2019年11月の日本導入時には1.5ℓ直4ターボ(35TFSI)だけのラインアップだったアウディA1スポーツバックに待望の1.0ℓ直3ターボ(25TFSI)が登場した。35TFSIが365万円からだったのに対して、25TFSIは294万円から。まさにA1の主力エンジンである。25TFSIを試乗した。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
真打ちの登場である。アウディは2020年6月16日、A1スポーツバックに1.0ℓ3気筒ガソリンエンジンを搭載する25 TFSIを追加した。2019年11月に2代目A1が国内デビューを果たしたときは、1.5ℓ4気筒ガソリンエンジンを積む35 TFSIのみのラインアップだった。アウディ・ジャパンは25 TFSIを「主力」と表現するが、よくよく聞いてみるとA1のセールスのうち9割を25 TFSIと見込んでいるという。主力どころの話ではない。A1の魅力は25 TFSIで充分に味わえるという自信の表れだろう。
まずは、新たに追加になった25 TFSIと既存の35 TFSIのエンジンスペックを比較してみよう。
25 TSFI
1.0ℓ直列3気筒ターボ
最高出力:95ps(70kW)/5000-5500rpm
最大トルク:175Nm/2000-3500rpm
WLTCモード燃費:15.2km/ℓ
35 TSFI
1.5ℓ直列4気筒ターボ
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
WLTCモード燃費:15.6km/ℓ
組み合わせるトランスミッションは、どちらも乾式クラッチを備える7速DCTだ。25 TFSIのエンジン排気量は35 TFSIに対して3分の2になっており、最高出力もほぼ3分の2である。ただ、先代モデルの1.0ℓユニットに対しては最大トルクが15Nm向上している。ドライバビリティの向上に効くスペックの変更だ。
車両重量は35 TSFI系が1220〜1230kgなのに対し、25 TSFI系は1170kgで50〜60kg軽い。この軽さも効いているのだろう。「なんだこの速さは」という驚きはないが、「もたもたしてストレスが溜まる」ということもない。普段、ひとまわり大きいサイズで似たようなエンジンスペックのクルマ(VWゴルフ7、105ps/175Nm、1240kg)に乗っている身からすると、クルマがコンパクトなこともあってA1は控え目なスペックの割にキビキビ動く印象を受ける。ちなみに、100km/h走行時のエンジン回転数は2200rpm前後だ。
VW/アウディグループはBセグメントのベースとなるエンジンを1.2ℓ4気筒から1.0ℓ3気筒に置き換えている。VWポロがそうだし、VW Tクロスがそうだ。動力性能的には何ら不満はないが、3気筒特有のラフな振動が気になる人には気になるかもしれない。原理的にはどうしようもなく、4気筒のほうがスムーズだ。排気量が2割も違うので比べては酷かもしれないが、1.2ℓ3気筒ターボ(100ps/205Nm)+8速ATを搭載するプジョー208のほうが3気筒特有の振動は希薄だし、ずっと力強く感じる。
アウディはモデルごとのクルマの出来に差をつけるのがうまく、数字が大きくなるほど上質感が増し、「いいクルマ感」が増していく。A1からA3、A3からA4、A4からA6、A6からA8と乗り換えるごとに感動が増していくのだ。カジュアルとフォーマルで線引きすれば、A3とA4の間に分岐点がありそうだ。A1はとことんカジュアルで、「小さいけど高級」とはちょっと言いにくい。しかし、見た目がおしゃれな生活の道具と割り切ってしまえば、よくできたクルマだ。
もっともベーシックな25 TFSI(車両本体価格294万円)は185/65R15サイズのタイヤを装着している。さすがにアルミホイールを装着しているものの、いたずらに大径ホイールに走らないところに売り手の良心を感じる。上級グレードのAdvanced(車両本体価格325万円)は195/65R16サイズになるが、それでも215/45R17サイズを履く35 TSFI系よりひとまわり小さい。見た目を重視するなら別だし、グリップの限界を追求したいなら話は別だが、タイヤハイトが高いことは、乗り心地面では重要だ。
25 TFSI Advancedは35 TSFI Advancedと同じで、シートの中央にラインが入っておしゃれだが、25 TFSIのシートは無地そのもので、比較してしまうと素っ気ないことこのうえない。ダッシュボードやドアの加飾も控え目で、華々しさには欠ける。35 TSFI 系にも言えることだが、ナビシステムが欲しい、先進運転支援システムを充実させたい、LEDのヘッドライトが欲しい、リヤビューカメラが欲しいとオプションを付けていくと、気づいたら結構な値段になってしまうことは覚えておきたい。試乗車の25 TFSIには92万円分のオプションがついており、車両本体と合わせれば386万円になる。
「A1のスポーティなルックスにひと目惚れした。これ以外考えられない」というなら話は別だが、A1のまわりにはプジョー208(車両本体価格239万9000円〜)やルノー・ルーテシア(車両本体価格236万9000円〜)といった好敵手がいて、動力性能面でも装備の面でも、走りや燃費の面でも、価格の面でも、居住性や使い勝手の面でもいい勝負をする。それぞれ一長一短あるので、比較してみる価値はあるだろう。
アウディA1 25TFSI
全長×全幅×全高:4040mm×1740mm×1435mm
ホイールベース:2560mm
車重:1170kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトレーリングアーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:DKL(EA211)
排気量:999cc
ボア×ストローク:74.5mm×76.4mm
圧縮比:10.3
最高出力:95ps(70kW)/5000-5500pm
最大トルク:175Nm/2000-3500rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:40ℓ
燃費:WLTCモード 15.2km/ℓ
市街地モード11.9km/ℓ
郊外モード:15.4km/ℓ
高速道路:17.2km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:294万円
試乗車はオプション込み386万円(opカラー6万円/ナビゲーションパッケージ32万円/アシスタンスパッケージ12万円/コントラストルーフ7万円/LEDパッケージ16万円/コンビニエンスパッケージ19万円)