電動化を急速に進めるボルボの最新PHEVモデルを1週間預かって普段使いしてみることになった。なぜ、私がテスターを任されたか? 答えは簡単で、自宅ガレージに200VのEV充電用コンセントがあるからだ。毎日、プラグイン=充電してPHEVを使うとガソリン代、電気代はどうなるのだろうか?
PHOTO◎山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/Motor-Fan
自宅で200V普通充電をする意味とは?
試乗車のXC60PHEV T8 AWD Inscriptionに対面したのは、編集部地下駐車場である。撮影で長距離を走ってきたため、バッテリーは「0%」となっていた。まずは、夜の街を走り出してみる。インパネ内のインジケーターでバッテリー残量が0%と表示されていても、センタートンネル内に収められたリチウムイオンバッテリーには20%ほど電力はキープされている。だから必要なシーンではAWD走行できる。
夜の都心を軽く流す。車幅1990mm、車高1660mmはなかなかの迫力だが、全長は4690mmとさほど大きくないし、なにより見切りがいいので、自信を持ってドライブできる。
さて、では自宅に帰ってさっそくプラグインしてみよう。
カタログにはバッテリー容量は34Ah(アンペア・アワー)と表示されている。そして電圧は350Vとある。34Ah×350Vで11.9kWh。
電力消費率は3.78km/kWhとある。一充電消費電力量は10.36kWh/回(つまり11・9kWhすべてを使い切れるわけではない)だから、3.78×10.36=39.2kmが等価EVレンジということになる。
と細かく書いてみたが、要するにカタログ上、満充電で40kmほど一滴のガソリンも使わず電気の力で走れるということだ。
自宅のEV充電用コンセントは200V・15Aだから1時間で充電できるのは、3kWhだ。XC60PHEVのバッテリーが、もし仮に本当に空っぽになったとしても4時間かからずにフル充電できるわけだ。深夜に帰宅して、翌朝にはバッテリーは満タンになっている。
満充電されたXC60PHEVのバッテリー走行可能距離はメーター上では「35km」となっていた自宅から新宿の編集部までの距離は約14kmだ。往復で28km。編集部が入るのは、新しいインテリジェントビルのくせに、地下駐車場にEV充電設備がない。それでも、もちろん、まったく問題なく往復できた。早朝深夜の住宅街で静かにEV走行できるのは、非常にいい。
バッテリー残量がなくなったところで、せっかくなので充電もやってみようと考えた。ボルボのPHEVにはいわゆる「急速充電」のCHAdeMO用の充電口はない。ボルボは、PHEVは急速充電が必要ない、と考えているからだ。実際、11.9kWhのバッテリーのために急速充電用チャージャーを車載するのは、コスト的にも重量的もメリットは少ない。そもそも、エンジンでも走れるから、外出先で急速充電を迫られることはないのだ。では、どんな場合に外出先で充電(普通充電)するのか?
たとえば、撮影途中で立ち寄ったお台場のショッピングモールの駐車場には200Vの充電器付のスロットが2台分あった。ここにXC60PHEVを駐めて買い物を3時間ほど楽しんだとしたら、たいていの場合、クルマに戻ってきたらバッテリーは満タンになっているだろう(しかも、今回の駐車場は充電料金は無料!)。3時間駐めて充電した場合、9kWh分程度になる。
毎日帰宅し、クルマを駐めた後、トランクから普通充電用のプラグ&ケーブルを取り出し、まずガレージのコンセントに差す。そして、左フロントにある充電口にプラグをイン。慣れてしまえば、ものの2分もかからない作業だが、正直、若干面倒ではある。毎回リヤゲートを開けてケーブルを取り出さなければいけないからだ。できれば、スマホの充電ケーブル&充電器のように、自宅用と車載用の2セットのプラグ&ケーブルを持っていたいところだが、きっと価格もそれなりにするだろうから、なかなか悩ましい。
じつは、一度ケーブルを自宅に置いたままでかけたときに、出先のEV充電スタンドに駐めようと思ったのだが、Mode2の充電器(充電ケーブル側に制御回路を内蔵してある必要がある。Mode3だと充電器側に制御回路があるから、クルマの充電口にプラグを差すだけ)だったために、充電ができなかったのだ。
数日間、XC60PHEVと過ごして、だんだんとわかってきた。11.9kWh分の電力をどこでどう使うか。それを考えながらドライブするのが、面白いのだ。明日、走るコースを思い浮かべる。距離、交通状況も考えてみる。さて、どこで切り札の電気を使おうか。
それを可能にするのが、センターディスプレイの右画面で設定できる「HOLD」と「CHARGE」モードだ。HOLDモードは、モーターの使用を止めてバッテリーを温存するためのもの。CHARGEは、エンジンで発電してバッテリーに充電するモードだ。
週末、自宅(東京・目黒区)から三浦半島まで140kmほどのドライブに出かけてみた。充電100%で、EV走行可能距離は35kmの表示だった。自宅から市街地を通って第三京浜道路(有料道路)までの3kmは、「Pure」モードでEV走行。ここまで燃費計は100km/ℓを示している。
第三京浜~横浜新道~横浜横須賀道路~三浦縦貫道は「HOLD」でバッテリーを温存。2.0ℓ直4ターボ+スーパーチャージャーの318ps/400Nmを使って走る。2トン超えのボディだが400Nmの大トルクが軽々と前へ押してくれる。高速道路を約50km走ったところで、燃費計は14.2km/ℓとなった。
こういうときに慌てなくていいのが、PHEVのいいところだ。ガソリンタンクには、まだたっぷりと燃料が残っているのだから。
美術館を出発するときに、またHOLDモードにセットした。残り3km分のバッテリーは、高速を降りてから自宅までの分だ。パーキングエリアなどで休憩した場合、いったんイグニッションをOFFにするとHOLDモードもキャンセルされてしまう。ここは注意が必要だ。
この日のドライブは走行距離140.9kmで燃費は18.1km/ℓだった。このサイズのSUVでこの距離を走って18km/ℓ台というのは、文句なしにいい数値だ。もちろん、美術館で充電ができていれば、もっと燃費データは上がっただろう。たとえば、ウィークデーは通勤(EV走行だけ)、週末は今回のようなドライブだと仮定すれば、燃費は30km、40km/ℓ台だってまったく不可能ではない。
少し詳しくこの日の燃費を考えてみよう。140.9kmで18.1km/ℓだから約7.8ℓのガソリンを使ったわけだ。ハイオクガソリンが158円/ℓだとすると、ガソリン代は1232円になる。では電気代は? 電気代はそれぞれの地域や電力会社によって異なるが、ざっくり1kWh=26円(筆者の自宅は26円48銭)だとする。11.9kWhの約80%を使ったとして9.5kWhだから電気代は9.5×26円=約247円となる。
ガソリン代+電気代で合計1479円。つまり、1km走るのに約10.5円ということになる。
これは、レギュラーガソリン(147円/ℓだと仮定)の場合は、14.0km/ℓ、ハイオクガソリン車の場合は15.0km/ℓと同等ということだ。動力性能、乗り味は明らかにPHEVに軍配が上がる。それでいて、燃費は同等以上。これはうれしい。
電気で走る距離が長くなればなるほど、トータルの燃費は上がっていく。
たとえば、ウィークデーは、往復30kmの通勤を月~金曜日の5日間で150km、週末に今回のような140kmのドライブをしたとしたら、
ガソリン代は1232円
電気代は3.7km/kWhだと仮定して150÷3.7=40.5kWh 40.5×26円だとすると1053円
合計すると2285円
ということになる。
290kmを2285円で走ることになるので、約7.9円/kmだ。
これは、レギュラーガソリン車の場合は、18.6km/ℓ ハイオクガソリン車の場合は、20.0kmℓに相当する。おそらく、ボルボXC60PHEVの燃費計は37.2km/ℓと表示するはずだ(290kmを7.8ℓのガソリンで走ったことになるから。この数字は電気代はカウントしていない)。
PHEVの燃費を計るのは難しい。が、うまくバッテリーを使えば、燃費が良くなるのは間違いない。燃費がいいのは、ともあれうれしい。
全長×全幅×全高:4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:2180kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.7m
エンジン
型式:B420
形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1968cc
ボア×ストローク:82.0mm×93.2mm
圧縮比:10.3
最高出力:318ps(233kW)/6000rpm
最大トルク:400Nm/2200-5400rpm
燃料供給方式:筒内直接噴射
使用燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク容量:70ℓ
モーター:前T28型交流同期モーター
定格出力22kW 最高出力34kW/2500rpm 定格電圧350V
最大トルク160Nm/0-2500rpm
後AD2型交流同期モーター
定格出力28kW 最高出力65kW/7000rpm 定格電圧309V
最大トルク240Nm/0-3000rpm
駆動用バッテリー容量:11.9kWh(34Ah) 350V
駆動方式:電子制御AWD(エンジン+モーター)
トランスミッション:8速AT(ギヤトロニック)
充電電力使用時走行距離:40.9km
電力消費率:3.59km/kWh
WLTCモード:12.6km/ℓ
市街地モード15.3km/ℓ
郊外路モード9.6km/ℓ
高速道路モード14.4km/ℓ
車両本体価格◎949万円