ホンダの人気スクーター「PCX」「PCX160」「PCX e:HEV」がフルモデルチェンジを受け、2021年1月28日(木)に発売。ここでは新しくなった外観・シャシー・エンジンを解説。ホンダ PCXシリーズは、一体どこが、どう進化したのだろうか?
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
シンプルな2バルブから、吸排気効率に優れた4バルブに進化!150は149cc→156ccに排気量アップ
開発の狙い、それは「Personal Comfort Saloon」としての更なる進化
フロント周り&リヤ周りのスタイリング
灯火器は、その光り方によって車両の印象に大きな影響を与える。今回、PCXシリーズが目指したのは、PCXらしさと、さらなる進化を光で表現すること。
灯火器にはフルLEDを採用。ヘッドライト、テールランプ共に新設計とし、PCXらしさ&さらなる進化を光で表現している。スタイリッシュな雰囲気を演出するLED灯火器は、軽量コンパクト化や省電力化などにより、各性能の向上にも寄与。
ヘッドライト部分のデザインは、ロービーム・ハイビーム共に、PCXらしさの表現として横一列に配置。そこから車体後方に大きなフローを感じさせる、シグネチャーランプのラインをつくり、車体デザインとのマッチングも良好。
また、シグネチャーラインをフォローするように、細い5本の光のラインを並行して配置。このような新しい発光技術を取り入れることによって、存在感を大幅にアップ。
従来モデルのリアビューは、 「X」に近い形状の赤い光が印象的だっただ、新型のテールランプのデザインは、それに更なる磨きをかけ、立体的な光り方を目指した。
車体後方から前方に伸びる、レンズに沿ったテールランプの赤い光は、「X」の一部を構成するとともに、今までのPCXには無かった「光の立体感」を表現。上下に割れたテールランプの「X」をつなぐように、ストップランプを発光させている。これは2本の細いラインが強い光を放つ、「マルチオプティクス」技術を応用したものであり、新しいPCXの先進性を強調する部分だ。
メーター&ハンドル周り
新設計のメーターは、大型で視認性の高い大型液晶を中央に配置。各種インジケーターをバランスよく配置し、豊富な情報量を分かりやすく表示。今回、新たにバッテリー電圧低下警告灯を設定(※注:e:HEVタイプはエラー警告灯)。バッテリー電圧低下警告灯は、エンジン始動時に規定のバッテリー電圧を下回った場合に点灯し、バッテリー上がりを未然に認識することができる。
メーターは従来のPCXのイメージを継承しつつ、「進化の表現」と「視認性の向上」を目指してデザイン。LCD中央部の横バー型のゲージデザインと、左右に続くウインカーやベゼルのデザイン的な関連性をより強化することで、一層ワイドに、かつ車体の水平基調の伸びやかなイメージにアレンジ。
ベゼルのデザインは、左右にワイドに伸びた立体形状が内側に戻り、ウインカーへ続くように折り返すことで、メーターが非点灯時でもデザインコンセプトが感じられる造形としている。
初代PCXから継承し続けているクローム・バーハンドルは、PCXのアイコニックな部分。シンプルな構成のハンドルはそのままに、クランプ周りのカバーを一新。車体のデザインに合わせて、角形状の造形としている。
エンジンカバー、エアクリーナー、マフラー
従来モデルから「FUNCTION LINE」をモチーフとしたデザインを踏襲し、機能性と意匠性を併せ持ったエンジンカバー形状を採用。エアクリーナーの形状は、ソリッドな形状かつシャープな面構成とし、メカニカルで一体感のあるフォルムにデザイン。締結ボルトも新形状とし、メカニカルな演出に寄与している。
マフラーのサイレンサーは、外筒形状を楕円形状にデザイン。車幅方向への張り出しを抑えると共に、マフラーエンドを高い位置に配置することで、機能的でシャープなイメージを演出。マフラーエンドカバーはシルバーカラーにコーディネイトして軽快感をさらに強調。
カラーリングのポイント
新設計のエンジンは…...時代をリードする先進技術の採用による高出力&環境性能の両立
パワーユニットのねらいは、時代をリードする先進技術の採用による高出力、環境性能の両立。パワーユニットは新設計のエンジン「eSP+(※注)」を採用。4バルブ機構などによる出力の向上と、フリクション低減につながる技術を適応することで、従来のエンジンを上回る出力特性と優れた環境性能を達成。
また、停車後自動的にエンジンを停止し、発進時はスロットル操作だけでスムーズに再始動するアイドリングストップ・システムを継続採用することで、高い環境性能と停車時の騒音低減を実現。
※注:「eSP+」とは、環境対応型コミューター用エンジン「eSP」に付加価値技術を採用することで、高い環境性能だけでなく、出力の向上とフリクションの低減を実現。高出力と優れた環境性能を併せ持つ、新世代環境対応型コミューター用エンジンの総称。eSP: enhanced(強化された)Smar(t 洗練された、精密で高感度な) Powe(r 動力、エンジン)の略。
新型PCXの「eSP+」に採用した技術内容は以下の通り。
●出力向上技術
・4バルブ機構の採用
・ボア×ストロークの変更と高圧縮比化
・クランク周りの高剛性化
・ピストンオイルジェット機構の採用
●フリクション低減技術
・油圧式カムチェーンテンショナーリフターの採用
・ローラーロッカーアーム※
・オフセットシリンダー※
・スパイニーシリンダスリーブ※
・ダブルコグベルトの採用※
※技術は従来モデルより継続採用。
4バルブ機構を採用し、ボア径×ストローク長を変更
シリンダーヘッドは従来の2バルブから、4バルブ機構を採用。バルブ総面積の拡大により、混合気の吸気効率と燃焼ガスの排気効率を高めることで、高出力化を達成。
また、ボア径を拡大することで、バルブ面積を拡大。加えて従来よりもショートストローク化することにより、摺動抵抗を低減すると共に、圧縮比をアップ。これらにより出力向上に寄与している。
・PCX:ボア径φ52.4⇒53.5㎜ ストローク量57.9⇒55.5㎜ 圧縮比11.0⇒11.5
・PCX160:ボア径φ57.3⇒60.0㎜ ストローク量57.9⇒55.5㎜ 圧縮比10.6⇒12.0
クランク周りの高剛性化
油圧式カムチェーンテンショナーリフターの採用で、フリクションを低減
油圧で発生する減衰力により、チェーンの振れを抑制。メインスプリングの張力で、テンショナーを速やかにチェーンに追従させ、フリクション低減と騒音、振動の抑制を高いレベルで両立。これにより燃費性能の向上に寄与するとともに、静粛性が長期間に渡り持続する、高いタフネス性を実現。
駆動系 はプーリーサイズを変更。クラッチ&ミッションシャフトも見直し
出力が向上した新しいエンジンの特性に合わせて、ドライブ/ドリブンフェイス径の拡大と形状を最適化。さらにミッションレシオの見直しを行ったことで、動力性能を向上しつつ、フリクション低減と静粛性向上を実現。またクラッチの形状変更&ミッションシャフトのサイズアップにより、クラッチの接続特性と振動特性を向上して、より滑らかな走り出しを獲得。
スロットルボディ径はΦ26mmからφ28mmに拡大
吸気系は新設計とし、エアクリーナーからインレットパイプまでを構成する各部品の吸気経路を拡大。スムーズに繋ぐとともに、スロットルボディ径をΦ26mmからφ28mmに拡大することで、吸気効率の向上を図っている。また、スロットル低開度から力強いドライバビリティを実現するため、新たに整流板(特許出願中)を採用。
新設計の排気系は、マフラー内部の膨張室をつなぐパイプをストレート構造にすることで、排気抵抗を低減。またキャタライザーの配置を最適化し、排気ガスの浄化性能をアップ。これにより力強い走りと高い環境性能を達成し、国内3次規制値をクリア。
新型PCXシリーズの車体と足周り
街中における軽快性と、全ての速度域で安定感のある走行を両立し、日常の使い勝手をさらに進化させた車体パッケージを実現するため、フレームを完全新設計。ボディカバーの幅を従来モデル同等に保ちながら、フレーム骨格をシンプルにするとともに、エンジン搭載形式を変更。これらにより、ラゲッジボックス容量を、従来モデルの28Lから30L( e: HEVタイプは23Lから24L)に拡大。
快適で上質な走りを実現するため、フレームは完全新設計
軽量化と剛性の最適バランスによる「快適で上質な走り」を実現するため、フレームを完全新設計。フロント周りは、ヘッドパイプの角度変化を抑えるために、ねじれ中心を考慮することでスムーズな旋回性能を実現。
リヤ周りは、ヘルメット等の収納性に配慮し、シンプルな1本のパイプでの構成としながらも、リヤクッションの固定形態をブラケットタイプとすることで、リヤクッションの作動性向上に寄与。
CAE解析により、各部を構成するパイプ径や肉厚、材質の選定や、これらの接合位置を最適化することで、フレームボディ単体でマイナス760gの軽量化を達成。従来モデルと同等以上の軽快なハンドリングと、取り回しやすさを実現。
リヤホイールは14インチから13インチに小径化
高い安心感と快適で軽快な走りを両立するアルミ製ホイールは新設計とし、フロント14インチ(MT2.75)、リヤ13インチ(MT3.50)を採用。5本のY字スポークデザインは高級感と軽快な走りを演出し、剛性バランスの最適化を図っている。
タイヤは従来のフロント100/80-14、リヤ120/70-14から、フロント110/70-14、リヤ130/70-13のワイドサイズに変更。タフなルックスを表現するとともに、太いトレッド幅と豊富なエアボリュームにより、リニアなハンドリング性能と快適な乗り心地を獲得。
ブレーキシステムはフロントのみが作動する1チャンネルABS(アンチロック・ブレーキ・システム)を全タイプに設定。フロントはΦ220mmのディスクブレーキを継続採用、リヤブレーキには新たにΦ220mmのディスクブレーキを設定。
※注:ABSはライダーのブレーキ操作を補助するシステムです。ABSを装備していない車両と同様に、コーナー等の手前では十分な減速が必要であり、無理な運転までは対応できません。ABS作動時は、キックバック(揺り戻し)によってシステム作動を知らせます。
進化したリヤサスペンションで乗り心地も向上
乗り心地の向上を目指し、アクスルトラベルの伸長を実施。サスペンションがストロークする時のベンディング応力の発生を低減するために、エンジンリンクとサスペンションの取付け角度を最適化。また、リヤサスペンションレシオを変更することで、アクスルストロークを従来モデルに対して10mm増加させ、95㎜に設定。
これにより、スムーズなストロークで路面凹凸からの突き上げをしなやかに吸収することを可能とし、エアボリュームを増加したリヤタイヤの衝撃吸収性との相乗効果により、優れた乗り心地を発揮。
また、スプリングの線径をアップし、スプリングの内側に樹脂ケースを採用することで防塵性を向上するとともに、リヤ周りの外観に力強さを付加することに寄与している。
電子制御システムのHonda セレクタブル トルク コントロール(HSTC)を導入
スリップしやすい路面での安心感を提供する「Honda セレクタブル トルク コントロール(HSTC)」を新たに採用。HSTCは、前後輪の車輪速センサーにより、後輪のスリップ率を算出。算出されたスリップ率とスロットルポジションセンサーにより、検出したスロットルバルブ開度に応じて、燃料噴射量制御。これによりエンジントルクを制御し、後輪のスリップを抑制する最新の電子制御システム。
メーター内にはHSTCインジケーターを装備し、インジケーターの点滅によりシステムの作動をライダーに通知。路面の状況に応じて、スピードメーターのマルチファンクションスイッチでON/OFFの選択が可能。
※注:Honda セレクタブル トルク コントロールは、スリップをなくすためのシステムではありません。あくまでもライダーのアクセル操作を補助するシステムです。したがって、Hondaセレクタブルトルクコントロールを装備していない車両と同様に無理な運転までは対応できません。
実用性の高い便利なアイテム
便利な「Honda SMART Keyシステム」を採用
利便性の高いスマートキーシステム「Honda SMART Keyシステム」を継続採用。スマートキーを携帯して車両に近づき、メインスイッチノブを回すことで、キー操作なしのスマートなエンジン始動を可能にしている。
また、盗難抑止機構として、メインスイッチノブは内蔵されたクラッチ機構により空回りすることで、無理な力でのハンドルロック解除を防止。メインスイッチノブ横のシーソー式スイッチによって、シートとフューエルリッドの開錠操作が可能。
スマートキーには、オーナーが車両のそばにいる時に、他の人によるメインスイッチノブの操作を無効とするHonda SMART KeyシステムのON/OFFスイッチと、車両のウインカーを点滅させて自車の位置を知らせるアンサーバックスイッチ、そして車両に装備された防犯のためのアラーム(別売)をスマートキー
から設定するためのアラームスイッチを装備。
純正アクセサリーも充実
従来より好評のラインナップに加え、新たにナックルバイザーや、ボックスの開錠動作をボタンスイッチの操作のみで可能とし、ボックス専用のメカニカルキーを携行する必要がない、スマートな使い勝手を実現したスマートキーシステム対応のトップボックスを採用。各アクセサリーはPCX開発チームによる同時開発にて、機能性はもちろん、車体との高いマッチングを図っているのが特徴。