毎年恒例となったテクノロジー・オブ・ザ・イヤー/アドバンスト・オブ・ザ・イヤー。昨一年間に登場した自動車技術について、本誌執筆陣、アドバイザー、編集部員、そしてmotor-fan.jpの会員にとって印象が深く、意義深いと判断したものに投票する。今回は世界的な奇禍によって発表された数そのものが少ない状況に陥ったものの、例年に負けず劣らずの新技術が選ばれた。ここにそれらをご紹介しよう。
● 1st PRIZE:Technology of the year award 2021
マセラティ・Nettuno「高出力を実現しつつノッキングを抑制するためにプレチャンバーを採用」
「今後の広がりが期待される世界初の副室ジェット燃焼を実用化した。他社のリーンバーンエンジンの実用化を加速させるだろう」(畑村)
「副室技術を現代的解釈で市販化している」(長沼)
「BEVやPHEV、FCEVなどの電動化技術の基本部分はひとまず固まって、いまは普及技術に軸足を移している印象だ。ICEは一般的にはこれら電動技術に追いやられつつあるようにも見えるが、そのぶん、熱効率その他の技術革新には興味深いものが多い。このプレチャンバーガソリンもそのひとつだが、F1の最新技術がこれほど明確に市販車に採用される例は昨今としてはめずらしく、クルマ好きとして純粋に夢を感じる」(佐野)
「F1やWEC、SUPERGTGT500で2014年以降順次導入が進み、リーン過給との組み合わせで熱効率を大幅に向上させている技術。高性能スポーツカーでの量産初適用を機に、量販モデルへの展開を期待したい」(世良)
「F1譲りの「プレチャンバー」を市販エンジンで最初に採用したのがマセラティだったことに驚いた。エンジンの未来の鍵を握る技術だけに、今後の展開が楽しみ。こういう技術がスーパーカーにまず載るのは、とてもいい」(鈴木)
● 2nd PRIZE:Technology of the year award 2021
デンソー・SiCパワー半導体「電力損失の大幅な低減が見込める『夢の素子』を量産車に投入」
「耐電圧性能を上げやすいSiCは、コストが高かったため鉄道から先に普及したが、いよいよ市販車にも投入。DC/DCコンバーターや三相交流インバーターの高効率化に貢献できるため、今後の利用拡大に期待する」(木村)
「EVのもっとも基幹になる技術の改良」(久保)
「約70%という電力損失の大幅な低減やモジュールの小型化という成果はもとより、SiC半導体の量産に立ちはだかるウェハー欠陥という問題に対し、真正面から立ち向かい、独自技術で克服したという点を高く評価したい」(髙橋)
● 3rd PRIZE:Technology of the year award 2021
トヨタ自動車・新型塗装機「エアスプレー式ではなく静電気を活用した世界初の塗装機」
「環境、省資源(廃塗料削減)に貢献する画期的な技術」(森川)
「エアスプレー式では避けられない塗料の飛散という無駄をなくすこで、省エネルギー化と省資源を同時に実現する。他技術と比較して地味に映るが、持続可能な開発に寄与する素晴らしい技術であるため最高評価とした」(川島)
「『エアにできることを考えたらもっと効率のいい方法に気がついた』という印象。塗装の概念を大きく変える革新的な技術。これで塗装工程の取材撮影の秘匿度がさらに高まるか......」(萬澤)
■ 1st PRIZE:Advanced technology of the year award 2021
日本精工・非接触式トルクセンサ「非接触でリアルタイムのトルク計測が次世代パワートレーン開発の福音に」
「これをパワートレーンに使うことで、電費や燃費が改善するだけでなく、トルクの常時精密監視は胡椒余地や変速時のトルク変動を緩和するなど、さまざまな効能が期待できる。地味だが、大きな効果が期待できる」(鈴木)
「入出力軸に歯車をつけて位相計測していたのが懐かしいと言わしめる技術!」(山門)
「夢のセンサーの実現だ。実トルクが取得できる恩恵は計り知れず、ドライブトレーンやシャシーの制御に多大な影響を与えるはず。試験用途でしかなかったトルクセンサーを市販車に搭載可能なかたちとした意義は大きい」(髙橋)
「駆動系にかかる実際のトルク値を知ることができれば、推定値による電子制御技術で成り立っている今日のトランスミッションに対し、より高度な制御が可能となる。トランスミッションエンジニア待望のセンサーではないだろうか」(野﨑)
■ 2nd PRIZE:Advanced technology of the year award 2021
ヴァレオ・48V電動4WD軽トラック「補助駆動装置として認識されていた48Vシステムを主駆動装置として活用」
「トヨタがふたり乗りEVのC+podを発売。出光興産がタジマモーターと組んで超小型EVを開発し、2022年に発売する予定だと発表した。標準化された48Vシステムを用いることによる、超小型EVの低コスト化に期待」(世良)
「コストとスペース効率の両面から困難とされている軽自動車の完全電動化を実現する、現時点で恐らくもっとも現実的なソリューション。モーター性能のさらなる向上に期待」(遠藤)
「日本の一次産業を支える大切な存在ながら、販売台数の減少に苦しんでいる軽トラック。それを安価に電化できれば生産が持続可能になるのではないか?社会課題の解決と48Vシステムの製品化・普及への期待を込めて最高評価とした」(川島)
「『これでいいのだ』と一発で理解させるすばらしいプレゼンテーション」(萬澤)
■ 3rd PRIZE:Advanced technology of the year award 2021
パナソニック・TOF方式長距離画像センサー「LiDARの苦手な検知領域を克服、高精度での小物体特定を可能にする」
「この種のセンサーはADASの進化に有益だ。『開発』と『製造』の一体化こそ日本の得意領域であり、ここに『発案』が加われば未来は決して暗くはない」(牧野)
「自動運転の有力ツール」(久保)
「自動運転(システムによる状態監視)対する重要な技術」(森川)
「半導体中に高電界領域を作っておき、そこに光電子がひとつでもできると即座に加速。この電子を原子と原子をつないでいる価電子結合にぶつけて壊し、新たな電子をねずみ算式にどんどん生成していく。これが連鎖的に起こることを電子なだれ(アバランシェ)現象という。高感度光センサーに使われる技術で、ニュートリノの発見につながったスーパーカミオカンデの光電子増倍管(真空管)を半導体版にしたものと考えればよい。さらに、TOFと信号積算+アベレージングによって感度アップ&ノイズ低減を可能とする信号処理技術を組み合わせているところが凄い」(木村)
選考委員(五十音順)
遠藤正賢(ジャーナリスト)
川島礼一郎(ジャーナリスト)
木村英樹(東海大学教授)
久保愛三(クボギヤテクノロジーズ主宰)
佐野弘宗(ジャーナリスト)
世良耕太(ジャーナリスト)
髙橋一平(ジャーナリスト)
長沼 要(金沢工業大学教授)
畑村耕一(畑村エンジン研究事務所主宰)
牧野茂雄(ジャーナリスト)
森川邦彦(ケイエムギヤズ・ラボ代表)
山門 誠(神奈川工科大学教授)
野﨑博史(モーターファン・イラストレーテッド編集長)
鈴木慎一(MFiエグゼクティブエディター)
松井亜希彦(MFi編集部員)
萬澤龍太(MFi編集部員)
※各選考委員による採点内容は、MFi vol.174号に掲載しております。