Honda eの日本での販売目標は年間1000台である。ファーストロットはすでに売れ切れている。小さくて航続距離も長くないのに高価(ベースモデルで451万円もする)なHonda eだが、それでも「欲しい!」と思わせるなにかがある。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
Honda eが欲しい! どうせなら、Advanceが欲しい! 491万円
みなとみらい新港地区の横浜ハンマーヘッドを基点に小一時間Honda eをドライブしたが、その間ずっと、どうしたら問題を抱えたこのクルマを所有することができるか考えていた。答えは見つかっていないが、所有欲は刺激されっぱなしだ。考える時間ができたという意味で幸いにして(?)、Honda eの注文は一時停止中である。第一期の販売予定台数に達したからだ。
順不同で問題を列挙していくと、その1は価格である。ベースのHonda eは451万円。マルチビューカメラシステムやプレミアムサウンドシステムなど、装備が充実したHonda e Advanceは491万円だ。前者のタイヤは16インチ、後者は17インチである。モーターの出力もAdvanceのほうが高い。どうせなら、Advanceが欲しい。
そうなると、500万円弱になる。クルマの値段はサイズに比例すると相場は決まっている。車両サイズはほぼ同等なのに、フィットなら2台は買える値段だ。しかし、Honda eには代えがたい魅力があって、だから悩ましい。
その2は航続距離だ。でもシングルペダルコントロールがいい。走りが楽しい
問題その2は電気自動車(EV)であることだ。もともとHonda eはヨーロッパの街なかで使うことを前提に企画されているので、車両サイズが小さければ、バッテリー容量も小さくなる。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は35.5kWhだ。実用電費が4〜5km/kWhとして、電池切れの不安なく乗れるのは120〜130km程度だろう。片道100〜150km程度のドライブを頻繁に行なう身としては、なかなか厳しい。そもそも、保管場所に充電設備が必要だ。
解決すべきハードルは複数あるが、どうやったらHonda eをメインカーとして成立させることができるのかを妄想するのは楽しい。なにしろ、かわいい。いろんなラインや折れ目が錯綜せず、すっきりしたラインと面で構成されているのがいい。線や面をそぎ落としていくと味気なくなりがちだが、Honda eはそうは感じさせない。
ポップアップするドアハンドルは「新しいもの」に触れる喜びを感じさせる。サイドウインドウのグラフィック内に埋め込んだリヤのドアハンドルは完全にデザイン重視で、使い勝手は後回しだ。しかし、その割り切りがいい。フロントもリヤもフツーのドアハンドルだったら、Honda eはつまらないクルマに見えたかもしれない。
しかも、エンジンやトランスミッションを積んだクルマのような騒々しいノイズとは無縁だ。ほとんど無音である。モーター音もよく押さえ込まれていて、モーターを積んでいることすら感じさせない。アクセルペダルを踏むと、見えない何かの力でスッと動いているような錯覚すら覚える。専用設計の車体と前後のサスペンションは車輪への入力を上手に制御し、Honda eをスポーティに走らせる。それでいて、快適性は損なっていない。サスペンションは前後ストラット式で、フロントのロワーアームには(軽量化のため)アルミ鍛造品を採用した贅沢な設計だ。
Honda eはアクセルペダルの動きだけで加速側だけでなく減速側もコントロールできるシングルペダルコントロール(SPC)を採用した。オンオフはDレンジボタンの後方にあるボタンで切り換えることができる。SPCがオフの場合、アクセルオフ時は惰性で走り、回生ブレーキによる減速は行なわない。ただし、アクセルオフ時にステアリング裏のパドルを操作すると回生ブレーキによる減速度が発生する(次のアクセルオン時に解消)。
Honda eはインテリアもいい。シアターのスクリーンのような、横一面のディスプレイにも目を奪われる。「将来のクルマの姿を体験していただく思想を取り入れている」と、開発を担当したエンジニアは説明する。先取りしたのは、完全自動運転が実現した世界だ。そうなると、常に前方を注視していなくてもよく、ステアリングから手を離していられる時間が長くなり、ディスプレイに目を向けられる時間が長くなる。そうなった時代をイメージしたインテリアだ。
だからだろうか、クルマが動いていないときの居心地がいい。モダンな家の、あるいはホテルの客室のインテリアを思わせる。「これ、リモートで作業するのにいいんじゃない?」(エンジン車と違ってシステムを起動していても外に騒音出ないし)と思ったが、ビジュアルコンテンツを楽しむ環境としてもいいかもしれない。おあつらえ向きにHDMI端子がついているし、クルマ自体が常時インターネットに接続しており、車内Wi-Fiが整備されている。なんなら車内プレゼンや車内会議も可能だ。それは、いやか。
5つ並んだスクリーンの両サイドの2つは、サイドカメラミラーシステムのディスプレイ(6インチ)だ。これ、見やすくてとてもいい。外についていた大きなミラーがなくなって、左右の視界がすっきりしたのもいい。Honda eは「これいいな」と思わせるところがひとつやふたつではなく、たくさんある。購入をためらわせるハードルもあるが、それをなんとか解決してものにできないかと思わせる魅力が詰まっている。
モーターがもたらす走りが大きな魅力のひとつだし、それありきのパッケージングなのは承知している。だが一応、「モーターの代わりにエンジン積めませんか?」と開発担当者に聞いてみた。「無理です」と即答された。
Honda e Advance
全長×全幅×全高:3895mm×1750mm×1510mm
ホイールベース:2530mm
車重:1540kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rマクファーソン式
モーター形式:交流同期モーター
モーター型式:MCF5型
定格出力:60kW
最高出力:154ps(113kW)/3497-10000rpm
最大トルク:315Nm/0-2000 rpm
電池:リチウムイオン電池
総電力量:35.5kWh
総電圧:355.2V
WLTC交流電力量消費率:138Wh/km
一充電走行距離WLTC:259km
車両価格○495万円