ホンダは「クラス最強」を目指し、1982年(昭和57年)に水冷2スト49cc 7.2馬力フルパワー&前後18インチのフルサイズモデル「MBX50」をリリース。5年後、バイクブーム真っ只中の1987年(昭和62年)には、水冷2スト49cc 7.2馬力フルパワー、前後17インチに1サイズ小径化した「NS50F・エアロ」を発売。NS50Fはストリートや峠もちろん、ミニバイクレース・SP50クラスの定番モデルとしても大活躍した。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
水冷2スト49cc 7.2馬力エンジン、17インチのアルミ製キャストホイール、前2.75/後3.00のワイドタイヤなどを採用
一体感のある、流れるようなエアロデザインを採用
1982年(昭和57年)2月に登場した前身のMBX50は、前年の1981年(昭和56年)に登場したヤマハ RZ50に続き、水冷式の2ストロークエンジンを搭載。50ccクラス最強の最大出力7.2馬力(メーカー自主規制上限値)を誇った。
1979年(昭和54年)に登場した前々身であるホンダ初の2ストスポーツモデル・MB5は、空冷で7.0ps/9000rpmを発揮。一方、MBX50は7.2ps/8500rpmとなり、500回転低い回転数で最高出力を発揮。クラス最強ながら、扱いやすい特性がポイントだった。
バイクブーム真っ只中の1987年(昭和62年)、ホンダは前後17インチの軽量&高剛性アルミ製キャストホイール(S字断面スポーク)や、新パターンの幅広タイヤ(前2.75/後3.00)を採用した2ストゼロハンスポーツの後継モデル、NS50F・エアロを発売。なお、前後18インチのコムスターホイールを採用したMBX50Fの最終モデルは、しばらくNS50F・エアロと併売された。
外観は兄貴分のCBR750RエアロやCBR400Rエアロなどに採用されていた、フロントからテール部に向かって流れるようなエアロデザインを採用。シートカウルの後部(シートの後ろ)には小物入れを装備するなど、実用性も重視。
レーサーレプリカ全盛時代はフロント16インチや17インチが定番
【MBX50F】
全長×全幅×全高:1920mm×675mm×1105mm
軸距:1255mm
乾燥重量:82kg
シート高:770mm
フレーム形式:セミダブルクレードル
タイヤサイズ:前 2.50-18-4PR 後 2.75-18-4PR
サスペンション:前 テレスコピック 後 スイングアーム(プロリンク)
エンジン:水冷2サイクル単気筒 49cc
内径×行程 :39.0mm×41.4mm
圧縮比:7.2
最高出力 (PS/rpm):7.2/8500
最大トルク (kg-m/rpm):0.65/7,500
燃費(km/L)30km/h定地走行テスト値:65
キャブレター型式:PF16
始動方式:キック式
点火方式:CDIマグネット
燃料タンク容量 (L):12.0
ミッション:6速
キャスター:26゜30′
トレール:72mm
【NS50F・エアロ】
全長×全幅×全高:1855mm×630mm×1065mm
軸距:1260mm
乾燥重量:79kg
シート高:760mm
フレーム形式:セミダブルクレードル
タイヤサイズ:前 2.75-17-4PR 後 3.00-17-4PR
サスペンション:前 テレスコピック 後 スイングアーム(プロリンク)
エンジン:水冷2サイクル単気筒 49cc
内径×行程 :39.0mm×41.4mm
圧縮比:7.2
最高出力 (PS/rpm):7.2/8000
最大トルク (kg-m/rpm):0.65/7,500
燃費(km/L)30km/h定地走行テスト値:61.5
キャブレター型式:PF70
始動方式:キック式
点火方式:CDIマグネット
燃料タンク容量 (L):10.0
ミッション:6速
キャスター:25°30′
トレール:70.0mm
ホイールベースは1260mmでNS50F・エアロが5mm長い。しかし実車を見てみると、前後18インチホイール採用のMBX50Fに比べ、前後17インチホイールがチョイスされたNS50F・エアロの外観は、やや小柄なイメージ。重量はNS50F・エアロが3kg軽く、前後は1サイズ拡大されている。
水冷式2ストロークエンジンは、両車ともホンダ2スト50ccの定番であるボア39.0mm×ストローク41.4mmのロングストローク型で、型式も同じAC08E。ミッションはどちらも6速とし、1速~6速の変速比はまったく同じ。
最高出力はどちらもメーカー自主規制一杯のフルパワー7.2馬力だが、NS50F・エアロは500rpm低い回転数でMAXパワーを発揮。最大トルクも同じ。
NS50F・エアロは1987年(昭和62年)2月に発売。4ヶ月後の1987年(昭和62年)6月には、ホンダのワークスマシン「NSR500」を3/4サイズで再現したNSR50/80が登場。両車はややキャラクターの異なるホンダの2大スポーツゼロハンとして共存した。両車を比べてみると、
【NSR50(初期型)】
全長×全幅×全高:1580mm×625mm×910mm
軸距:1075mm
乾燥重量:85kg
シート高:665mm
フレーム形式:ダイヤモンド(ツインチューブ)
タイヤサイズ:前 100/90-12 48J 後 120/80-12 54J
サスペンション:前 テレスコピック 後 スイングアーム
エンジン:水冷2サイクル単気筒 49cc
内径×行程 :39.0mm×41.4mm
圧縮比:7.2
最高出力 (PS/rpm):7.2/10000
最大トルク (kg-m/rpm):0.65/7,500
燃費(km/L)30km/h定地走行テスト値:61.4
始動方式:キック式
点火方式:CDIマグネット
燃料タンク容量 (L):7.5
ミッション:6速
キャスター:25° 00′
トレール:70mm
【NS50F・エアロ】
全長×全幅×全高:1855mm×630mm×1065mm
軸距:1260mm
乾燥重量:79kg
シート高:760mm
フレーム形式:セミダブルクレードル
タイヤサイズ:前 2.75-17-4PR 後 3.00-17-4PR
サスペンション:前 テレスコピック 後 スイングアーム(プロリンク)
エンジン:水冷2サイクル単気筒 49cc
内径×行程 :39.0mm×41.4mm
圧縮比:7.2
最高出力 (PS/rpm):7.2/8000
最大トルク (kg-m/rpm):0.65/7,500
燃費(km/L)30km/h定地走行テスト値:61.5
始動方式:キック式
点火方式:CDIマグネット
燃料タンク容量 (L):10.0
ミッション:6速
キャスター:25°30′
トレール:70.0mm
前後17インチホイールを採用したNS50F・エアロは、街乗りやツーリングなどでの扱いやすさを重視したモデル。一方、前後12インチのNSR50は、「M50クラス(ミッション付ノーマル)」や、「SP12クラス(ミッション付準改造)」などのミニバイクレースで勝つために開発されたモデル。水冷2スト49ccエンジンは、どちらも同型のAC08Eだが、NSR50は1万rpmで最高出力を発揮する高回転型にセッティングされている。
原田哲也、加藤大治郎、阿部典史(ノリック)、青木三兄弟(宣篤、拓磨、治親)、中上貴晶などの日本人世界(Moto)GPライダーは、ミニバイクレースシーンにおいてNSR50やNS50F/Rで経験を積み、ロードレースにステップアップ。特にNSR50は「世界(Moto)GPライダー養成マシン」と呼ばれることもあった。
前後12インチのNSR50は、NS50F・エアロよりも6kgヘビー(フルカウル装着のため)。ミニバイクレースでは大柄なライダーの場合、コンパクトなNSR50はポジションが窮屈に感じられるため、ポジションに余裕のあるNS50FやNS50Rがセレクトされる傾向が強い。
世界チャンプ・加藤大治郎もミニバイクレース駆った!MBX50/F、NS50F/R、NSR50
NSR50は「Nチビ」、NS50Fは「ゴエフ」の愛称で親しまれ、ミニバイクレースでも大活躍した。
ミニバイクレースにおいて、12インチのNSR50は「M50クラス(ミッション付ノーマル)」や「SP12クラス(ミッション付準改造)」、MBX50/FやNS50F/Rは13インチ以上を対象にした「SP50クラス(ミッション付準改造)」に用いられた。
12インチのSP12クラスでは、NSR50にはヤマハのTZM50Rというライバル車も存在。しかし13インチ以上のSP50クラスでは、NS50F/Rにライバル車はなく、今日までほぼワンメイクの状態で続いてきた。
HRCが手掛けたレース専用モデル・NS50R……1987年(昭和62年)
「CB50系のホンダ縦型エンジン搭載」のNS50F/Rは、今ではSP50クラスの定番
ミニバイクレースの最高峰ともいえる、モトチャンプ杯(月刊モト・チャンプ誌主催)。このレースの「SP50」はミッション13インチ以上・準改造のクラスだが、2020年現在、2スト50ccに加え、4スト100ccエンジン搭載のマシンも出場可能。写真上は、2014年モトチャンプ杯全国大会において、「SP50クラス」チャンピオンに輝いたNS50R改。ライダーは太田選手。
NS50Rの車体に、ホンダの小排気量4ストスポーツモデル・CB50の血統を引き継ぐ、XR100モタード用のホンダ縦型エンジンをスワップ。4ストマシンの弱点であるエンジンの熱ダレ対策のため、オイルクーラーを2個装着して冷却効率をアップ(上下に2個装着して前部にカバーを装着)。マフラーはウインドジャマーズ製アップ型(管長を短くしたワンオフ)をチョイス。キャブレターはヨシムラ製TM-MJN。
1988年(昭和63年) 出力特性の向上&カラーリングを一新
水冷2サイクル単気筒エンジンの吸排気や掃気ポート形状を徹底追求し、小型化したサイレンサーを装備したマフラー形状や排気タイミングの変更などにより、燃焼効率を向上。低・中速域から高速域までを、いっそう力強い出力特性を発揮するものとし(最高出力→7.2/8000から7.2ps/10,000に変更。これはNSR50と同じ)、6段変速のミッションやエンジン振動を低減させる一軸バランサーなどとあいまって、スポーツ性を強調しながらも長距離ツーリングにも適した設計に変更。
足周りは新たにニューパターンの幅広タイヤを採用。カラーリングは精悍なイメージのダーク・ブルーメタリックと、HRCレーサーイメージのレッド&ホワイトを採用し、よりスポーティで本格的なものとした。当時の発売価格は21万5000円。
1989年(平成元年) デュアルヘッドライトを採用
正式車名が「NS50F/エアロ」から「NS50F」に変更。新たにレンズ一体式のデュアルヘッドライト(淡黄色クリプトンバルブ・18W/18W×2)を採用。長距離ツーリングに適した基本設計に加え、夜間走行などでの使い勝手も向上。カラーリング&デザインも変更。当時の発売価格は22万5000円。
1990年(平成2年) カラーグラフィックを変更
カラーグラフィックを変更。エンジンや足周りに変更はない。225,000円
型式:A-AC08
全長×全幅×全高(m):1.855×0.630×1.065
軸距(m):1.260
最低地上高(m):0.170
シート高(m):0.760
車両重量/乾燥重量(Kg):92/79
乗車定員(人):1
燃費(km/L)50Km/h定地走行テスト値:56.0
最小回転半径(m):2.4
エンジン型式:AC08E 水冷2サイクル単気筒
総排気量(cm3):49
内径×行程(mm):39.0×41.4
圧縮比:7.2
最高出力(PS/rpm):7.2/10,000
最大トルク(kg m/rpm):0.65/7,500
キャブレター型式:PF70
始動方式:キック式
点火装置形式:CDI式マグネット点火
潤滑方式:分離潤滑式
潤滑油容量(L):1.2
燃料タンク容量(L):10.0
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
変速機形式:常時噛合式6段リターン
変速比:
1速 3.545
2速 2.333
3速 1.722
4速 1.380
5速 1.217
6速 1.130
減速比(1次/2次):4.117/2.928
キャスター(度)/トレール(mm):25°30′/70
タイヤサイズ:
前 2.75-17-4PR
後 3.00-17-4PR
ブレーキ形式:
前 油圧式ディスク
後 機械式リーディング・トレーリング
懸架方式:
前 テレスコピック式
後 スイングアーム式
フレーム形式:セミダブルクレードル