GSが絶版モデルとなり、セダン系を担うLS、ES、ISの3モデル。そのうちISは、発売当初からスポーティな走りでファンを魅了してきた。自動車評論家の瀨在仁志が、そのミドルレンジFRセダンであるISのハイブリッド300hに試乗。さて、その走りは? ISを購入候補リストに入れている皆さま、必読です。
TEXT:瀨在仁志(Hitoshi SEZAI) PHOTO:Motor-Fan.jp
ISの上質さは、新たなフェーズへ
初めて現行ISを見たときには、フルモデルチェンジだとばかり思っていたが、2020年11月のレクサスからのニュースリリースには『コンパクトFRスポーツセダン・ISをマイナーチェンジ』と、はっきりと書かれている。
GSが絶版モデルとなったあと、LS、ES、ISの3モデルによってセダン系をカバーすることもあり、その中心的モデルとなったISに一層のテコ入れが行なわれたことは当然と言えば当然。世界でも戦えるミドルレンジFRセダンとして、レクサスのプライドをかけた大幅変更であることに違いない。
なかでも目を惹くエッジの効いたボディフォルムでは、世界初の寄絞り工法や、突き上げ工法といったレクサス初のプレス技術によって生まれたものだし、デザインに関してもA/Bピラーに挟まれたフロントキャビンを除くすべての部分を新設計。車両寸法的にもホイールベースこそ変らないものの、トレッドは50mmワイド化され、全長×全幅ともに30mmサイズアップ。同時にタイヤサイズも大径化されて、大きく張り出したフレアフェンダーにきれいに収まっている。
インテリアに関してもセンターディスプレイを手前に大きく移動させたことや、クーペモデルのRCとの統一性を持たせるなど、走りのモデルとしてのイメージも共有。流麗で力強い外観同様に、内装にもレクサスらしいこだわりをもってアップデートされている。
ハイブリッド(HV)モデルの300hの “バージョンL” のシートに収まってみると、上質さにこだわったグレードらしく、後に乗った “Fスポーツ” の体育会系の空気とは明らかに異なっている。空気がシン、と静まりかえっている。いつもなら落ちつかないラウンジのはずが、何故かしっくりとはまったという感じ。高級感がようやく鼻につかなくなったのかもしれない。
静かさはHVならでは。でも、それだけじゃない
静かなのはHVのせいでもある。HVシステムの制御を変更したらしいが、いつもならガレージから出す時に、急に響き渡るグォーというエンジン音があまり気にならない。バッテリーとの兼ね合いもあるだろうが、エンジンのかかる頻度が少なく感じられた。また、かかった時の振動と音が低減されているようにも思う。エンジンがグラッと動くようなことも抑えられ、かかった時のエンジン回転にも気が配られている様子で、煩わしさは消えた。
これは走り出してみても同様で、加速時にエンジンが始動したときの音と振動が緩和されて、騒々しさが薄れた。単体の音としてはザラついていて粗いのに、モーター駆動との調和でそれが打ち消されている印象だ。いずれにしてもGSがラインアップから消えたなかで、ISの上質感を高めたことは成功している。内外装同様に音や振動の低減も徹底している。
走りのためにできることはすべてやる
ハンドリング性能においては、このクラスに唯一残されたFRモデルということもあって、ワインディングでの走りも悪くない。従来のモデルでは足元がドタバタしたり、ステアフィールに落ち着き感が少なかったのが、このISはピタリと収まる。HVシステム同様にザラザラした粗さが消えている。大きな入力に対してはフロア全体がフルフルッと、か弱く感じられることがあるが、ラインをトレースしているときや舵を戻すときの動きはじつに正確。
旋回中に路面の荒れたところやザラついたとこを通過しても、ステアリングへの振動は抑えられ、進路も定まっている。パワーをかけていったときの蹴り出しに唐突感がないことから、旋回中の安定感は確実に向上した。
このあたりをよくよく調べてみると、ボディ強化が一層高められたうえに、サスペンションはアルミ素材に一部変換するなど大きな変更が行なわれている。さらにホイールナットは日本車では恐らく初めてだろうが、BMWのようにボルトタイプに変更されているという。これって量販メーカーの代表であるトヨタにとっては大英断だろう。効率をなによりも求めるメーカーだけに、少なくとも今後のレクサス車には採用されていくかもしれない。いずれにしてもダイレクト感が増し、走行フィール向上に加え、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)にも効いているはずだ。
細部にまでこだわった作り込みによる、タフな走りの実現
いっぽう、ボディ骨格である。じつはこのISのシャシーはまだトヨタの新世代技術のTNGAは採用されていない。レクサスがこのISに対してマイナーチェンジと言っているのは、次世代への期待とともにこのモデルでどこまで進化させることができるかにこだわったように思う。機を同じくして一部完成したニュルブルクリンクを模した下山テストコースで鍛えられた第一号モデルのようだ。
その結果、タイヤサイズを大型化したにもかかわらず、高Gでのハンドリング性能は正確さを増し、安心して高速ドライブが楽しめるし、無駄な動きがないおかげで安全にそれが楽しめる。フロア全体が揺れるような入力に対しては古さは否めないものの、TNGAに対しては見事なほどの下克上だ。先代シャシーながらも、ホイールナットひとつにまで手が加えられた徹底した作り込みで、タフな走りが実現した。
当然功罪ともに存在するはずだが、それをしっかりと解決し、街乗りでの快適性とワインディングでの走りを両立させた点はお見事。
では、どれを選ぶのが正解か
進化したシャシー性能に対して物足りないのは350hが搭載するHVユニットのパワーフィールだ。2.5ℓ直4にTHSⅡを合わせたパワーユニットは、街乗りではまったく気にならなかった仕上がりの良さに対して、ワインディングではCVTのような加速感が古めかしい。エンジン回転が上下したり、モーターのON/OFFが繰り返されなくなった半面、一定回転域を維持して加減速を繰り返す。確かにパワーの効率の良いところを維持することでアクセル操作の煩わしさから解放されるもののやはり少しメリハリに欠ける。
速度を維持しやすいことから、HVシステムでの最適解を求めた結果に違いはなく、ここで不満を感じるならば、ガソリンユニットの300や350を選ぶべきだろう。ただ、今回300と乗り比べてみると、上質さと足元のスッキリとした動きに関しては、300hの乗り味は捨てがたく、アタマを悩ませる。
FRの走りを満喫したいのなら、300(2.0ℓ直4ターボ 245ps/350Nm)や350(3.5ℓV6 318ps/380Nm)。日常的な使い勝手の良さや高速移動を中心に、生活に密着した使い方をするなら300hと言える。個人的には300hが気に入った。
いずれにしても先代モデルより大幅な乗り味の進化によって、各グレードの乗り味の違いが際だったのは確か。HVモデルでも走りが楽しめるようになったことで、選択肢が確実に増えた。
レクサスではマイナーチェンジと言うけれど、言葉に偽りあり。新型車としての技量充分だった。
【LEXUS IS350h 2WD(FR)】LEXUS IS【外部リンク】
全長×全幅×全高:4710×1840×1430mm
ホイールベース:2800mm
車両重量:1700kg
前前軸重:860kg
後後軸重:840kg
エンジン
形式:直列4気筒
型式:2AR-FSE6
排気量:2493cc
ボア×ストローク:90.0×98.0
最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
最大トルク:221Nm/4200-4800rpm
燃料:無煙レギュラーガソリン
燃料タンク:66ℓ
トランミッション:電気式無段変速機
交流動機電動機
型式:2AR-1KM
種類:ニッケル水素電池
最高出力:143ps(105kW)
最大トルク:300Nm
乗車定員:5名
燃費
燃料消費率(WLTCモード):18.0km/ℓ
市街地モード(WLTC-L):15.6km/ℓ
郊外モード(WLTC-M):18.3km/ℓ
高速道路モード(WLTC-H):18.8km/ℓ
タイヤ:FR 235/40 R19
車両本体価格:526万円~(税込)