Vストロームが往年のパリダカマシンのイメージを纏った新型として再デビュー。よりパワフルに電子制御をフル装備した新生Vストローム1050として蘇った。今回はその上級バージョンである「XT」に試乗、ストリートやダートを走ってみた。
REPORT●佐川 健太郎(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
スズキ・Vストローム1050XT......1,518,000円(消費税込み)
“ファラオの怪鳥”をオマージュ
新型Vストローム1050にはキャストホイールのSTD仕様とワイヤースポークホイールにエンジンガード類を標準装備した「XT」がある。XTは電子制御も充実させた上級バージョンの位置づけで、アドベンチャー色をより強く打ち出したモデルである。
ベースは従来型のVストローム1000で、エンジンやフレームの基本は踏襲されているが、デザインが新しくなって見た目がぐっとオフ車っぽくなった。その最大の要因はビークと呼ばれるクチバシ状のフロントカウル。これが直線的に鋭く伸びた形状となり、かつて“ファラオの怪鳥”と呼ばれたパリダカマシン「DR-Z(ジータ)」を彷彿させる風貌が与えられた。ちなみに試乗車の赤×白のカラーリングも実は1988年にスズキから参戦したファクトリーマシンをイメージしたもので、もうひとつの色設定も同じくチャンピオンイエロー。その意味でも、スズキはこの新型Vストローム1050を以って、本格的なアドベンチャー戦線へと名乗りを上げたと言えるのだ。
よりパワフルに電制も進化
Vストローム伝統の水冷V型2気筒エンジンは排気量こそ1036ccと従来型と変わらないものの、吸排気系やカムシャフトの改良により7psアップの106psへと強化。フル液晶ディスプレイに2段階調整式のウインドシールドも新たに装備された。
電子制御系も大幅進化。新たにボッシュ製6軸IMUが採用され、車体姿勢に連動したコーナリングABSの他、坂道やタンデムなどに対応して最適なブレーキ制御を行う。また、3段階の走行モードを選べるSDMSや、3段階+OFFの4モードを備えたトラクションコントロールも装備。高速走行に便利なクルーズコントロールやスムーズな発進をサポートするスズキ十八番のイージースタートシステムやローRPMアシストを搭載するなど、ハイテク満載のアドベンチャーツアラーへとアップデートされている。
まるでレシプロエンジンの教科書
車体は大柄だ。シート高も850mmと低くはないし、装備が充実しているXTは車重も250kgに迫る重量級マシンである。跨ってみると従来型に比べハンドル位置が少し高くなった感じ。スペックを見る限り車格やライポジは従来と変わらないはずだが、自分の記憶では従来モデルのほうが、よりロードスポーツ的だった気がする。スクリーンが高くなりメーターもフル液晶タイプとなるなど、コックピットまわりも洗練された。
Vストローム系の水冷Vツインエンジンの出来には毎回感心してしまう。低速から高速まで全域でスムーズかつ力強く、スロットルを開けた分だけフラットにパワーが立ち上がってくる。低中速には粘りがあって高回転までよく伸びる。まるでレシプロエンジンの教科書のようなエンジンなのだ。Vツインであっても変にドコドコ感を主張することなく、扱いやすさとトラクション性能を引き出すことに注力している。従来モデルでやや気になっていた極低速でのトルクの細さも解消された。
かつてはスポーツツアラーSV1000Sに搭載され、さらに昔はスーパーバイクTL1000S/R系で筋金入りのカリカリチューンだったものが、20年の時を経てジェントルとも言える熟成の域に達したことが感慨深い。
走りの良さはスーパースポーツ譲り
走りはロードスポーツ的だ。スーパースポーツ並みの図太いツインスパーフレームとしっかりと減衰力の効いた前後サスペンションによって、高速コーナーやワインディングでの安定感も抜群。Vツイン独特の重心の高さとスリムさを生かしたダイナミックかつ軽快なコーナリングが楽しめる。
最新のボッシュ製6軸IMUが制御するコーナリングABSやトラコンによる安心感も大きい。たとえば、アスファルトが剥がれたような荒れた田舎道でも、あまり路面を気にせずに普段よりもリラックスした気分で走り抜けていける。実際のところ、電子デバイスが介入するような走りは褒められたものではないが、いざという時の保険として安心なのだ。
そして、本領を発揮するのはやはり高速クルージング。エンジンはスペック以上にパワフルで吹け上がりもスムーズで振動も少なめ。上体を伏せなくてもスクリーンが適度に走行風を和らげてくれる。SDMSも試してみたが、Aモードにすると爆発的に速い。考えてみればエンジンと車体はスーパースポーツ譲りである。余裕のパワーと盤石のスタビリティにも納得である。
無理しなければダートも楽しめる
新型はパリダカテイスト満点ということで、ダートにもトライしてみた。
ただ、アドベンチャー色の強い「XT」とは言え、基本的にオンロードセッティングの前後サスペンションに、ホイールもフロント19インチでタイヤもオン・オフ用のBS製「A41」と、あくまでも“軽めのダート仕様”。あまり期待していなかったが、結果は想像以上によく走ってくれた。
固くしまったダートやフラットな林道であれば、あまりオフロード経験がないライダーでも普通に走破できるはずだし、場所が許せばアクセルを開けつつ少しテールを流したりしてアドベンチャーごっこを楽しむこともできる。ちなみにダートを積極的に走りたい場合は、トラコンをオフにしてSDMSは穏やかなCモードがいい。2段階のABSも介入度を低く設定したほうがダートでは止まりやすいはず。また、リヤショックはダイヤル式で簡単にプリロード調整できるため、体重が軽い人は予め初期荷重を少し抜いたほうがリヤ車高も下がって操りやすくなると思う。ただし、車重があるので無理は禁物。特に深い砂利やゆるい土だと本格的なブロックタイヤを履かないと難しいだろう。
新型Vストローム1050XTは、ライダーなら誰もが持っている冒険マインドを満たしてくれるスポーツツアラーと言えるだろう。つまり、快適にロングツーリングを楽しみながら、そこにダートがあれば一歩踏み込んでいけるキャパを持ったマシンということ。そこまで求めないなら、少し割安なスタンダード仕様でも十分である。
Vストローム1050XT ディテール解説
V-STROM1050/XT 主要諸元
●カッコ内はXT
全長 / 全幅 / 全高 2,265mm / 870mm / 1,515mm(2,265mm / 940mm / 1,465mm)
軸間距離 / 最低地上高 1,555mm / 165mm(160mm)
シート高 855mm(850mm)
装備重量 ※1 236kg(247kg)
燃料消費率 ※2 国土交通省届出値:定地燃費値 ※3 29.2km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 ※4 20.3km/L(クラス3、サブクラス3-2) 1名乗車時
最小回転半径 3.0m
エンジン型式 / 弁方式 U502・水冷・4サイクル・V型2気筒 / DOHC・4バルブ
総排気量 1,036cm3
内径×行程 / 圧縮比 100.0mm × 66.0mm / 11.5:1
最高出力 ※5 78kW〈106PS〉 / 8,500rpm
最大トルク ※5 99N・m〈10.1kgf・m〉 / 6,000rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
点火方式 フルトランジスタ式
潤滑方式 ウェットサンプ式
潤滑油容量 3.5L
燃料タンク容量 20L
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング
変速機形式 常時噛合式6段リターン
変速比
1速 3.000
2速 1.933
3速 1.500
4速 1.227
5速 1.086
6速 1.000
減速比(1次 / 2次) 1.838 / 2.411
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター / トレール 25゜40' / 110mm
ブレーキ形式(前 / 後) 油圧式ダブルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前 / 後) 110/80R19 M/C 59V・150/70R17 M/C 69V
舵取り角左右 36°
乗車定員 2名
排出ガス基準 令和2年国内排出ガス規制に対応
※1:装備重量は、燃料・潤滑油・冷却水・バッテリー液を含む総重量となります。
※2:燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
※3:定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
※4:WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。
※5:エンジン出力表示は「PS/rpm」から「kW/rpm」へ、トルク表示は、「kgf・m/rpm」から「N・m/rpm」へ切り替わりました。〈 〉内は、旧単位での参考値です。