「フル」スカイアクティブで登場した乾坤一擲のKE系CX-5。そのサスペンション構成について考察してみた。
STORY:國政久郎(KUNIMASA Hisao) TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
CX-5は「SKYACTIVテクノロジー」を全面的に採用した第一弾車種である。ボディとシャシーがSKYACTIV世代へ進化すると何が起きるのか、試乗の機会を心待ちにしていた。試乗したのはSKYACTIV-D搭載のFWD、17インチホイール装着車。最も売れ線であろうグレードだ。
リフトアップして細部を観察すると、大きな力がかかる部分、なかでも接合部は「しっかり作る」ことを徹底している印象だ。SKYACTIVボディならびにシャシーの開発陣は「力をきちんと受け止められなければ、狙い通りにいなすこともできない」という基本に立ち返り、そこからすべてを再構築してきたように見える。
実際に試乗しても、その効能は明確に体感できた。剛性不足によって生じる典型的な症状のひとつに、車体各部がばらばらに振動し続ける動きがある。「ブル感」などと呼ばれるが、入力の伝達過程で大きさの変動や時間的なズレが生じ、部位ごとにさまざまな周波数と位相を持つ大きめの振動が入り混じってしまうことが主因だ。当然、乗り心地にも操縦性安定性にも好ましくない影響をおよぼす。
CX-5の場合、大き目の突起を乗り越えてもブル感はほとんど生じないし、ばね下のバタつきもほぼ気にならないレベルに抑え込まれている。おかげで車体の揺れ方がシンプルになり、上下動のパターンが少なくなったことは大きな美点だ。ドライバーは運転のリズムを組み立てやすくなるし、パッセンジャーの疲労感も低減されるはず。ボディとシャシーの剛性が十分に確保されていなければ、このようにすっきりとした車体の動きは実現できない。SKYACTIVボディ&シャシーの基本的な能力は、欧州車とほぼ遜色ないレベルに達したと評価していいだろう。
ただし、セットアップには煮詰めの余地が残っている。まずは操舵の手応えが「一定すぎる」印象だ。コラムアシスト式で生じがちな雑味を抑え込んだ点は高く評価するが、舵角の増減や路面の状況によって生じるべき手応えの変化まで平滑化しすぎている感がある。現状では、ドライ路面でも圧雪路面でも手応えが変わらないのではないか。もう少し「生」感が欲しい。
もうひとつ、ライントレース性も気になる。旋回姿勢が落ち着くまでのロールイン時に、リヤのトーが働いてヨーが減少傾向となり、ラインアウトやヘッドアウトを起こさないよう、微量の切り増しが必要になる。逆にロールが戻る過程ではリヤのトーが緩み、リヤのせり出しを意識させられる一瞬がある。気にしなければ見過ごせるレベルだが、日常領域の要となるところだけに、もう少し欲張ってしつけたい。
言葉を換えると、従来はそれこそ「ブル感」の類でマスクされていた事象が、CX-5ではボディとシャシーのレベルが高度化したからこそ露呈するようになったとも言える。SKYACTIVボディとシャシーの「素材」としての能力の高さは確認できた。チューニングの煮詰めによって、動きの質感をいっそう高めることは十分に可能なはずだ。
SKYACTIVシャシーのフロントサスペンションはマクファーソン・ストラット式。従来、アテンザなどにはダブルウィッシュボーン式を採用していたが、シャシーの世代交代にともなって再検討した結果、スペース効率、部品点数削減、軽量化などの点でメリットが得られ、性能面も設計しだいで従来同等以上のレベルを確保できると判断された結果だ。昨今は欧州車のDセグメントでもマクファーソン・ストラットが主流となっており、時流に即した構成とも言える。
ダンパーのサプライヤーはショーワ。
ロワーアームはスチール製。上下別のプレス成形品を溶接で張り合わせた、いわゆる「モナカ」タイプのボックス構造を採用。厚手の鋼板を採用して基本的な強度・剛性レベルを確保しておき、全体の構造面で剛性バランスと軽量化を図ったと推測できる構成で、コストと強度・剛性の妥協点を大きくレベルアップさせている印象を受けた。ピボットは前側、後側とも路面と平行に軸を設定している。アンチロールバーリンクはストラット直付けでレバー比は良好。
ハブキャリアはスチール製。見落とされがちな部分だが、構造、製法ともに刷新されている。必要最小限のサイズに切り詰めた形状の中で、大きな力にさらされがちな部分は思い切って厚みを増し、細かくリブを立てるなど、細部に渡る強度・剛性確保への配慮がはっきり見て取れる構造。
SKYACTIVシャシーのEPSはコラムアシスト式を採用。CX-5用システムのサプライヤーはジェイテクトで、モーターとコントローラーを一体化したユニットは、トヨタ86/スバルBRZなども採用しているもの。ステアリングギヤボックスは、左右対称位置の4点でクロスメン バーにねじ留めしている。
クロスメンバーはスチール製のプレス工法+溶接構造。横置きFF用のセオリーにのっとった井桁型の構成。前突時のエネルギーを所定の方向と場所へ分散しながら導くことを目的に、前後方向部材をいっそう直線的な配置とした構造である。後方排気+管長の長い4-2-1集合エキマニを持つSKYACTIV-Gエンジンを収めるため、エンジンおよびトランスミッションのマウント方法も根本から見直されているようだ。また、ロワーアーム前側ピボットからセンターメンバー(横方向の後側部材)メイン部材までのスパンを短縮し、さらにセンターメンバーそのものの前後方向スパンも大きく取る事で構造最適化を図り、強度・剛性と重量のバランスを改善している。製法の面ではフランジレス構造を採用し、接合剛性を高めるとともに軽量化への貢献も実現している。
ボディマウントの前側はクロスメンバーから角状に突出させたブラケットをサイドメンバー部に接合。後側は内外配置の4カ所。アンチロールバーの陰に顔を出している円筒形の物体が外側マウントで、ロワーアーム後側ピボット用のブラケットを共締めする構造としている。
リヤサスペンションは、伝統の「E型マルチリンク」をベースとして改良を加えた構成。舟形のロワーリンクにスプリングのロワーシートを設け、がっしりとしたアッパーリンクを備えてキャンバーを確実にコントロールするといった基本思想は継承しながら、トレーリングリンクのピボット位置を大きく持ち上げるなど、基本的なジオメトリーをより理想に近付けている。サイドメンバーの構造を一新し、ボディとの接合剛性を高めるなど、細部にわたって基本に忠実な構成を徹底している。
ダンパーのサプライヤーは日立オートモティブシステムズ。
アッパーリンクはスチールの鍛造製。一見しただけでいかにも強度・剛性が高そうな構造。設計チームの「ヤル気」が伝わってくる。ロワーリンクはスチール製のプレス工法。舟形で内側にスプリングロワーシートを設けた構造。1G状態で若干の前傾角が付けられており、ハブ側高さをほぼ同じとしているトーコントロールリンクとの長さの違いによって、ストロークに応じたトー角の制御を行う。トーコントロールリンクはスチール製。ハブ側のピボット位置の高さをほぼ同じに設定し、リンク長の違いを利用してストロークに応じたトー角の制御を行なう。
トレーリングリンクはスチール製でプレス工法。SKYACTIVシャシーの特徴点のひとつで、ボディ側のピボットを高々と室内側に持ち上げ、リセッション角を増大させている。このような設定とすることで、突起乗り上げ時などにトレーリングリンクに作用する前後方向の力が、リンクの上下軌跡の中でブッシュに作用する効率が高まり、突き上げ感低減などの効能が得られる。同時に、リセッション角が車軸後方に位置するジオメトリーによってアンチリフト効果が高まるため、加減速時の車体挙動が穏やかになり、制動距離短縮などの効果も得られる。欧州のCセグメント以上の車種では半ば常識化している構成だが、日本車でここまで明確かつ強い意志を持って実現した例は初めてではないだろうか。
アンチロールバーのリンクは、ピボットをロワーリンクのスプリングシート内側に設定するため、レバー比が大きく、作動効率は低い。
ハブキャリアはスチール製。このイラストではハブ接合部分が確認できないが、フロントと同様、必要最小限のサイズに抑えながら、強度・剛性確保のため、必要な部分には思い切って厚みを確保するなど、非常に凝った構造。引き出し線の起点は、トレーリングリンク接合用のブラケット部で、ここも一体成形だ。
クロスメンバーはスチール製でプレス+溶接工法。従来のものから構造を刷新。井桁型の横方向部材は前側、後側とも天地方向の長さを大きく確保して基本的な強度・剛性を高めた。また前後方向部材は前後端を大きく外側に突出させ、半円を描くような3D形状。ダンパー以外の構造物を低く抑えて車室空間を確保しながら、構造全体で強度・剛性を確保するとの考え方に見える。
ボディマウントについては、クロスメンバー前後方向部材の前端と後端にボディマウントを設定している。