マツダが新しいトライをするときに用いるモデル名「MX」。最新のクロスオーバーには、このMXが付けられた。MX-30である。新しい価値の創造にトライした新しいクルマ。マツダブランドの幅を拡げることを目標に開発されたMX-30。ファーストインプレッションをジャーナリスト、世良耕太が語る。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
MX-30はマツダの新しいクルマだ。「そんなこと言われなくてもわかっている」と反論されそうだが、これまでの路線と異なるという意味で新しい。デザイン面でマツダのメインストリームの先頭を走っているのは、MAZDA3であり、CX-30だ。新世代商品群の第1弾と第2弾である。
マツダは2010年に「魂動(こどう)デザイン」のテーマを設定し、CX-5やアテンザ(マツダ6)、アクセラ、デミオ(マツダ2)、ロードスター、CX-3などすべてのモデルを統一性のあるデザインで整えてきた。その魂動デザインの2巡目が、マツダ3とCX-30である。光の当たりかたによって表情が変わるエモーショナルなデザインに進化している。
MX-30は明らかに、マツダ3やCX-30と違うラインを走っている。それもそのはずで、開発責任者の竹内都美子主査には、「新しい価値を考えて作りなさい」というテーマが与えられたのだという。
「新しい価値とは技術や機能ではなく、その商品を手にとったときにどう感じるか。その商品と過ごしたときにどういう生活をもたらしてくれるのか。お客さまの心にフォーカスを当て、そのために技術を使おうと意識を切り換えました」
「自然体のプロダクトがいいね」という話にまとまったと、チーフデザイナーの松田陽一氏は補足した。気に入ったものがあったら買おうかな、という心持ちでセレクトショップに入り、思わず所有欲を刺激されるアイテムに出会う。そんな選ばれ方を想定しているのかなと勝手に想像した。
「これ欲しい」と思ってもらうためには、気を引くポイントがなければならない。そのひとつがフリースタイルドアであり、フローティングコンソールだ。エアコンの操作部は物理スイッチではなくタッチディスプレイにした。ドアグリップの手に触れる部分にコルクを用いているし、ドアトリムのアッパー部分にペットボトルのリサイクル原料を用いた繊維素材を使用。リサイクルファブリックを使ったシートも、所有欲を刺激するポイントだ。これらの素材は、「アピアランスの良し悪しだけではなく、裏にストーリーがある」ことが大事だという。
MX-30はCX-30と同様で空力も凝っているが、凝っていることを露骨に見せていない。技術や機能で訴えるクルマではないからだ。例えば、リヤのコンビネーションランプは、バックドアを降りてくる上からの流れとサイドからの流れがぶつかるポイントに位置しているが、シリンダー形状はただデザイン的にそうしただけではなく、流れをうまく整流させて抵抗(ドラッグ)を減らすのに役立てている。
バックドアの上部はルーフを通ってきた流れとボディサイドを通ってきた流れがぶつかるポイントで、凝った門型の樹脂パーツを取り付けて空気の流れを整えるのが一般的だ(CX-30を見るとよくわかる)。MX-30は門形の樹脂パーツを採用するかわりにバックドアの縁に折れ目をつけて空気が巻き込まないようにし(巻き込んで渦ができると、それが抵抗になる)、要求性能を満足させた。「技術が露骨に出る表現はしないようにしました。でないと、自然体な感じになりませんから」と、松田氏は説明した。
もうひとつ付け加えておくと、ルーフスポイラーの後端はわずかに跳ね上がったダックテール形状になっている。わずかな反りだが、これがハンドリングに効いているという。
技術は裏に隠れており、万事控え目だ。試乗目的でMX-30に対面したときの第一印象は「上品だな」というものだった。ホワイト内装と(デニム調生地にリサイクル材を使用した)ブラウン内装の両方を確認したが、個人的には、明るくカジュアルなホワイト内装が気に入った。センターオープン式のフリースタイルドアは後席への乗り降りのしやすさをセールスポイントのひとつに掲げているが、手荷物を放り込むのにちょうどいいし、決して広いとはいえないその空間は、住宅に例えればデンやアルコーブのようなこぢんまりした隠れ部屋的な雰囲気を漂わせている。
それにしても、驚いたのは価格だ。希望小売価格は200万円台の中盤である。実車をさんざん眺め倒してイメージした価格より2〜3割低い。視覚で受ける印象だけでなく、触感もいいし、MX-30で初めて採用したATシフターの操作性をはじめ、操作スイッチ類の操作感がいい。見るだけでなく、触れても上品だ。「シンプルで、全体が一体感のある空間にしたかったので、それならダイヤルじゃない」(松田氏)と採用したタッチパネルディスプレイ式のエアコン操作パネルは、見た目に上品だし、初めてでも直感的に操作できた。
MX-30は動かしても上品である。エンジンはガソリン1機種しか設定がない。2.0ℓ直4自然吸気(115kW/199Nm)と6速ATの組み合わせである。2WD(FF)のほかに4WDの設定もある。車両重量は2WDで1460kg、4WDで1520kgだ。市街地を周囲の流れに合わせて走るぶんには、エンジン回転は低いまま推移して過度に主張せず、あくまで上品である。発進や追い越しなどで強めの加速をしようとするとエンジン回転が高めに推移して大きめのノイズが耳に届くようになるが、乾いた音色にチューニングしてあるせいか、さほど耳障りではない(もっと控え目だとありがたいが)。
2.0ℓ直4自然吸気ガソリンエンジン(SKYACTIV-G 2.0)を積んでいるのはマツダ3やCX-30と同じだが、MX-30のそれはマイルドハイブリッドシステムのM-HYBRIDを組み合わせているのが特徴だ。SKYACTIVエンジンにM-HYBRIDを組み合わせたシステムをマツダはe-SKYACTIVと名づけた。M-HYBRIDはマツダ3とCX-30のSKYACTIV-X搭載車に設定済みだが、SKYACTIV-G 2.0に組み合わせるのはMX-30が初めてだ。
M-HYBRIDはベルト式インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ISG)とリチウムイオンバッテリー、M-HYBRIDの24Vと、その他の車載システムに使う12Vの電圧変換を行なうDC-DCコンバーター、それに、油圧ブレーキと回生ブレーキの協調制御を行なう回生協調ブレーキシステムで構成される。
このシステムの特徴のひとつは「マイルド」とはいえ、燃費向上に貢献することだ。M-HYBRIDがもたらす燃費の取り分は実際の使用シーンではなかなか実感しづらいが、アイドルストップ後の再始動は信号などで停止するたびに体感できるし、そのたびに感激する。極めてスムーズだからだ。M-HYBRIDの再始動は、一般的なアイドルストップ機構のようにクランキング音はせず、瞬時に、振動を感じさせず完了する。注意を払わなければ、再始動したことさえ気づかないほどだ。
この上品な振る舞いが、上品な見た目と触感と走りで統一されたMX-30とものすごくマッチしているように感じた。一度味わったら後戻りできない「良さ」がある。
マツダMX-30(2WD)
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1550mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式&トーションビームアクスル式
駆動方式:FF
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
型式:PE-VPH(e-SKYACTIV-G2.0)
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5×91.2mm
圧縮比:13.0
最高出力:156ps(115kW)/6000pm
最大トルク:199Nm/4000rpm
燃料:レギュラー
燃料タンク:51ℓ
交流同期モーター
型式:MJ型
最高出力:6.9ps(5.1kW)/1800rpm
最大トルク:49Nm/100rpm
トランスミッション:6速AT
燃費:WLTCモード 15.6km/ℓ
市街地モード 12.3km/ℓ
郊外モード 16.1km/ℓ
高速道路モード 17.2km/ℓ
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:242万円
MX-30 2WD 242万円
4WD 265万6500円
ベーシックシックパッケージ:7万7000円
セーフティパッケージ:12万1000円
ユーティリティパッケージ:8万8000円
360°セーフティパッケージ:8万6880円
ボーズサウンドシステム:7万7000円