1948年に生まれた旧型に対して、まるでタイムスリップしたかのように一気に近代化を果たした新型ディフェンダー。その恩恵は、オンロードでの走行時に最も強く感じられる。乗り心地はまろやか、室内は快適。なおかつ、いざという時に頼りになる万全の走破性を併せ持つ。最強のヘビーデューティー4WDと称するに値する存在だ。
見た目はタフネスでも中身は快適なSUV。
かつてのディフェンダーのアッパーボディは、アルミ鋼板を造形し、リベットで組み付けるといった前時代的なものだった。しかしそれは決して嫌なものではなく、かえっていい味となっていた。例えば、鋼板の折り返しだったり、波打った面は、到底現代の自動車の価値感からあり得ないものである。しかし、そういった「アラ」に道具感が宿り、乗り手の冒険心を喚起させていたと言える。
一方、現行型のディフェンダーを目の前にすると、そのクオリティ感には隔世の感を覚えざるを得ない。もちろん令和の時代に、波打ったボディや剥き出しのリベットのクルマを発売するわけにはいかない。しかし、一部では旧型の造形をレトロフィーチャーしながらも、造りは至って現代的な滑らかさを持つわけだから、旧世代ファンはどうしても脳内で違和感を感じてしまうのである。
しかし、初めてディフェンダーという四輪駆動車(SUV?)に接するユーザーであれば、このモデルの厳つさはたまらないものがあるだろう。地面から屹立するようにデザインされたフロントマスク、限りなくスクエアに近く投影面積の大きなボディ、ストンと切り落とされたリアの形状。それは、どれも現代のSUVにはないものだ。
さらに、今回試乗したモデルには「アドベンチャーパック」なるオプションセットが装着されている。中でも『エクステリアサイドマウントギアキャリア』と名付けられた24リットルのボックス型キャリアは、同車にさらにヘビーデューティな雰囲気を纏わせている。
エクステリアは現代的になったものの、旧型が培ってきたイメージを大切に守っている感があり、まずまず好意的に受け止めることができた。高めのサイドステップに足をかけて、車内に滑り込んだと、インテリアもまた苦心して造ったことが窺える。他のランドローバー車に比べると、豪奢なイメージを極力廃し、シンプルにデザインされている。
では、ディフェンダーのイメージかと言えば、そうでもない。旧型は実用車であったから、インパネは簡素の極みであった。バルクヘッドに樹脂のカバーを施し、そこにメーターとハンドルが付けられているという体だった。それに比べると、このディフェンダーのインパネは豪華と言ってもいい。初見の印象では、初代レンジローバーのそれを思い起こさせる。メーターは今時の液晶、センターには大きなヒューマンインターフェイス兼モニターが奢られ、この辺は現代のユーザーの満足感を満たすことを忘れてはいない。
シートもアウトドアユースを意識したマテリアルとデザインながら、旧型よりも大型化し、座り心地は上位モデルのレンジローバーシリーズと大差がない。僕は身長180cm、体重85kgという巨軀だが、旧型で感じた窮屈さは皆無で、いかにも快適なシートに進化していた。
さて今回試乗した110には、P300型という2リッター直4ガソリンターボエンジンが搭載されている。ディフェンダーにはこの他にも、200psと240psの2リッター直4ディーゼルターボ、300psの3リッター直6ディーゼルターボ、400psの3リッター直6ガソリンターボというパワーユニットが用意されている。3リッター直6ディーゼルターボについては、本年度に日本導入が決まっているが、それ以外は未定の状態だ。
3リッター直6ガソリンターボはいずれ、スポーツモデルに搭載されて日本でも限定発売されそうだが、200psと240psの2リッター直4ディーゼルターボは商用目的のコマーシャルモデル向けなのかもしれない。
さて2リッターという排気量から考えると、少々小さいエンジンなのでは?とは感じる向きもいるかもしれない。しかし、なにせ現代はダウンサイジングターボユニット華やかかりし時代。2リッターとは言え300psというスペックは、日本の道路では不足のないものだった。踏んだ瞬間からグッと立ち上がるトルク感は、低圧ターボのなせるワザで、そのまま100km/hまでノンストレスで加速してくれる。いよいよ日本も一部高速道路において120km/h時代が到来しているが、この速度での巡航運転も何の問題もない。
ドッカン系ではないので、物足りないと感じるユーザーもかなりいるかもしれないが、Jeepラングラーの3.6リッターV6ガソリンよりは軽快感はある。何よりも日本では排気量によって自動車税が定められていることを考えれば、裕福なユーザー層を除けば、この排気量は歓迎すべきものだ。
さて試乗するにあたって、やはり気になっていたのはハンドリングと乗り心地だ。周知の通り、現行型のディフェンダーはラダーフレーム構造からオールモノコックボディへと変貌したからだ。興味深いのは車両重量だ。オールモノコックになったし、2リッターエンジンならさぞ軽くなったのであろうと思いきや、110(5シート)で2186kgもあるのである。これは、3.6リッターエンジンかつラダーフレームを持ったJeepラングラーアンリミテッド・ルビコンの2050kgを上回るものだ。となると、乗り味はどうなるのかと興味津々であった。
しかし、そこはSUV競争で先頭グループを走り続けるランドローバー。フロントサスペンション:ダブルウイッシュボーン、リアサスペンション:マルチリンクは伊達ではない。リジッドアクスル式サスペンションのクルマに負けるわけもなく、非常に素直なハンドリングになっている。レーンチェンジやコーナリングでもリジッドアクスル式のようなクセはなく、普通に乗れるのである。
「ラダーフレーム構造の約3倍の強度を持つモノコックボディ」と散々謳っているだけあって、アンダーフロアから感じる剛性感は抜群だ。詳細は次の回で述べるが、この剛性感はオフロード走行でも十二分に感じることができた。さらにこのモデルはエアサスを備えていることから、乗り心地も最高だ。路面からのハーシュネスなど感じることもない。
ちなみに現行型ディフェンダー110は、そのボディサイズ(全長4945×全幅1995×1970mm)の大きさを取り沙汰されることが多い。しかし、全長5m、全幅は2mに近いものの、それほど嫌な取り回しではなかった。ボディがスクエアなので車体の感覚が掴みやすいし、狭い道のすれ違いでもミラーを目安にすれば、ギリギリまで寄せることもできる。しかも、車体周囲の状況を様々な視点から確認できる映像デバイスも付いているので、大きなクルマは初めてという人でも安心してドライブできるだろう。
現行型ディフェンダー110のオンロードインプレッションをまとめるとすれば、肩肘張らずに普通に乗れるSUVだということだ。旧型の乗り味があまりにも四駆四駆していたので、そういうフィーリングを好む人にはまったく相容れられないものであることは明記しておく。
現代的なエンジンに現代的なボディ、そして現代的なサスペンション。さらには様々な走行状況を判断してバリアブルに駆動トルクを可変させるフルタイム4WD、走行を補助する電子デバイス。これ以上望むものはないほど、豪華なヘビーデューティSUVだ。突然の豪雨や凍結した路面に見舞われても、慌てることなど何もない。
しかし敢えて言うのであれば、ヒューマンインターフェイスが多分に漏れず複雑過ぎる。オーナーは取り扱い説明書を読めということだろうが、それも電子化されており、特別なアプリケーションをダウンロードしないと読むことすらできない。センターにあるモニターは、タッチやらピンチやらと直感的に操作できるのに、メニューの階層は非常に複雑で、まるで直感的にはイジれない。自分が旧世代だとはまだ認めたくないが、オーディオひとつコントロールするのも嫌になってくる。様々なことがクルマでできるようになるのはいいが、やはりインターフェイスだけはできるだけ簡素なものが望ましいと、改めて実感した。
さて次回はいよいよ、ディフェンダーの存在意義とも言えるオフロード走行についてお話したい。荒れまくった林道での走行において、意外な面を見せてくれたディフェンダー110。果たして、その実力とは?
ランドローバー・ディフェンダー主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4995×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2240kg
乗車定員:5名(試乗車はオプションの3列目シート装着のため7名)
最小回転半径:5.3m
燃料タンク容量:90L
■エンジン
形式:水冷直4列気筒ターボ
排気量:1995cc
ボア×ストローク:83.0×92.2mm
最高出力:221kW(300ps)/5500rpm
最大トルク:2400Nm/2000rpm
■駆動系
トランスミッション:8速AT
■シャシー系
サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:255/65R19
■車両本体価格
589万円
※オプション総額:227万2880円