登場もアナウンスされた。が、残念ながらハイブリッドとタイプRに関しては、今回、これ以上の情報は明かされなかった。
新型のボディサイズは、全長4550mm、全幅1800mm、全高1415mm、ホイールベース2735mm。先代と比較すると、全長は+30mm、全幅は同一、全高は−5mm、ホイールベースは+30mmとなる。
ショルダーラインもリヤ席付近で35mm低くなった。これもボディの薄さ感と、リヤタイヤがしっかりと踏ん張っている感に効果的だ。新型で新設定されたクォーターウインドウと相まって、後席乗員の視界の良さにも寄与している。
視界といえば、ドライバーからの水平視野角も先代の84度から87度へと拡大されているのも朗報だ。前述したとおり、フロントフードが下げられたことで、ドア上部からダッシュボード上部がスムーズにつながっていること、サイドミラーがピラー付けからドア付けになったことも、爽快視界を実現できた要因だ。
新旧の違いは、サイドビューを見ると一目瞭然だ。新型はフロントフード(ダンパー直上)が25mm下げられたことで、ボディの薄さが表現されている。
また、新型ではAピラーが後方に50mm下げられた点にも注目したい。Aピラーの延長線がフロントのホイールセンターを貫くような位置関係となり、キャビンがタイヤにしっかりと載っかっているスタンスの良さを演出する。じつは先代もものフォルムからの脱却を図るため、先々代よりも根元が200mm程度後ろに惹かれていたのだが、新型はキャブバックワードをいっそう推し進めたといえる。
ちなみに、リヤオーバーハングは20mm短縮されている。これにより、リヤ周りの軽快感は増したように見える。それでいて、荷室の容量は、床下・床上を合わせると452L(EXグレードは446L)と先代モデル(420L)を上回っているのだから立派だ。
サイドビューでもう一つ付け加えておきたいのは、ショルダーラインだ。先代ではまずフロントフェンダーのラインがあり、それとは別にショルダーラインがフェンダー途中から前後のドアノブを貫きながら斜めに駆け上がり、リヤフェンダーあたりで曲線を描きながらリヤコンビランプにつながっていた。一方、新型のショルダーラインは単純明快で、ヘッドライトからリヤコンビランプまでスパッと一直線に通しているのが特徴だ。
今度は、フロント周りを比較してみよう。
先代ではアンダー部の左右の大型ダクト風処理と釣り上がったヘッドライトがスポーティさを強調していたが、新型は落ち着いた表情に変身した。
ヘッドライトは内部の配置が変更されている。先代ではハイビームが外側、ロービームが内側についており、どちらかというと無機質な光り方だった。新型ではロービームを左右に、ハイビームを真ん中に配置することで、”瞳表現”を取り入れたという。
また、新型はデイタイムランニングライトをL字型に配置。これはロー&ワイドに見せる目的があるそうだ。
なお、EXグレードが採用するアダプティブドライビングビームにも新機軸が盛り込まれている。一般的なハイビームとロービームの切り替えだけでなく、運転手が歩行者を見つけやすく、なおかつ歩行者の眩惑を低減した配光を両立するミドルビームがそれだ。10km/hまでは基本的にロービーム、10〜30km/hでミドルビームが作動し、30km/h以上になるとハイビームに、そして市街地の光を検出するとミドルビームに切り替わる流れとなっている。
続いて、リヤ周りをチェックしてみる。
先代の中央2本出しマフラーが新型では左右出しになっていたり、先代のエアダクト風処理が新型では姿を消していたりと、新旧で様子が激変しているのだが、実はデザインで共通点もある。それはリヤコンビランプの”Cライン”だ。代々受け継がれているシビックのアイデンティティでもあるそうだが、新型ではよりスリーク(なめらか)になり、新しさを感じさせる光り方となっている。
リヤ周りのスタイリッシュさには、新型から採用された樹脂製テールゲートも大いに貢献しているようだ。一般的なスチールに対するメリットは成形性の自由度の高さ。後席乗員の頭上付近にあったテールゲートのヒンジをより外側に移動させることで、スポイラー部分で先代比−50mmほどルーフのボリュームを低減させることができた。もちろん、後席ヘッドクリアランスは先代同等をキープした上でのことだ。
また、テールゲートのエンド部分はかなりつまんだ形状になっているが、これも樹脂製となったおかげで実現したもの。ダウンウォッシュが低減し、トップクラスのCD値実現に寄与している。
インテリアはどうだろうか。新型のコンセプトは「ファインモーニングインテリア」。朝が心地良いと、1日が爽快に感じられる。そんな気持ちの良い朝をイメージしたという。
先代のインパネは加飾パネルを水平に通し、中央にセンターコンソールが立ち上がっているデザイン。新型はより水平基調を推し進めたことで、広がり感がいっそう感じられるインパネとなった。ダッシュボードは窓の映り込みや落ちる影まで考慮した構造になっているという。
新型で目を引くのは、空調のアウトレット(吹き出し口)だ。パンチングメタル調のメッシュパネルで全体を覆うことで、内部の構造物を隠しつつ、ユニークな見た目を実現した。機能的にも優れており、、従来では達成できなかった広い配風角を達成。上側はプラス12度、下側はプラス21度ほど範囲が広がったという。
新型では9インチのディスプレイオーディオが全車標準で装備される。ダッシュボード最上部に置かれており、視線移動が少なくて済む。指先を安定して置けるように”指置き面”が20mm設定され、操作性も上々だ。ちなみに先代の場合、カーナビはディーラーオプションで用意されていた。
メーターはというと、先代は中央に7インチの液晶ディスプレイ、左側にアナログの水温計、右側に同じくアナログの燃料計を配していた。新型ではLXグレードが7インチ液晶ディスプレイ+アナログ速度計の組み合わせとなり、EXグレードは10.2インチ液晶ディスプレイが採用された。
10.2インチ液晶ディスプレイの表示はステアリングの操作スイッチと連動させており、左側にインフォテイメント系の情報、右側に車両/運転支援系の情報が表示される。中央はホンダセンシングなどの車両制御状態の情報ゾーンで、カーブや自動二輪車、トラックなどもわかりやすく表示される。また、自車表示もヘッドライト、ブレーキ、ハザードなどの動きが再現されるようになった。
新型は、センターコンソールも要チェックだ。CVT車と6速MT車では形状が異なるのだが、CVT車ではシフトノブとカップホルダーを並列に配置することで、カップホルダーに置いたドリンクが取り出しやすくなっている。シビックくらいの車格だと並列配置は困難なのだが、トップ面を拡大するとともに、シフトレバーを5度ほどドライバーに傾けることで実現した。このおかげで、シフト操作もしやすくなるといううれしい副産物もあった。
コンソールボックスもティッシュボックスが収まるほどの大容量で、0〜60度までは自動でオープンし、手動でさらに90度まで開くことができる。
オーディオは、コンサート会場にいるような臨場感のある音場を提供したいということで、EXグレードにボーズの独自サウンドであるセンターポイントを採用する。スピーカーの数も先代の8個から12個へと増やされた。
また、新型では指がかりのフィーリングも考慮したインナードアハンドル、ドライバーの動きに連動したかのようなドアスイッチ面の角度など、触感やフィードバックといった領域にまでこだわってそうだ。
新型のシートは、フィットやヴェゼルに引き続いてボディスタビライジングシートを採用する。骨盤と腰椎を”面”で支えるサスペンションマットの構造が特徴で、長時間乗っても疲れにくいシートになっているという。
ちなみに新型のインテリアカラーは2色で、LXがスポーツブラック、EXがブラック&レッドとなる。赤いイルミネーションやステアリングステッチはEXの専用装備だ。シート表皮にも違いがあり、LXが1枚表皮にこだわり織り組織で動きを表現する一方、EXは中央のスエードコンビで上質さを表現しつつ、両サイドに合皮を組み合わせている。
では、パワートレーンを見てみよう。新型は1.5L直列4気筒VTECターボエンジンを採用する。先代と同様のL15C型ユニットのようだ。最高出力も先代と同じ182psだが、最大トルクは6速MT車もCVT車も240Nmとなり、CVT車は先代よりも20Nmほどアップしている。
性能向上に貢献したのは斜流タービンやインテーク側の低圧損過給配管の採用だ。また、NV低減のために高剛性クランクシャフトや高剛性オイルパンも採用している。
新型はドライブモードスイッチも設定された。先代は省燃費に貢献するECONスイッチのみだったが、新型のCVT車はトグルスイッチが設けられ、ECONのほかスポーツモードに切り替えることが可能となっている。新型の6速MT車は先代同様、ECONスイッチのみの装備なのはちょっと残念だ。
プラットフォームは先代のものをブラッシュアップ。ホイールベースを+35mm、リヤトレッドを+12mmとすることで、高速安定性と旋回性が高められた。
ちなみにリヤトレッドは広がっているが、ボディ幅は変わっていない。その秘密は、リヤホイールアーチの”耳”がヘミング処理されているから。
新型はボディ剛性も大幅に向上している。構造用接着剤の採用を拡大(先代比で9.5倍の長さ)のほか、フロントとリヤに環状構造を設け、さらにフロアには格子状のフレームを配置。これらの結果、ねじり剛性は先代よりも19%向上した。
一方、アルミ製エンジンフードの採用や高ハイテン材の適用により、軽量化にも注力。そのほか、電動パワーステアリング制御の分解能の向上、フロントダンパー周りの低フリクション化、リヤコンプライアンスブッシュの容量拡大とブッシュ軸線の最適化などを実施することで、「質の高い軽快感」ある走りが実現できたという。
新型の走りの質の高さは、優れたNV性能も要因だ。ロードノイズの低減に関してはノイズリデューシングホイールのほか、スプレー式の発泡ウレタンフォームが効果を発揮。従来のセパレーターよりもA・B・Cピラー内の断面の密閉度が格段に高められ、車内のノイズ伝達を抑えることができた。
パワートレーン系のノイズも、エンジンからの動きをしっかりと抑えるためにトルクロッドの共振点をずらしたほか、サイドマウントステーの剛性アップを実施。さらに放射音や伝達音をしっかり抑えるべくインシュレーターを適材適所に配置することで対応した。
新型は運転支援システムの進化もめざましい。現行は単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせたシステムだったのに対して、新型はフロントワイドビューカメラと前後のソナーセンサー(計8個)の組み合わせに変更、さらにブラインドスポットインフォメーション対応のためにリヤコーナーレーダーを追加している。
追加の機能は下の表をご覧いただきたい。現行では65km/hから車線維持支援システム(LKAS)が作動したが、新型ではトラフィックジャムアシストとして0km/hからLKASが作動してステアリングをアシストしてくれるようになった。
日本では全盛期ほどの存在感はないものの、世界に目を向ければ間違いなくホンダの主力の一角を占めるだけに、今回のモデルチェンジもかなり力の入ったものといえる。
前述の通り、新型はLXとEXの2グレード展開となる。EXグレードではBOSEオーディオ、運転席8WAY/助手席4WAYパワーシート、アダプティブドライビングビーム、ワイヤレスチャージャー、フルグラフィックメーターが主な専用装備だ。
気になる価格は未発表だが、装備の充実ぶりを考えると、先代よりも高くなるのは確実だ。果たして、先代の294万8000円からどれくらいの値上げで踏みとどまってくれるのか。シビックファンとしては気になるところではないだろうか。今秋の発売開始を楽しみに待ちたい。