スズキ・ハスラーのライバルとして登場したタイハツ・タフトは、ダイハツの狙いとおりに売れている。ポイントは「前席優先」で「パーソナルな使い方」だ。ファーストカーとして充分以上のユーティリティと性能を持つタフトのターボモデルとNAモデルを試乗した。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
2020年6月の国内新車販売台数(軽自動車と商用車を除く)は18万2128台だった。軽自動車(乗用車)の販売台数は10万1764台だった。乗用車全体に占める軽自動車の割合は35.8%に達する。地域によって偏りはある(もっと比率の高い地域がある)が、販売されているクルマの3台に1台強は軽自動車なのだ。それだけ販売競争は激しいことを意味し、開発競争も激しくなって商品のクオリティが上がっていく……ように感じられる。
6月の軽自動車販売ランキングでトップ3を占めたのは、ホンダN-BOX(1万5557台)、スズキ・スペーシア(1万2072台)、日産ルークス(9431台)だった。7月のトップ3はホンダN-BOX(1万6222台)、スズキ・スペーシア(1万3338台)、ダイハツ・タント(1万3108台)である。3位が入れ替わっているが、6月も7月も、スーパーハイトワゴンに分類されるモデルが上位を独占していることに変わりはない。
6月10日に発売されたダイハツ・タフトはクロスオーバーのニューカマーで、すでに2代目に移行しているスズキ・ハスラーと競合する。どちらも、タフさを前面に押し出したエクステリアデザインが特徴だ。軽自動車の販売データを見ると、タフトは6月に初登場して9位にランク(5079台)。7月は8位(6300台)に順位を上げた。4500台の月販目標に対し、発売から1ヵ月で約1万8000台を受注したという。ダイハツの狙いはまんまと当たったというわけだ。
タフトは角張ったスタイルをしているため、絶対的なサイズは小さいけれども存在感はあり、力強さを感じる。前後のバンパーを切り欠いてタイヤトレッド面の露出を大きくしているのは、タフさを演出するためだ。パーソナルユースに割り切ったコンセプトなので、後席ドアはスライド式ではなくヒンジ式である。
ダイハツはタフトの前席を「クルースペース」、後席を「フレキシブルスペース」と名づけて役割を明確に切り分けている。ネーミングから想像できるように、前席重視の設計で、例えば、後席シートのスライド機構は不採用とした。機能はひとつ減ることになるが、得られるメリットのほうが大きいと判断したのだ。シートスライド機構を廃したぶんだけシート位置を下げることができ、充分なヘッドクリアランスを確保したうえで車高を抑えることができる。シート位置や車高を抑えることができれば重心の低下にも寄与するので、車両運動性能の面でもありがたい。
タフトのウリのひとつは全車に標準で装備する「スカイフィールトップ」だ。固定式のガラスルーフ(つまり、開閉しない)である。カーテンを開け閉めするように、手動式のシェードでガラス面を隠したり露出したりすることができる。この手のルーフは後席に乗らないと良さが味わえなかったりするのだが、さすがは「前席優先」のタフトだ。Aピラーが前方にあり、さらに角度が立っているので、運転者に対してかなり前方にガラスの起点が位置する。そのため、フロントウインドウ越しに前方を注視していても、頭上の開放感が存分に味わえる。
最新の軽自動車に乗るたびに質の高さに驚き、気配りに感心することしきりだが、タフトも例外ではない。ペットボトルの置き場所にも、スマホの置き場所にも困らないし、使いやすい位置にUSBのソケットがある。センターのディスプレイは9インチで充分な大きさがあり、スマホ連携機能を備えている(これはオプション設定)。電動パーキングブレーキは、いまや軽自動車でも標準になった電動式だ。
ヘッドライトは全車LEDである。衝突回避支援ブレーキ機能や衝突警報機能、車線逸脱抑制制御機能などの衝突回避支援機能は全車に標準装備。ターボエンジン搭載車(Gターボ)は、全車速追従機能付きACCとLKC(レーンキープコントロール)を標準で装備する。安全と快適に関する装備は登録車(5バンバー車/3ナンバー車)と変わらない。
前席優先に割り切れば、動力性能も充分だ。高速道路での本線への流入や追い越し加速では、パワーのあるターボのほうが明らかに有利だ。市街地を走る際の、信号からの発進もスムーズで静かだ。ターボエンジン(64ps/100Nm)を搭載するGターボ(2WD:160万6000円)と自然吸気エンジン(52kW/60Nm)を搭載するG(2WD:148万5000円)の価格差は12万1000円である。前述のように、Gターボは全車速追従機能付きACCとLKCが標準で装備されるので、Gにオプション(スマートクルーズパック:4万4000円)を選択して装備を揃えると、実質的な価格差は7万7000円になる。
ちなみに、メカ的な視点でG(自然吸気エンジン)とGターボを比較すると、両車ともにトランスミッションはCVTを組み合わせるが、機構は異なる。Gはインプットリダクション式3軸CVTを組み合わせるのに対し、Gターボはベルト式CVTとギヤ駆動を組み合わせた、より燃費性能の高いD-CVTを組み合わせる。D-CVTはダイハツの新しいプラットフォームであるDNGAの導入に合わせて登場したトランスミッションで、タフトはタント、ロッキーに次ぐ採用だ。
CVTの機構の違いが乗り味の違いに現れているというより、パワーのあるエンジンとないエンジンがもたらす違いのほうが大きい。似たような走りをしても、非力なGは高回転までエンジンを回すため、CVTに特有のヒューンという高周波音が目立つ。その音がターボチャージャーの音と似ているので、思わず「このクルマ、ターボだっけ?」と錯覚しそうになるほどだ。乗り比べれば違いは明確で、ターボは回転を上げずに欲しいだけの加速を提供してくれ、静かで頼もしい。さて、7万7000円の価格差をどう考えるか……。
ダイハツ・タフト G(FF)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1630mm
ホイールベース:2460mm
車重:830kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHC
型式:KF型
排気量:658cc
ボア×ストローク:63.0mm×70.4mm
圧縮比:11.5
最高出力:52ps(38kW)/6900pm
最大トルク:60Nm/3600rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:30ℓ
トランスミッション:CVT(ギヤ付き)
WLTCモード燃費:20.5km/ℓ
市街地モード17.6km/ℓ
郊外モード22.4km/ℓ
高速道路モード20.8km/ℓ
車両本体価格:148万5000円
ダイハツ・タフト Gターボ(FF)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1630mm
ホイールベース:2460mm
車重:840kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:KF型
排気量:658cc
ボア×ストローク:63.0mm×70.4mm
圧縮比:9.0
最高出力:64ps(47kW)/6400pm
最大トルク:100Nm/3600rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:30ℓ
トランスミッション:CVT(ギヤ付き)
WLTCモード燃費:20.2km/ℓ
市街地モード17.9km/ℓ
郊外モード21.9km/ℓ
高速道路モード20.3km/ℓ
車両本体価格:160万6000円
メーカーオプション:スマートパノラマパーキングパック7万1500円