ルノー・メガーヌのハイパフォーマンスバージョン、メガーヌ・ルノー・スポール(R.S.)とメガーヌR.S.トロフィーがマイナーチェンジを受けた。R.S.はスタンダードモデル(パフォーマンスに振ってはいるが)の位置づけ。R.S.トロフィーはサーキット走行を視野に入れたハードなモデルだ。今回試乗したのはR.S.である。前型との比較を交えながら、静的・動的両面を確認していこう。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
変更点は大きく3つに分類できる。ひとつめはエンジンで、最高出力と最大トルクが引き上げられた。M5P型の1.8ℓ直列4気筒ガソリンターボエンジンを搭載することに変わりはないが、最高出力は279ps(205kW)/6000rpmから300ps(221kW)/6000rpmに、最大トルクは390Nm/2400rpmから420Nm/3200rpmに引き上げられている。この結果、排気量の影響を取り除いて純粋にエンジンの力を示すBMEP(正味平均有効圧)は、27.2barから29.3barに向上した。
出力と燃費をバランスさせた実用エンジンのBMEPは、おおよそ20〜25barに分布される。25bar以上はパフォーマンスに特化したエンジンとみなしていいだろう。ルノーのM5P型よりも大きなBMEPを達成しているのは、ハイパフォーマンス系ではメルセデスAMG A45 S系が積むエンジンくらいしかない。A45が搭載するM139型の2.0ℓ直列4気筒ターボは、310kW(421ps)/6750rpmの最高出力と500Nm/5000-5250rpmの最大トルクを発生し、BMEPは31.5barに達する。マイナーチェンジを受けたメガーヌR.S.はこの数値に近づいたことになる。
BMEPに関しては世界トップクラスの実力を備えているのが、メガーヌR.S.が積むM5P型の1.8ℓ直4ターボユニットということになる。出力/トルクを重視したエンジンと聞くと気になるのが応答性だが、箱根のワインディングロードを走った際の印象は後で紹介するとして、残りの2つの変更点について触れておこう。
マイナーチェンジの2つめの変更点は、先進運転支援システム(ADAS)系の充実だ。高速道路や自動車専用道路で同一車線内を走行しているときに加減速をコントロールし、先行車に追従する「アダプティブクルーズコントロール」が装備された。6速DCTを搭載するEDC仕様(R.S.とR.S.トロフィー EDC)は先行車が停車した際に自車も停止し、先行車が3秒以内に発進すると自動的に再発進する「ストップ&ゴー機能」が備わる。
3つめの変更点はデザインだ。Cシェイプのデイタイムランニングライトは最新のルーテシアやキャプチャーにも受け継がれているが、もともとは4世代目のメガーヌがデビューしたときに提示されたものだ。いってみれば本家Cシェイプ。それがアップデートを受けて新鮮さを増した。マイナーチェンジ版の特徴は、ヘッドライトの上に水平のLEDランプが2本追加になったこと。
リヤも同様で、水平のラインが2本追加されている。マイナーチェンジ前はランプの形状に沿うようなライティンググラフィックが特徴だったが、マイナーチェンジ後はフライパンを横から見たようなシルエットの位置と光り方が変わり、よりモダンな印象になった。ウインカーは内側から外側に向けて段階的に光るシーケンシャル式になっている。
細かなところでは、フロントのロザンジュ(=ひし形、ルノーのバッジ)の下にあるR.S.のロゴの横にひし形のマークが追加された。意外に大きな変更点は、アンテナだろう。従来はロッドアンテナだったが、マイナーチェンジによってシャークフィンに変更されている。立体駐車場に止める際の手間が省けることになるし、ルックス面でも格段にいい。
インテリアはセンターコンソールに位置するエアコンの操作系がアップデートされ、温度表示が大きなダイヤルの中にデジタル表示されるようになった。電動パーキングブレーキは従来から装備されていたが、マイナーチェンジでオートホールド機能が追加された。ステアリングホイールの形状に変更はないが、グリップの10時から2時の間と5時から7時の間はアルカンタラ張りになり、アルカンタラ表皮のシートとの調和がとれるようになった。実用性の面では、後席用にUSBポートが2個追加されたのが大きい。こうして確認してみると、機能と実用性、それにデザインの面で大きく進化しているのがわかる。
R.S.には「アクティブバルブ付きスポーツエキゾースト」が新たに装備されたが、メガーヌR.S.を買うような層にとっては大歓迎の装備だろう。ステアリングホイールの左横にあるエンジンスタートボタン(もアップデートを受けて垢抜けたルックスになっている)を押した途端、脈動感のある重低音サウンドに心を奪われる。
7インチのディスプレイにMULTI-SENSE(マルチセンス)のメニューを呼び出し、Sportモードに切り換えると、エキゾーストサウンドはさらに刺激的になる。急減速すると積極的にダウンシフトする制御になるが、ヴォン、ヴォンという回転合わせ時のサウンドがたまらない。スロットルオフ時にはバラバラバラと、打ち上げ花火の余韻のような後燃え燃焼音的なサウンドを発してドライバーをいい気分にさせる。
気持ち良く振り回せるのは、クルマの動きがしっかりしているからだ。ボトムエンドに近づくとセカンダリーダンパーが機能して追加の減衰力を発生し、強い入力をしっかり受け止める4輪ハイドロリックコンプレッションコントロール(HCC)は、マイナーチェンジ後もしっかりと継承。後輪操舵の4コントロールもそのまま受け継いでいる。低速走行時(<60km/h)は後輪を逆相に最大2.7度まで切り、高速走行時(>60km/h)は同相に最大1.0度まで切って、取り回し性とコーナリング性能を高める(「レース」モード選択時は切り替えの境が100km/hになる)。
シャシー系に特筆すべき変化点はないということだったが、乗り味の洗練度が格段に上がっているのが印象的だった。ロールは抑えられているのに、乗心地は悪くない。というより、ロールの抑え具合を考えれば非常にいい。しなやかだし、滑らかだ。辛いのに甘いみたいで混乱を来しそうだが、一度味わったら病みつきになる味である。ルノー・スポール伝来の秘伝のスパイスを効かせているに違いない。
ルノー・メガーヌ ルノー・スポール
全長×全幅×全高:4410mm×1875mm×1465mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1480kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー
エンジン型式:M5P
総排気量:1798cc
ボア×ストローク:79.7mm×90.1mm
圧縮比:8.9
最高出力:221kW(300ps)/6000rpm
最大トルク:420Nm/3200rpm
トランスミッション:6速DCT
変速比 1速:3.230
2速:2.047
3速:1.407
4速:1.028
5速:1.187
6速:0.971
後退:4.470
最終減速比:4.357(1,2,3,4速)/2.904(5,6速)
サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトーションビーム
タイヤサイズ:245/35R19
ハンドル位置:右
乗車定員:5名
WLTC モード燃費:11.8km/ℓ
市街地モード:8.4km/ℓ
郊外モード:12.4km/ℓ
高速道路モード:13.6km/ℓ
車両価格:464万円