ランドローバーを代表するオフローダー、ディフェンダーの復活は大きな話題となった。特に旧型のイメージを現代流に解釈したデザインは世界的に好評だ。が、実は新型の登場はオールドファンから決して手放しで歓迎されたわけではなかった。旧型のオーナーだった山崎友貴さんは新型に抱いたという違和感は、一体なんだったのだろうか。
違和感の原因は、その歴史にあった。
2020年に日本上陸を果たした海外SUV勢の中で、とりわけファンの注目を集めたのがランドローバーの新型「ディフェンダー」だ。世界のランドローバーファンを騒然とさせた同モデルだが、今回ようやく試乗をする機会を得た。
試乗前に気になっていたことは、同モデルが伝統のラダーフレーム構造+リジッドアクスル式サスペンションを捨てて、モノコックボディ+インディペンデント式サスペンションを採用したことである。この「宗旨替え」は、僕に限らず多くのクロスカントリー4WDユーザーが注目したはずで、加えて現代的なデザインは「ソレジャナイ」感を一層なものにさせた。
実際、新型ディフェンダーのデザインや構造に見切りをつけたイギリスのヘビーユーザーの一人は、自ら「イネオス・オートモーティブ」というブランドを立ち上げ、先代ディフェンダーにそっくりな「グレナディア」というクロスカントリー4WDの開発を行っている。
なぜこれほどまでに新型ディフェンダーがクロスカントリー4WDユーザーをざわつかせるかというと、それは他のランドローバー車同様の「SUV」になってしまったからだ。正常な進化は多くのユーザーが歓迎するところだが、急激な路線変更は必ずしも望まれないものだ。
オンロードを快適に走りたいなら、同ブランドにはレンジローバー、レンジローバー・イヴォーグ、ディスカバリーが用意されているわけで、その中から予算に合った車種を選べばいい。しかし、ディフェンダーには“堅牢なワークホースであれ”という使命がつきまとっている。
新型ディフェンダーのインプレに入る前に、ディフェンダーの歴史について振り返ってみたい。その足跡を辿れば、ランドローバーファンたちが、なぜ新型ディフェンダーに疑問符を付けるのかが分かるはずだ。
ディフェンダーの源流である「ランドローバー・シリーズⅠ」が生まれたのは、1948年のイギリス。当時のイギリスは、終戦直後の混乱期であり、特に物資が極めて乏しい状態にあった。ローバーモーターズのエンジニアの一人であったモーリス・ウイクルは、弟が愛用している軍用払い下げのJeepが寿命を迎えた時のことを鑑み、全地形型の四輪駆動車の開発を行ったと伝わっている。
ランドローバー・シリーズⅠは、当時の鉄不足問題を解消するために、アッパーボディにアルミ製を採用したと言われている。そもそもイギリスはアルミニウムの生産に意欲的な国であり、戦中も積極的にアルミのリサイクルを行っていた。ただ、鉄不足だったからアルミという説を疑問視する向きもあり、当初から耐腐食性に優れているからアルミを使ったとも言われている。他の構成部品にはJeepの流用もかなりあり、多くの部分でJeepを模倣したモデルだった。
現在のランドローバーと言えば、フルタイム4WDの代名詞になっているが、この当時のランドローバーはパートタイム式4WDを使っている。ただし当初のシリーズⅠ、前駆動輪の断切にワンウェイクラッチを使う「疑似フルタイム4WD」であり、1950年に一般的なパートタイム4WDに変更されるまで、このメカニズムを使っていた。
発売当初のランドローバーは「あらゆる仕事に対応する農民のメイド」というキャッチコピーが付けられており、決してホワイトカラーの足ではなかった。軍用としてもマッチングが良く、英国陸軍特殊部隊・SASが砂漠で使用した「ピンクパンサー」は、世界的にも有名な一台となった。
「大地を放浪する」という名前の四輪駆動車は、その後、世界の僻地で優れたワークホースとして活躍し、基本的なデザインを大きく変えることなく、シリーズⅠ(1948-1958)、シリーズII(1958-1972)、シリーズIII(1972-1985)、そしてランドローバー90/110(1983-1990)と受け継ぎ、その後のディフェンダーへと繋がっていくのである。
ランドローバーやディフェンダーは、農民や僻地で働く人間のみならず、女王をはじめとする貴族層も自らの領地内の足として使うほど優れたクルマだ。ランドローバーとディフェンダーは、イギリスの世界覇権の象徴であり、英国人の誇りである。しかし、その歴史は2016年に終焉を迎え、2020年からはまるで異なるモノコックボディのSUVに名前が受け継がれたわけである。
ランドローバーブランドが、2006年にフォードからタタに売却されて以降、同ブランドがスポーツSUVの道を進むことは明白だったが、ディフェンダーだけは....という微かな期待感がユーザーにはあったはずだ。だが、それは見事に裏切られた。メルセデスベンツの次期Gクラスもモノコックボディになるという噂があり、もはや安全性や環境性能を考えるとクロスカントリー4WDのモノコック化は時代の必然なのかもしれない。
一方で、ランドローバーに代わって僻地のワークホースを標榜しているトヨタ「ランドクルーザー」は、頑ななまでにラダーフレーム構造+リジッドアクスル式サスペンションを踏襲し続けている。堅牢性、耐久性、そしてメインテナンスの容易性が求められるクロスカントリー4WDにおいて、捻れ剛性がラダーフレームの3倍あるアルミ製モノコックボディが、果たして条件を満たすことができるのか。
そんなファンたちと同様の疑問を持ちつつ、次回はいよいよインプレッションをお伝えしたい。
ランドローバー・ディフェンダー主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4995×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2240kg
乗車定員:5名(試乗車はオプションの3列目シート装着のため7名)
最小回転半径:5.3m
燃料タンク容量:90L
■エンジン
形式:水冷直4列気筒ターボ
排気量:1995cc
ボア×ストローク:83.0×92.2mm
最高出力:221kW(300ps)/5500rpm
最大トルク:2400Nm/2000rpm
■駆動系
トランスミッション:8速AT
■シャシー系
サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:255/65R19
■車両本体価格
589万円
※オプション総額:2272880円